なんでも売買! 街の便利なお店です!
「こんばんわ、いらっしゃいませ」
店を開けると、すぐに客が入ってくる。
ここは町の便利屋。もとい「何でも屋」だ。必要とあらばなんでも、どこからでも商品を仕入れてくる。
「すみません。あるかどうか聞きたいんですが」
50代くらいの紳士が、店のドアを開けて入ってきた。
「なんでしょう?」
「愛を探しています」
「お引き取りください」
金を出したら愛を買えるお店のチラシを渡して帰した。
まったく。ここをなんだと思っているのだろうか。
「いやいや、そういうのではなく!」
そっと「愛」と書かれた紙を手渡して帰した。
まったく。ここをなんだと思っているのだろうか。
「聞けっ! 最後まで! 話を!」
「うわ、くだらない話だ。それではまたのご来店をお待ちしております」
「何も言ってない!」
「どうで『女に裏切られました。真実の愛を探しています』的な話でしょう?」
「その通りです!」
「この世界に『真実の愛』だけは売ってないんですよ。いい加減わかる年でしょうに」
「いいや。そういうことではない」
「……どういうことですか?」
「真実の愛という名前が付いた首飾りを、探していただきたいんです」
「話が変わってきましたね」
「その首飾りは――」
長いので割愛すると、高くて立派で曰く付きの首飾りだそうだ。インディーとかルパンーとかそういうのだ。
「それを取り戻していただきたい!」
「無理ですねぇ」
「えぇー」
「だって秘密組織の諜報員で、相手の手に渡ってもう一月経っていて、向こうの基地が海外にあって、おまけに何千人も部下がいるとか。命がいくつあっても足りませんよ」
「何でも手に入れるのが、この店の売りでしょう!」
「そりゃこの町で、町の住民が消費する程度のことは何でもと、そう看板を掲げてますがね?」
「なら二丁目の田中さんが臓器を欲しがっていたと思うが、それを都合しよう」
「いや、臓器だけじゃぁ、割に合いませんし。それに時間はかかってもいいと言われているんですが……なんでそのことを?」
「一か月、遊んでたわけじゃない」
「あー……そのご立派な諜報員に、入手をさせて」
「試した。駄目だった。二度目はない」
「あー……。警戒が、強くなっているところに、一人で乗り込めと?」
「出来るだろう?」
「出来ないですね」
「看板に偽りあり、だな」
「……それとこれとは話が別じゃないですか?」
「5丁目の山下さんが欲しがっている実験体。その組織の人間を何人か連れてくるのを可能にしよう」
「……そっちはもうアテがありまして」
「死刑囚より、生きのいい奴らが手に入るぞ。しかも大量に」
「……3丁目の五十嵐さんが」
「欲しがっていた絵画なら手配済みだ」
「私が引き受けなかったらそれ、どうするつもりだったんですか?」
「買い手はいくらでもいるからな。どうする。引き受ければ望むだけ手に入るぞ」
「うーん」
「そうだ。四丁目の吉良さんが欲しがっていた――」
「それは無理じゃないですか?」
「いいや。ワシなら、すべてを用意できる。しかし、出来るのは用意だけだ。真実の愛を取り戻すことは難しい」
「すべてを、用意しても?」
「そのすべての中に、君がいる」
「わお」
「どうだ。やってくれるか?」
「……一晩考えさせて」
「悪いがその時間はない。すでにヘリがこちらへ向かっている。そろそろつく頃だ」
そういうと、外から騒がしい音が聞こえてきた。
ドアを開けて空を見上げれば、ヘリコプターが上空でホバリングをしているところだった。
「ここー! 降りるところないですけど—」
「ロープがぁーあるからぁー! それで上がれぇー!」
「えぇー? なんですってぇー?」
「ドア閉めろ!」
紳士にドアを閉められてしまった。
「乱暴だなぁもう」
「時間はないのだ。真実の愛が悪用されれば、其れこそ取り返しのつかないことになる」
「……じゃあお断りします」
「引き受けてくれるか。そうか! ありがとう!」
「人の話を聞いてくださいね。お断りし」
「それでは早速だが、ヘリに乗ってくれ!」
「聞けっ。聞いて。引き受けない」
「なんでー」
「いや、軍隊じゃん。相手」
「軍隊じゃない。私設武装組織」
「組織じゃん。軍と一緒じゃん。私、一人。限界がある」
「大丈夫。君なら出来る」
「何を根拠に」
「沈めた潜水艦3隻。撃墜した戦闘機60機。空母2隻。つぶした軍事拠点が……まだいうか?」
「……そこまで?」
「調べてある」
「……私、スタローンではないんですよ?」
「どちらかというとショーンコネリーだな」
「そういうことではなくてですね」
「さ、早くしてくれたまえ!」
「一介の、何でも屋に依頼することじゃないですよねぇ?」
「一介の何でも屋が出来る以上のことをしておいて何を言う」
「あー、もう。はいはい。わかりました。わかりましたよもう。行きます。行けばいいんでしょう」
「そうか!」
「でも、ロケットランチャーが」
「積んである。5本」
「後、パラシュートが」
「予備も含めて3つある」
「現地に着いた時に素手で戦うには」
「AKもリボルバーも積んである」
「AKとリボルバーじゃなんかアンバランスな気がするんですけど」
「細かいことはいいから、武器弾薬は積めるだけ積んであるのだ。もちろん、君に合わせたものがな」
「……そうですか」
「行ってくれるな?」
「……その前にタバコを一本ください」
続く
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