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乗車人員データで見る平成から令和にかけての駅利用客の変化-この30年の間に利用客を最も増やした駅はどこ?-

神奈川大学 経済学部
浦沢聡士研究室
 奥田天南・浦沢聡士

経済学部浦沢ゼミでは、官民が保有する様々なデータを用い、横浜市で起きている ことを可視化し、その成果をコラム形式で発信しています。今回は、乗車人員データ を使って見えた横浜市の姿を紹介します。この30年の間に利用客を最も増やした駅は どこだと思いますか?


 横浜市に関する様々なデータを用い、市で起こっていることの見える化をしてみよう。今回は、乗車人員データを使って、30年といった長い時間の中で見られる鉄道各駅の利用客の増減を見る。

  乗車人員データとは、ICカード乗車券を利用し駅の改札を入出場した人の数を記録するものであり、「横浜市統計書(第9章 道路、運輸及び通信)」よりダウンロードすることが出来る。この「横浜市統計書」では、市内を通る鉄道各線(市営地下鉄、JR、金沢シーサイドライン、みなとみらい線、相模鉄道線、京浜急行線、東急電鉄)のデータが網羅的に報告されているが、そのうち、例えば、みなとみらい線については、毎月の乗降車別の人員データが、その月が終わってから数か月後に、また、JRについては、年間を通しての1日平均当たりの乗車人員データが、その年が終わってから概ね半年後に公表されている。

  駅で乗り降りする人の数が多いことは、駅を利用して出かける人の数が多いことを、逆に、少ないことは駅を利用して出かける人の数が少ないことを表すことから、乗車人員データは、携帯電話等を通じて得られる位置情報と同じく、人々の移動の状況、人流を捉えるデータと言える。

  人流データについては、コロナ禍において、日々の街での人出の状況を捉えるために利用され、連日ニュースで報道されるなど大活躍したことが記憶に新しい。乗車人員データも、人流データの1つであるが、今回は、人出や外出といったその時々の人の動きではなく、数十年に及ぶ長い目で見た人々の動きに着目し、市内主要駅を対象として利用客の増減を明らかにするランキング表を作成してみたい。具体的には、1991年度と2018年度(感染症拡大の影響を除くために2019年度以降のデータを利用していない)の2時点のデータが存在する、市営地下鉄、JR、相模鉄道線、京浜急行線、東急電鉄各線の各駅(全105駅)を選び、1991年度から2018年度にかけての利用客の増減が大きい駅を、上から10駅、下から10駅、並べてみた。この30年間で利用客を最も増やした駅、減らした駅はどこだろうか?

 表を見ると、最も利用客が増えた駅は、あざみ野(東急電鉄)であった(201%の増加)。また、その次は、京急東神奈川(京浜急行線)となった(169%の増加)。なお、この東神奈川駅についてはJRの駅としても10位にランクインしている。逆に、最も利用客が減った駅は、反町(東急電鉄)であった(37%の減少)。

 こうした駅を含め、利用客が増加した駅に対し、減少した駅の変化は小さく、総じて見れば、この30年間、市内の駅利用客は増えてきたものと考えられる。実際、全105駅のうち、利用客が増加した駅は65駅で、減少した駅は40駅であった[1]。

 ここで、図1で、利用客が増加した駅のトップである、あざみ野駅の乗車人員データの動き(青線)を見てみると、長い目で見て増加傾向を辿っていることが分かる[2]。ランキング2位の京急東神奈川駅についても、2000年前後を境に増加傾向に転じている(図2を参照)。


 こうしたデータの動きの背後には何があるのだろうか。実は、あざみ野駅の周辺地区は、隣接するたまプラーザ駅とともに、青葉区北部地域における交通の要衝としての利便性を活かした土地利用が進められるとともに、商業や文化機能の集積を中核とする拠点づくりが行われてきたという歴史がある。そうした中で、店舗や公共施設、住宅などの整備が進み、街が発展し、駅を利用する人の数が増えてきたのであろう。ランキング2位の京急東神奈川駅についても同様に、その周辺地区では、1999年に採択されて以降、令和に至るまで、数次にわたり市街地の再開発や優良建築物の整備といった街づくり事業が行われるなど、再開発が積極的に進められてきた。

 駅の利用客の増加の背景には横浜市による街づくり政策が見える。実際、図1、図2で、駅周辺の人口データ(「町別人口及び世帯数」(横浜市))の動き(赤線)を見ると、乗車人員データと同様の増加傾向が確認できる。乗車人員データは、駅を利用する人の数を記録するが、そうした利用客の多寡は、その地域・エリアに住む人や、そこで何らかの活動に従事する人の数を捉えているとも考えらえる。JR東日本では、Suicaを利用して把握するJR各駅の乗車人員データを、イベントの効果測定や新規出店に向けた商圏・市場分析、観光プロモーションの企画検討、さらには街づくり計画に活かすといったような取り組みを進めている。

 利用客が増えれば、その駅の周辺でより多くの営みが新たに発生することが想像できるが、30年といった長い目で見て、市内のどの駅で増えて、減ったのかを見える化した時、利用客を多く増やした駅の背景には、街づくり、街の発展があった。今回紹介した乗車人員データは、短期的な視点で見ると、位置情報と同様、駅での人流を捉えるものと言える一方、長期的な視点で見る場合には、国勢調査や住民基本台帳で補足される人口データの傾向を補完できる役割を持つと言える。


[1] 市内の利用客が最も多い横浜駅については、若干の減少が見られる路線もあったが、総じて増加傾向を示していた。
[2]あざみの駅の乗車人員データは1993年度に大きく増加しているが、これは、1993年3月に、市営地下鉄ブルーラインあざみ野駅が開業したことが影響している。


「横浜見える化研究-官民データを用いた地域活動の可視化-」について
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