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母語と私

ステファン ブッヘンベルゲル 教授 

地理的、文化的なへだたりを思うと不思議なことですが、私の母国であるドイツと日本は共通点が多く、歴史的な経緯もあり仲がよいとよく言われます。

ドイツと日本の歴史的なつながりは、皆さんが考えるより古いかもしれません。というのは、早くも1861年から日本とドイツ(当時はプロイセン王国でした)は外交関係を結んでいたのです。それから160年以上にわたって、ドイツは日本にさまざまな影響を及ぼしてきました。

例えば、法律の領域です。日本の民法、商法の大部分はドイツの法律を土台とし、今での両国の法律関係者の交流は活発です。また、医学の領域でも、明治維新とともに多くがドイツからもたらされました。以前は、医者を志す人はドイツ語を学ぶのが一般的でした(人文科学の諸学科もそうです)。今でもときどき、年配のお医者さんの中には学生時代に学んだドイツ語を覚えており、私にドイツ語で話しかけてくる人がいます。

それより私が驚くのは、これまで一度もドイツに行ったことのない日本人が、無意識にドイツ語の言葉を使うことです。大部分の日本の大学生は生活費を得るため、ドイツ語のArbeitに由来する「アルバイト」をしますね。スキーが好きな人は当然「ゲレンデ」(Gelände)という言葉を知っていますし、病院に行けば「カルテ」(Karte)があります。私が以前京都で入った古いホルモン焼きの店では、メニューにある肉の部位はすべてドイツ語に由来するカタカナで書かれていました!

ドイツから遠く離れていても、ドイツ語はいつも私の身近にあります。常にドイツ語で話したり授業したりできるわけではありませんが、たとえば一年間ドイツに留学した日本の学生とドイツ語で話すことは、私にとって最高の喜びです。ドイツ語は日本で生きており、今後もそうあってほしいと願っています。