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将来推計人口データで見る少子化への取組み-10年前の見通しを覆して健闘する地域はどこ?-

神奈川大学 経済学部
浦沢聡士研究室
平田光・山本海晴・森康哲
勝間田凌空・浦沢聡士

経済学部浦沢ゼミでは、官民が保有する様々なデータを用い、横浜市で起きていることを可視化し、その成果をコラム形式で発信しています。今回は、将来推計人口データを使って見えた横浜市の姿を紹介します。少子化への取組みについて見通しを覆すほど健闘している地域はどこだと思いますか?


 横浜市に関する様々なデータを用い、市で起こっていることの見える化をしてみよう。今回は、将来推計人口データを使って、少子化への取組みについて見通しを覆して健闘する地域を見る。

 将来推計人口データとは、人口について、国勢調査の確定数を出発点とした上で、それまでの傾向を踏まえた出生や死亡等に関する仮定をもとに、将来の人口の推移を推計し一定幅の見通しを与えるものである。人口増減について、過去の傾向が今後も継続されると考えた場合に、最も蓋然性が高い将来の人口の姿を示すデータと言えるが、「日本の地域別将来推計人口」(国立社会保障・人口問題研究所)では、市区町村レベルのデータをダウンロードすることができる。

 この「日本の地域別将来推計人口」は、日本全国の将来の人口の推移を見通す「日本の将来推計人口」と同様に、最新の国勢調査の結果をもとに、5年に一度の頻度で公表されるが、その最新版である2023年推計では、2020年の国勢調査をもとに、2050年までの5年ごと30年間について、男女別、5歳階級別に将来の人口の推移が示されている[1]。

 人口増減については、自然増減(出生、死亡)と社会増減(転入、転出)に大別され、経済社会環境の影響を様々に受けるが、そうした環境は、出産・子育て支援や地域の魅力作り、移住の促進など、国や地域の政策によって変わり得る。例えば、岸田政権の下では、これまでの少子化傾向に歯止めをかけるため、“次元の異なる少子化対策”と称し、従来以上に積極的に取組んでいるところである。

 つまり、もし、過去に見通された人口の推移と比べて、実際に実現された人口が大きくなるような場合があれば、そうした見通しと現実の間に生じた差の背景には、単に見通しと異なったという意味以上に、それまでの傾向から見通された推移を覆す、そうした地域での取組みや頑張りがあったとも考えることができる。

 そこで、過去に行われた人口推計として、①2010年の国勢調査の人口を出発点として見通された2020年の人口(「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」を利用)、そして、そうした見通しの実現値として、②2020年の国勢調査の人口(「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」を利用)を用い、両者を比較する。具体的には、各地域における少子化への取組みに焦点を当てるため、年少人口(0~14歳)を用い、市区町村別に、

により求められる値を確認する。この値が1の時、実際の人口と見通された人口が同じであること意味し、1より大きい(小さい)時には、見通しに反し実際の人口が上振れ(下振れ)したことを表す。横浜市を中心に、神奈川県下の市区町村について見た時、10年前の人口推計を覆して少子化への取組みに健闘する地域はどこであろうか。

 年少人口について、2020年時点の実際の人口と10年前に見通された人口の比を、まず、日本全国について見ると1.03であり、この10年間で3%の上振れ、また、神奈川県全体で見ると、1.01であり、1%の上振れであった。概ね見通しと実績が近しく、ある程度正しく見通されていると考えると、そうであるならこそ、そうした見通しからの大きな上振れには見通しを覆す何らかの取組みがあったと解釈することも出来得る。

 そこで、図1を用いて、県下における上振れが大きい上位10市区町村を見ると、横浜市では、磯子区(1.12)、港北区(1.10)、西区(1.09)がランクインし、いずれも10%程度の上振れであった。

 図2では、50以上におよぶ県下の全市区町村の状況を示しているが、市内各区について見ると、0.91(都筑区)~1.12(磯子区)に位置し、大きく上振れする区もあれば、逆に大きく下振れする区も見られた。

 こうしたデータのみを用いて直ちに各区の少子化への取組みを評価できるものではない。その一方、図3で、例えば、少子化への積極的な取組みが評価されている千葉県流山市や半世紀以上にわたり人口増加が続く開成町について見ると、0~14歳の年齢階級(及び親世代を含むと考えられる30代、40代)において、見通された値と実現された実際の値の間で顕著な差が確認される。こうしたことに鑑みると、見通しからの乖離は、各地域における取組みからの影響を一定程度受けたものと考えることもできよう。

 少子化への取組みは、国のみならず地域における最も重要な政策課題の1つであり、近年、様々な施策が実施されている。短期的には評価が難しいそうした施策を長期的な視点から評価するといったことは今後重要になっていくであろうが、その際、見通された値からの乖離に着目し、見える化することで示唆が得られることも期待できる。5年後、2025年の国勢調査をもとに2015年当時の見通しとの差を見た時には、どのような姿が見えるだろうか。2020年で見た姿と同様であろうか、それとも、近年における加速的な取組みの影響を受けて何らかの変化が見られるだろうか。


[1]ここで報告される各地域別の推計値の合計は、日本全国を対象とした「日本の将来推計人口」における出生中位・死亡中位を仮定した場合の値と合致する。