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学問への誘い

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『学問への誘い』は神奈川大学の教員が大学と学問の魅力を伝えるために執筆したエッセイです。自身の経験など踏まえ個性豊かな作品が多数収録されています。 1986年創刊、2020年か…
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#法学部

ホビロンを追いかけて

 ベトナムには、ホビロン(hột vịt lộn)という食べ物がある。道路沿いの屋台やスタンドで売っていて、一見すると、ただのニワトリの卵であるが、実は、ニワトリではなくアヒルの卵である。また、生ではなく茹でてある。そして、中にはヒナが入っている。  今から約15年前、私がベトナムを訪れた目的のひとつは、現地の料理をあれこれ食べてみることだったが、ホビロンは、私の<食べたいものリスト>のトップに君臨していた(2位は雷魚。3位はヤギ)。ところが、探しているものはなかなか見つか

砂漠のサリー

 ここのところ、航空業界はさっぱり振るわないと聞く。私の妻子も、この2年ほど、花の都とその周辺をうろつくばかりで、日本の土を踏んでいない。Liberté(=自由)の国に馴染んだ彼ら(主に妻)には、2週間の自主隔離が大変な重圧であるらしい。私とは感覚が違うが、旅費を負担する身としては、あえて異を唱えるまでもない。しかし、ここでFraternité(=友愛)の精神を発揮して迂闊に慰めたりすると、同情するなら米をくれ、とばかりに、彼の地で入手困難な和食材を私に持って来させようとする

G・ボワソナードと日本の法制度|白取祐司

 フランス人、ギュスターブ・ボワソナード(Gustave Boissonade)が横浜港に到着したのは、明治6(1873)年11月15日のことだった。マルセイユ港を出たのが9月28日だから、実に90日間の船旅ということになる。余談だが、私はマルセイユに2週間ほど滞在したことがある。昔の佇まいを残した商港で、船旅の起点として当時はかなりの賑わいだったであろう。  明治政府は、日本の近代化を推し進めるために、フランスなど当時の先進国から多くの技師や専門家を任期付きで雇い入れた。政

法学とはどういうものか|小谷昌子

わたしはラジオを聴くのが好きなのだが、ここ数年、夏休みや冬休みによく聴いているのがNHKラジオ第一『子ども科学電話相談』である。中学三年生までの「子ども」からの「なぜ鏡に映ると左右が逆になるの?」「なぜ魚はアニサキスでお腹が痛くならないの?」といった素朴な疑問に、その道のプロの先生が答える番組である。 2017年8月30日放送の『夏休み子ども科学電話相談』では、「どうしてパンツを履かなければいけないの?」という質問が寄せられた。つい笑ってしまいそうになる質問だが、自然科学的

予期せぬ出会いへの扉|近江美保

月並みな言い方ですが、入学とは新しい環境との出会いだといえます。 新しい環境といっても、入社や単なる転居と違うのは、入学には、新しい環境で何か新しいことを学ぶという目的があることです。 知らない環境に足を踏み入れることで、緊張したり、わからないことが多くていやだなと思う反面、こういうことを学んで、将来はこういう自分になりたいという期待も入学にはつきものです。 また、入学という扉の先にある新しい環境では、想像もしていなかった予期せぬ経験と出会うこともあると思います。 私は、