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学問への誘い

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『学問への誘い』は神奈川大学に入学された新入生に向けて、大学と学問の魅力を伝えるために毎年発行しています。 この連載では最新の『学問への誘い 2023』からご紹介していきます。…
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#理学部

大学入学から数学者になるまで、その一例

学生さんたちと話をしていると「いつ頃から大学の先生になろうと思ったのですか?」「どうやったら数学者になれるのですか?」といった類の質問がくることが割とよくあります。せっかくの機会ですので、私の場合はどうだったのかということを振り返ってみたいと思います。 単純に数学が好きだったので、数学のことをより深く学びたいということで九州大学の数学科に進学しました。その時点で数学者になるという夢をぼんやりと描いていたので、進みたい方向性がある程度定まっていたという点では珍しい学生だったと

実践的学問に出会う場所

 大学に限らず、入学したての頃は誰もが新鮮な気持ちで授業を受ける。しかし、大学では学びのかたちが高校までとは大きく変わる。一番大きな変化は、学びたい科目を自分で選べることであろう。いろいろと悩んだ末に学部・学科を選び、大学を選んで入学した学生にとって、この変化に戸惑うことが多いのではないだろうか。もちろん必修の科目もあるが、授業が行われる教室に行っても指定された席はない。自由に選べる範囲がこれまでとは格段に広がっている。  自由に選べるとなると、人はいろいろなことを考え始め

卒業研究「Y君の話」|堀 久男

高校生の諸君はまだ知らないと思いますが、大学の授業科目のうち、机に座って講義を受ける科目は、その理解度を期末試験やレポート提出で採点されて、百点満点中六十点以上が合格、つまりその科目の単位が取得でき、六十点未満だと不合格となります。成績は前期と後期の年二回発表される成績表に出ていて、成績のパラメータであるGPAがいくつになったとか、あるいは進級できるかとか、学生本人あるいは保護者の方が一喜一憂するわけです。 ところが理学部化学科にある卒業研究I

保留という選択|岩崎貴也

私が最初に進路選択を迫られたのは高校1年生の終わりでした。私は普通科でしたので、2年生から理系か文系かを選択する必要がありました。研究者は自分の専門分野を迷い無く選択してきたと思われがちですが、「理科」と「歴史」と「地理」が好きだった私は、理系・文系の時点でかなり迷いました。 最終的には、理系から文系なら後で変更できるよという高校の先生の言葉もあり、じゃあ理系で、と選択したことを覚えています。深く勉強してみないと分からないので、とりあえずはどっちにも進めるようにという選択肢

大学の講義は役に立つ?|飯塚重善

学生時代の思い出深い講義は、入学直後の微分積分学の初回講義である。担当の教授が教室に入ってくるなり、自己紹介なども無しに板書が始められた。後日わかったのだが、微分積分学に繫がる実数論の初歩「デデキントの切断」の話だったようである。 今だから言えるが、私などは、心底数学が好きで数学科を選んだのではないので、高校の時から大学レベルの数学に挑戦するといった先行的な取り組みもなく、高校数学だけで漠然と〝面白そうだな〟という軽い気持ちで選んでしまった。 よって「デデキントの切断」は

AI時代の大学の歩き方|知久哲彦

今の若い世代は生まれたときからデジタル機器に囲まれ、スマホが片時も手放せなくなってしまっている時代です。だからと言ってこの小文はキャンパス内でスマホ歩きを勧めるものではありません。 情報技術が人間社会にインパクトを与えた三つのステージを挙げてみると、まずは人間をはるかに超える計算能力と扱える情報量を獲得した第一段階、あらゆる情報機器がネットワークで結ばれ、どこにいても各種の情報に容易にアクセスできるようになった第二段階(これは日本で言えば平成時代)、第三段階としてそれまでの