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事と次第によってはこれはなんと呼べばいいんでしょうか?

 それは今年の春から始まった。
何やら私の部屋の中でかさかさと音がする。音のする方向に目を向けても探ってみても何も見当たらず首を傾げるだけだった。
すると、春から実家から仕事に通うようになった娘の部屋からカリカリと音がする。書き物の多い職業だから夜な夜な仕事しているんじゃないかと思っていた。
「あんたも遅くまで大変だねぇ。」と、娘に聞いてみた。
「なんで?」と返事が返ってくる。
「いや、夜な夜な部屋からカリカリ音がしとるけん」と伝えてみると。
「違うよぉ。部屋の扉の敷居をね、なんかねずみががじがじやってんのよ」と返事が返ってきた。
「あぁ、こねら(小さいねずみ)なん。」と、答えると。
「あたしの部屋の入口に木くずがあるでしょう。なんだと思っとった?」と聞かれたものだから。
「部屋にさ、何かコード入れようと思って削っとるんだと思ったわ。」と正直に思ったことを答えたら
「ありえんし、カリカリゆっとったでしょう。夜な夜な」だそうで。
「へ?あんたの仕事しとる音じゃないの?」と真顔で答えると
「いや、あたしはねずみじゃないんで。」と返された。
 そう、我が家は築70年超えの古民家でなかなかのゆがみ方をしているもんだから、玄関のカギを掛けるのも一苦労。そんな古民家なもんだから昔からこねらは常駐に近かった。だが、私や娘のいる離れには今までこねらが出てきたことは無かったのだ。この春までは・・・
 私の部屋にごきぶりホイホイを置いてみたが、一向に引っかかる気配が無い。
娘曰く、娘の部屋と隣の弟の部屋の入口をカリカリしているようだ。とのことなので、娘と息子の部屋の間に置いてみた。そう、通り道に置かなければ引っ掛かってはくれないのだ。
 ごきぶりホイホイを置いて3日めの夜、その時はやってきた。
夕食を終え、推しのドラマを見るために自室へ行こうとする私に娘が言った。
「そうそう、引っかかってるんだよね。ほいほいに。立ったまんまで。寝転がってる状態で引っかかるかと思ったけど、そうじゃないんだね。」と。
私は、あわてて聞き返した。
「で、どうした?」
「へ?そのまんま。一日そのままでおったら、もう駄目でしょう」
すると、それを聞いた母が飛んできた。
「早く持っておいで。逃げるけん。結構生きとるもんだけん。」
と、母は早口で捲し立てた。
「持ってこれる?」と私は心配になり聞いてみたが、娘は「大丈夫でしょう」と余裕を見せながら自室へと向かった。
絶対無理だと直感した私は娘の後を追いかけた。
 案の定、ひゃあ~などと小声で何度も叫びながら一向につかもうとしない。
「どげなで?」(どんな状態?)と聞いてみると、娘はビビりながら、
「まだ生きとらいます。ちーちー鳴いとられます。持てません」と。
しゃーないなぁ、と私が持とうとすると、
「ほいほいの左側におられますけん。」と娘からの言葉。
どれどれと覗いてみると、こねらがいるのは右側やないかい。
もう少しでこねらの口元に指を持って行くとこだったわ。あぶないあぶない
よく見ると、ほいほいの入口を噛みちぎっていたのでもう少しで逃げそうな気配だった。
慌ててほいほいの端っこを持って母屋へ向かうと、母がビニール袋を持って仁王立ちして待っていた。「さぁさぁ、ここへ」と促されビニール袋へほいほいを入れた。すると母はビニール袋の口を堅く結び、床へ落とし、自分の足で踏みつけたのと同時に「きゃぁ~~~~~~~~~」と娘の悲鳴が耳元で聞こえ、思わず私の身体がのけぞってしまった。
「おばあちゃん、なんてことを。口を堅く結んだなら、窒息するんじゃないの?」と、驚きと笑いが入り混じった状態の娘が言うのと同時に
「だって、逃げるじゃん。とどめささんと」と、それで?的な顔をする母。
「殺人現場だわぁ。惨殺だわぁ」と繰り返し唱えながら自室へと向かう娘。
 娘さぁん、これ殺鼠ですから、駆除ですからね。人じゃないから。
あなたは、Gに対してはもっと冷酷ですよね。と心の中で叫びながらも、私の頭の中に浮かんだ言葉は”殺戮”だった。
 そげだった、ひとじゃなかったわ。

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