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人間国宝・中川衛

 パナソニック(旧松下電工)出身で金沢を拠点に活動する人間国宝の中川衛(なかがわ・まもる)さんの前半期の金工作品から最新作までを紹介する「開館20周年記念展 中川衛 美しき金工とデザイン」展がパナソニック汐留美術館で9月18日(月・祝)まで開催中だ。
 デザイナーとして活躍した1970-80年代の工業デザイン、金工の道に進む原点となった加賀象嵌(ぞうがん)の名品、技を受け継ぐ次世代の作品まで、作品と資料を合わせて約100点によって、中川の制作に息づくデザインの精神と、伝統技法の継承を目指す様々な取り組みを見つめている。
 「象嵌」とは、金属の表面を鏨(たがね)で彫り、できた溝に異なる金属を嵌(は)めこんで模様を作り出す手法のこと。

中川衛 2022年


 今展の特徴は、中川の仕事を「デザイン」という視点で構成しているところ。デザイナーとして出発したことが、のちの金工作品の制作工程や、意匠に対する考え方など、中川の工芸の根幹をなしている。
 また、中川のシャープなプロダクトデザインと、華麗な伝統工芸にみられる連続性に着目し、展示空間においても地続きで見せることを試みている。
 中川は技術の継承を重んじて後進の育成に尽力し、積極的に海外研修を行うなどグローバルな視野で活動を展開している。中川に教えを受けた作家や、独自に象嵌を追求する作家、また中川と異分野のアーティストとのコラボレーションなども紹介している。

 第1章「工業デザインの精神」ー金沢美術工芸大学で工業デザインを学んだ中川は、卒業後に松下電工に就職し、美容家電製品などのデザインに携わった。石川県工業試験場に転職してからも、県の伝統的工芸品のデザインを手がけており、デザイナーとしてものづくりの礎を気づいた。中川の会社員時代の仕事をうかがわせる資料を中心に紹介するとともに、中川が活動した時期の背景にある1970年代の工業デザインの一端を紹介している。
 第2章「象嵌のわざと美」-中川は、石川県工業試験場に勤務していた頃、石川県立美術館で江戸時代の鎧の展覧会を観て、そのデザインのモダンさに魅了された。そこから伝統的な加賀象嵌に関心を持ち、その第一人者であった彫金家の高橋介州に入門し、象嵌技法の修業をした。そして日本伝統工芸展などで作家として頭角を現し、2004年には重要無形文化財「彫金」保持者(人間国宝)に認定された。中川が加賀象嵌の何を継承し、どのような現代性をもたらしたのかをみていく。

中川衛 《象嵌朧銀花器「チェックと市松」》2017年 金沢沢市立安江金箔工芸館蔵
 中川衛 《象嵌朧銀花器「北杜の朝」》2016年 パナソニックホールディングス株式会社蔵
中川衛 《象嵌朧銀孔雀伏香炉》2017年頃 個人蔵 



 第3章「国境と世代とジャンルを超えて」-中川の作家活動がスケール大きなものになっていく転機の一つは、第6回淡水翁賞受賞時の海外研修だった。そこで中川はイギリスやトルコをまわり、古(いにしえ)から続く象嵌技法の普遍的な美や日本とは異なる工芸観を体感するとともに、技術継承の大切さをより一層理解する。後進の育成に尽力する一方、積極的に海外研修を行うなど国際的な視野で活動を展開。この章では、中川に学んだ金工作家作品や、中川と異分野アーティストー例えばレディー・ガガの靴で知られるコンテンポラリー・アーティスト館鼻則孝ーとのコラボレーション、海外での仕事について紹介している。

中川衛・舘鼻則孝 《Heel-less Shoes "Downtown I"》2022年 個人蔵
中川衛に影響を受けた作家の作品の展示風景

 開館時間は午前10時から午後6時まで(入館は午後5時半まで)。8月4日(金)、9月1日(金)、9月15日(金)、9月16日(土)は夜間開館を実施する。午後8時まで開館(入館は午後7時半まで)。
 休館日は水曜日。ただし、9月13日(水)は開館。8月13日(日)から17日(木)は休館となる。入館料は一般1200円、65歳以上1100円、大学生・高校生700円、中学生以下無料。
 パナソニック汐留美術館の住所は:東京都港区東新橋1-5-1パナソニック東京汐留ビル4F。公式ホームページはhttps://panasonoic.co.jp/ew/museum/
 
 

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