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サエボーグと津田道子

 期待の中堅アーティストであるサエボーグと津田道子さんの作品を紹介する展覧会が2024年3月30日(土)から7月7日(日)まで東京都現代美術館 企画展示室3F(東京都江東区三好4-1-1)にて開催される。
 今展は、サエボーグと津田さんが、東京都とトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)による現代美術の賞「Tokyo Contemporary Art Award」を受賞したことを受けて開かれるもの。
 「サエボーグ『I WAS MADE FOR LOVING YOU』/ 津田道子『LIFE IS Delaying 人生はちょっと遅れてくる』 Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展」だ。
 開館時間は午前10時から午後6時。休館日は月曜日だが、4月29日と5月6日は開館。4月30日と5月7日は休館。入場は無料。公式サイトは https://www.tokyocontemporaryartaward.jp/


 隣り合う二つの展覧会は制作に関する関心もアプローチも大きく異なり、それぞれが独立したものでありながら、展示室内での鑑賞者のふるまいが作品の一部になるという共通点を持っている。

[Ultra Unreal]展示風景(シドニー現代美術館、2022)撮影:アレックス・デイヴィス "Ultra Unreal"  Installation view at Museum of Contemporary Art Australia, Sydney, 2022  Photo: Alex Davies


 まずはサエボーグ。主な表現手段であるラテックスのボディスーツによるパフォーマンスは、回を重ねるごとに内容を変容させ、新たなキャラクターを生み出し続けた。これまでのパフォーマンスを土台にした本展では、作品の軸となってきた人間と動物の関係性というテーマの中で、「ケア」の視点に立った作品を発表する。
 展示室の中では、鑑賞者がパフォーマンスの一部となることで、観る側が時として観られる側に回るような、美術館の展覧会の構造を利用した仕掛けを試みる。
 サエボーグは、半分人間で半分玩具の不完全なサイボーグとして、人工的であることによって、性別や年齢などを超越出来ると捉えるラテックスのボディスーツを自作し、パフォーマンスとインスタレーションを国内外で展開している。 
 カラフルでデフォルメされた雌豚や牝牛などの家畜や害虫などが繰り広げるパフォーマンスは一見明るく楽し気だが、人間の残酷性や消費の問題のみならず、人間社会における介護やケアの問題にも接続し、強者と弱者、支える側と支えられる側という二項対立では収まらない、多様性の受容、共生の問題に発展させている。
 サエボーグはいう。「ここで皆さんには家畜キャラクターに変身してもらい、ライフサイズの玩具のような牧場空間で、普段とは違う、動物的な体験をしてもらうことを構想しています」。
 「動物になった私たちの前に現れる謎の存在と私たちは仲良くすることができるのか?他者と自分、肉体と化学製品、生き物の種族やエコシステムのあいだを取り囲む壁を超えることができるのか?皆で動物になって叫ぼう!ブーブーモーモーメーメー、コケコッコー!!」。

「あいちトリエンナーレ2019情の時代『House of L』公演風景(愛知県芸術劇場、名古屋) 撮影:蓮沼昌宏  "House of L" performance at Aichi Triennale 2019:T aming Y/Our Passion,  Aichi Prefectural Art Theatre, Nagoya Photo:Masahiro Hasunuma


 続いては津田道子さん。近年強く関心を寄せている「身体性」を追求する中で、自身の幼少期に、ビデオカメラが家に来て最初に撮影されたホームビデオに収められた家族の出来事から着想した新作を中心に、映像装置が組み込まれたインスタレーションを発表する。
 撮影者の視点がレンズ越しに収められたどこにでもありそうな出来事の再演は、家族という社会の最小単位による、きわめて個人的な記録を起点としながらも、集団の中での人々の立ち位置やシステムへと、その領域を広げていく。
 津田道子さんは映像メディアの特性にもとづき、インスタレーションやパフォーマンスなど多様な形態で制作を行っている。映像装置とシンプルな構造物を配置し、虚実入り混じる作品空間が、鑑賞者の視線や動作を操作し、知覚や身体感覚について考察させる。
 また2016年よりパフォーマンスユニット「乳歯」として、小津安二郎の映画作品の登場人物の動きを詳細に分析し、そこに内在する人との距離や、女性の役割に関する問題を可視化するパフォーマンスなどを展開。

《東京仕草》2021/2023 「ICCマニュアル2023 ものごとのかたち」展示風景(NTTコミュニケーション・センター[ICC]、東京)撮影:木奥恵三 画像提供:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC] Tokyo Shigusa, 2021/2023,  Installation view at "ICC Annual 2023: Shapes of Things," NTT InterCommunication Center [ICC], Tokyo Photo: KIOKU Keizo  Photo Courtesy: NTT InterCommunication Center [ICC]


 展覧会によせて津田さんは「コロナ禍に身体への関心が大きく変化したのは私だけではないと思います。例えば家族のような最小単位の社会においても、他者との距離を意識することが身体の振る舞いに関わっていることを経験しました」という。
 「カメラの位置やフレームと映る人の関係が、身体が持っている距離感を図る道具になると考えています。この展覧会は、ポスターが剝がれているのを見つけた時に、そっと貼り直すような、しなくてもいいことだけど、気づいたことに働きかけた延長にあります」。

《東京仕草》2021「Back TOKYO Forth」展示風景(東京国際クルーズターミナル、2021)撮影:Akira Arai(Nacasa & Partners Inc.) Tokyo Behavior, 2021,  Installation view at "Back TOKYO Forth,"  Tokyo International Cruise Terminal,  2021 Photo: Akira Arai (Nacasa&
Partneres Inc.) 

  

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