ビートルズ弾き語らず:告井
またまた痺れさせてくれた。告井延隆(つげいのぶたか)さんがアコースティックギター一本でビートルズ・ナンバーを縦横無尽に弾きまくった。
だが、告井さんにいわせると「弾き語り」ではなく「弾き語らず」なのだそう。つまりボーカルなしのインストゥルメンタルが基本なのだ。
2024年5月9日(木)、横浜の老舗ライブハウス「セブンスアベニュー」で元センチメンタル・シティ・ロマンスのリーダー告井さんがライブを行った。これは『Sgt.Tsugei's Only One Club Band』と題された告井さんのソロ・プロジェクトで、アコギ1本でビートルズの完全コピーを目指すもの。
2008年にソロ活動を開始して以来、「ライブで再現できなければ自分にとっては意味がない」というスタンスで臨んでいる。
この日の三番手にしてトリで登場した告井さんはまずはテーマ曲の「Sgt. Tsugei's Only One Club Band」を、これはボーカル入りで披露した。Sgt.Pepper'sではなくSgt. Tsugei(告井)なのだ。
続けて「Eight Days a Week」。ここで告井さんは「ビートルズ弾き語らずといってます。歌いません。弾き語りは世の中にたくさんいますが、弾き語らずはあまりいないと思います」と話した。
ここで楽曲解説。「一週間に8日愛している。つまりのべつまくなしっていうこと。デビューした頃、ローディーのマル・エバンスにジョンが「どう元気?」って声をかけるとマルが「何言ってんだ。俺たちは一週間に8日働いてるんだ」と答え、ジョンはそこでこの曲を作ったと言われています」。
そして話はリバプール英語についてとなった。「バス(bus)のことをブスといいます。英語でいうbの発音は日本人には難しい。唇を爆発させないといけない。イギリス英語は僕らの習った英語とは大違いです」。
ここから4曲続けたー「Here comes the Sun」「Honey Pie」「Blackbird」「Ticket to Ride(涙の乗車券)」。
最後の映画「Help」で使われた曲について「この曲は映画ではスキー場の中腹で歌われています。その前の映画「A Hard Day's Night」はほとんどロンドン市内で撮影されましたが、今度はビートルズが行きたい所に行ったようで、ブライアン・エプスタインがリチャード・レスター監督に映画の筋をそれで作ってくれと頼んでいたようです」。
映画「Help」で日本人はカーリングを初めて目にしたのではないかと告井さんはいう。「私があれがカーリングだってわかったのは20年以上経ってから、1990年以降ですね。日本にカーリングを紹介したのはビートルズです。間違いありません」。
ここで映画「Help」から3曲続けたー「The Night Before」「You're going to lose that girl(恋のアドバイス)」そしてタイトル曲「Help」。
ここからは客席からのリクエストを受け付けた。
最初は「Dig a Pony」。これはアルバム『Let it be』収録曲だが、告井さんは「あのLPは買わなかったんです。聞いてみても何かサウンドが違うって感じてたんです。あのLPはジョージ・マーティンが関わっていないんです。フィル・スペクターの音の作り方が何かとても軽く思えたんです。サウンドが嫌いだったんです」と話した。
そしてリクエスト曲が続き、「The Inner Light」「Taxman」「Eleanor Rigby」。2,3曲目はアルバム『Revolver』でも続いているが、その理由について「当時、一人100億ぐらい(収入が)あったらしいけど、95億は税金で持っていかれるんで、残りは5億ですね」
「でも5億残るんです。あれは「俺たちは大金持ちだ」って言っている曲だと思うようになりました」。
次の「Eleanor Rigby」は「結婚式が終わって出てくる新郎新婦にライスシャワーを浴びせます。そこで現れるのがエレナ・リグビーさん。そのお米を拾い集めて持って帰って生活の糧にしてる。貧民じゃないですか」。
『Revolver』の1曲目はお金持ち、2曲目は大貧民のこと。
そして『Revolver』と前作『Rubber Soul』の大きな違いは、もうライブをしなくなって、客の前で歌わなくてよくなったことだという。
そして、ビートルズは「アイドル、ヒットメーカーからオピニオンリーダーへと変わっていきました」。
リクエストが続いて「What you're doing」。
一曲「変化球」でデビュー間に録音された「Ain't she sweet」。これはジョンのボーカルで、学校で机に座ってシンシアに向けて歌っていたという。
そして「Please Please Me」「She loves you」「I want to hold your hand(抱きしめたい)」を続けて演奏した後は、アンコールでロックンロール大会となり「Rock and Roll Music」などを弾き語らずで幕を閉じた。
告井さんのパフォーマンスの前に2組のアーティストが「前座」で登場した。まずは地元横浜の前田健人さん。オープニングはやはりビートルズで「A Hard Day's Night」。2曲目はブルージーンズの「ユア・ベイビー」。
「(オリジナルの)ボーカルは岡本和夫さんで、ビートルズ日本公演にも前座として出演した人です。この曲(ユア・ベイビー)は日本のバンド・サウンド1号といわれています。作詞安井かずみ、作曲加瀬邦彦です」。
3曲目は「横浜ホンキートンクブルース」。横浜を代表するギタリストの一人で元ゴールデンカップスのエディ藩さんの作品である。前田さんの最後はオリジナル曲で「それでも僕は歩みを止めない」だった。
続いてステージに上がったのは杉山賢人さん。杉山さんのオープニングは「お月さま」。次は唯一のカバー、小坂忠さんの楽曲で「はずかしそうに」。3曲目は「生活(仮)」、さらに「トンネルを走れ」「トーキングぼくらのこの場所で」を歌った。
このセクションの締めは「雨の日に咲く花」だった。
1973年に結成されたセンチメンタル・シティ・ロマンスの活動以外にも告井さんは様々なアーティストへのライブサポート、レコーディング、編曲を務めている。現在は主にソロ活動およびシンガーソングライター加藤登紀子さんのサポートを行っている。
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