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青木美希/原発講演

 2024年2月16日(金)、「あれから13年。福島の今と石川県志賀原発取材報告」と題してジャーナリストの青木美希さんが参議院議員会館一階議員第2会議室で講演を行った。
 青木さんは2011年3月11日の東日本大震災後の東京電力福島第一原発事故の直後から取材を開始し、以来原発問題を追い続けている。著書「日本はなぜ原発を止められないか?」(文春新書)はベストセラー。また、「地図から消される街」(講談社現代新書)という著書もある。
 まず、能登半島地震と北陸電力志賀原発について報道は実態を伝えているのか。青木さんが報道と現地の実態との乖離について指摘していった。

段ボールの家」報道
 中日新聞は2024年1月5日に「避難所に段ボールの家が出来た」とポジティブなニュースとして伝えた。
 青木さんによると、旧知のジャーナリストは段ボールの「家」は避難所のほんの隅っこにあるだけで「着替えや授乳の目的のために用意されたもの」だと説明してくれたという。
 その段ボールハウスだけが撮影されたが、どうして全体像がなかったのか。青木さんは「避難所のホワイトボードに報道の方は避難所の中の撮影禁止」とあったからだろうと話した。
 「実際に行ってみないと分からないことがあります」。

講演する青木美希さん

 災害関連死についても1月12日時点で14人とされていますが、実態がなかなか伝わっていないと青木さんは指摘した。
 「原子力についての基本姿勢は自主、民主、公開であるべきだとされます。しかし、公開の部分に非常に問題があると思います」。
 青木さんは特に北陸電力の情報公開が少ない点、具体的には記者会見が非公開であることを挙げた。「公開してほしいと求めていますが「今後の検討課題です」と繰り返すだけです」。
 情報の確度への疑問もある。能登半島地震のあった元旦に林芳正官房長官は志賀原発に「現時点で異常なし」と発表した。
 しかし、9日には志賀原発に3メートルの高さの津波があったことが明らかに。また、変圧器での油漏れについて当初1号機で3500リットル、2号機で3500リットルとしていたが、のちに2号機が約20000リットルだったと訂正された。最初の5倍である。
 変圧器の耐震性基準について、通常の建物と同じ500ガルとなっているが強化すべきではないかとの声がある。しかし、原子力規制庁は「このままでいいと思うと答えた」と青木さんはいう。
 ガルとは地震の加速度を示し、建物の揺れとも関係してくる。

地盤隆起は予測出来るのか?
 北陸電力の断層連動の想定は96キロだったが、実際に連動したのは150キロにわたってだった。今回の地震によって地盤の隆起があった。
 地盤の隆起が起こると取水口から海水が取れなくなり原子炉を冷却できなくなりメルトダウン(炉心溶融)が起こってしまう。
 志賀原発では取水口部分の地盤隆起は20センチだと想定していたが、今回の地震によって実際に起こった隆起は最大4メートルだった。
 青木さんは「北陸電力は「原子力建屋では地盤隆起を想定していない」といっている。敷地内では地盤沈下などが起きている」という。
 次に避難計画は機能するのか?というトピックだ。
 今回の地震で多くの家屋が倒壊、道路も寸断されて多くの集落が孤立化した。そのため、原発事故に備えて行うとされる屋内退避を含めて退避そのものが困難となり、計画自体が問われる事態となっている。
 朝日新聞は、1月23日に志賀原発から30キロ圏内で400人が8日間にわたって孤立したと報じている。
 原発事故に備えて5-30キロ圏内では屋内退避すべきとされている。
 青木さんたちが志賀原発から北に9キロ地点の志賀町富来(とぎ)領家地区を訪ねて撮影した動画が紹介された。
 原発防災センターが16ヵ所あるもののキャパが足りない状況になることも。「住民の7人に1人しかそこに避難出来ない。そもそも高齢者や障がい者の避難が想定されており、エリア全体の避難については考えられていない」と青木さんは問題を指摘した。
 
幸運に助けられた今回
 能登半島地震で原発での大きな事故が起きていないことは幸運に助けられた面が大きいとの指摘もなされている。
 まず、志賀原発が稼働停止中だったこと。
 それと半島の珠洲に原発が建てられていたらどうなっていたのかということ。反対運動の結果計画が撤回されていたことが改めて評価された。
 珠洲には2か所原発建設が予定されていた。住民らの反対運動によって、その計画は今から20年前に凍結された。
 青木さんらは珠洲原発建設予定地を訪ねた。まず高屋地区だが、海岸の隆起が起こっており、港も2メートル近く隆起していた。このようなことが起こったが、建設計画を喧伝するためにいわれていたのは「地震対策は万全」との言葉で、それで建設しようとしていたのである。
 海域活断層の長期評価を実施中だが、まだ日本でも南西部が終わっているにすぎない。つまり、ほとんどの地域の海域活断層についてはまだだということである。政府調査委員会は「今回の断層は基礎調査の対象外だった」とし、だが、いつまでに終えるかという期限もない。

報じられない津島の実態
 昨年12月20日に福島第一原発を視察した青木さんたち。
 浪江町津島では復興拠点が出来て、報道では「きれいな建物が出来た」とされていたものの、かつては1400人程度が暮らしていたものの、今は5世帯6人が暮らしているだけ。
 津島地区における避難指示が解除されたにもかかわらずである。「もともとの中心街ではガイガーカウンターが鳴り続けて人が戻っていない」。「お店がない」「医者がいない」「警察の常駐がいない」という実態がなかなか報じられていない。きれいな建物報道があるにもかかわらずだ。
 近藤昭一衆議院議員や川田龍平参議院議員らも駆けつけた。

青木美希著「なぜ日本は原発を止められないのか?」(文春新書)
青木美希著「地図から消される街」(講談社現代新書)

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