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ダニーの新譜『Innerstanding』

 【スピリチュアル・ビートルズ】ダニー・ハリスンが昨年秋、6年ぶりのソロアルバムをリリースした。ダークなアンビエントな音にのせて根源的な問題を深みのある歌詞で綴り、前作を踏襲した姉妹編といった作品だ。
 歌詞の難解さは前作よりかなり下がった。個別の問題について歌っているというよりは、より根源的で普遍的な、それゆえ曖昧に思えるような言葉の使い方だが、前作よりは具体的なイメージを掴みやすい。
 歌詞の世界は父ジョージ・ハリスンを彷彿させる。一方、サウンドは今風であり、父が活躍した1962-2001年という時代の音風景は過去のものだということを否が応でも感じざるを得ない。
 ダニーは「Atwood Magazine」2024年1月7日号に掲載されたインタビューで深刻な歌が多いことを認めて「ぼくは悲惨な事柄を書くのを止めようと思っているんだ。誓うよ」と冗談めかして語っていた。
 ダニー6年ぶりのソロ・アルバム『Innerstanding』は2023年10月にデジタルでリリースされた。その後、海外でアナログレコードとCDで発売された。日本発売は未定だが、輸入盤が入手可能。

Dhani Harrison『Innerstanding』


 アルバムタイトルの「Innerstanding」とは「inner」と「understanding」が合わさったスピリチュアル用語。「生まれつき備わっている知恵」とでも訳せるのだろうか、それについてダニーは「愛と公平という立ち位置からでなければ理解できないものだ」と説明した。
 「あなたがたは自分の意見を他人に強いることは出来ないし、あなたがたは他人の意見を理解するよう強いられることもない。もしあなたが歴史の間違った側で立ちたくないのなら、Innerstanding(生来の知恵)から、そして恐怖とは反対の愛という場所からのみ可能となる」。
 「愛という場所からならば、あなたはいつでも歴史の正しい側に立つことが出来るだろう」ーーこれらはアルバム・タイトルの説明であるとともに「Right Side of History」という収録曲の解説にもなっている。
 そしてダニーはそれを信じて生きてきたのである。

違いを超えるカギとなるinnerstanding
 「なぜならば、私たちはみな違っており、違った物事を信じており、それぞれが自分自身のために違う選択をしているとしても」先に触れたようなinnerstandingをめぐるルールを理解しなければいけないという。
 「自分自身を知らないと簡単に”操縦”されてしまう」とダニーは警告した。これは父ジョージが亡くなった翌2002年に発表された遺作「Brainwashed」で発したメッセージと軌を一にするように思える。
 新しいソロアルバムに収められた曲「Helm of Awe」について「バイキングの戦いについての歌」だとダニーは語った。「あらゆる方面に対して防御しなければいけない。そうすれば敵を無力に出来る」。
 「Dancing Tree」という歌は「Welcome to the underworld」という詞から始まる。アルバムジャケットの写真はダニ―のような人物が洞窟に入っていく様子だ。深読みをするならば、私たち人間はまさに「underworld」への瀬戸際に立たされていることを言わんとしているかのようだ。
 ダニーは第一弾ソロアルバム『In//Pararell』のジャケットで彼が手にしているマスク(お面)を「侍」のお面だとしている。
 「おかしいのは一年後にみんながマスクをしていたことだ」とコロナ禍でのマスク着用について言及した。

Dhani Harrison『In//Parallel』


 「このアルバムの歌詞すべてが現実のものとなったようだ。だからぼくはこのアルバムは過去からあなたがたに警告を発したもので、今回のアルバムは目が覚めるには遅すぎるから、もうやるべきことをやっていることを望む」というものだとダニーは2枚のアルバムの性格について話した。
 そして、ダニーは、この2枚のソロアルバムは「循環」しているかのごとく関連している旨を説明した。例えば、ファースト・ソロの最後は「bom bom bom」という歌詞で終わるが、セカンドは「womp womp womp」という同様の擬音語の歌詞で始まっている。
 さらに、セカンドは「Wolves Around the City」という歌で締めくくられるが、そこで再びそのアルバム冒頭の「Dangerous Lies」が現れるという循環がある。そういった形でファースト・ソロとセカンドそして同じセカンドアルバム内でも循環があるという。
 『Innerstanding』の収録曲は全部で10曲。
 順番に「Dangerous Lies」「New Religion」「Ahoy There」「La Sirena」「Damn That Frequency」「The Dancing Tree」「Right Side of History」「Ghost Garden」「I.C.U」「Wolves Around the City」。
 先行シングルの「Damn That Frequency」にはブラーのグレアム・コクソンがサックスで参加。またアルバムにはザ・デューク・スピリットのリエラ・モスや豪州の歌手Merekiもゲスト参加している。
 ダニーによるプロデュース。
 ダニーとポール・ヒックスとが共同でミックスしている。

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