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赤盤青盤を掘る

 ビートルズの公式ベスト盤『ザ・ビートルズ 1962年~1966年』(赤盤)と『ザ・ビートルズ1967年~1970年』(青盤)は1973年4月に発売された。今年、50周年を迎える。
 ビートルズの公式な録音曲は213曲。うち赤盤で26曲、青盤で28曲の計54曲が収録されており、全体のおよそ4分の1をカバーしている。
 LP2枚で2セットというボリュームだ。しかし、これでも「まだあの曲が入っていない」といったファンの声も聞かれるほどである。
 あのポール・マッカートニー研究会も黙っちゃいない。「ビートルズサウンド見聞録!温故知新 赤青を訪ねて新しきを知る」と題したイベントを2023年6月10日(土)と11日(日)、新宿の「ROCK CAFE LOFT is your room」(新宿区歌舞伎町1-28-5)で開催された。
 「なぜ赤盤・青盤がここまで愛されるのかを極上音源とプロモビデオを使いながら、楽しく検証」(同研究会)した。

 1970年4月のビートルズの事実上の解散から3年。ベスト盤が企画されたのには、『ビートルズ・アルファ・オメガ』という海賊盤ベストが72年暮れから出回っていたことが背景にある。
 「対抗してベストを作りたいとアラン・クラインは考えました。訴えるよりも、正規盤で出したほうが売れると踏んだのです。そこで部下のアラン・スティクラーに具体的な作業を頼みました。メンバーたちに反対されたら終わってしまうから、水面下で作っていたのです」。
 73年3月31日にアラン・クラインとビートルズとの契約が終了することになっていた。「赤盤青盤のリリース・タイミングはアラン・クラインの契約と合わせて考えると分かりやすいのです」。
 最初の発売予定日は3月28日だった。アラン・クラインはこのタイミングでリリースすれば自分のところにコミッションが入って来るはずだったが、結局のところ発売は4月に入ってからとなった。
 当初アメリカだけでのリリースが想定されていたようだ。
 「誰かが、アラン・クラインに絶対カネを渡したくないとビートルズのメンバーたちを焚きつけて、このままではアラン・クラインにカネがいってしまうから(時間稼ぎのために)イギリスでもリリースを検討しましょうと言ったのではないかというのがポール・マッカートニー研究会の説です」。

 そのために赤盤青盤は73年4月19日に米英同時発売となった。米国で準備が進められて、あとから英国発売が決まったことで、米英のレコードの音が異なることになったとの見方が披露された。
 「このあたりから米キャピトルの声が大きくなりました。コンピレーションについてもアメリカ主導となりました。売れるのでキャピトルはやりたい。そしてイギリスがそれを追認する時代がやって来ました」。

ポール・マッカートニー研究会

 ビートルズファンでもファンになった時期によって赤盤青盤の捉え方が違うという。赤盤青盤にどはまりした世代は73年から78年にビートルズに入っていった人たちではないかというのだ。その人たちは80年のポールの逮捕やジョンの死でファンになった世代とは明らかに違うという。
 「年代順に配置されていて安心して聴ける」、「各レコードの面ごとにその時のビートルズが感じられる」、「赤盤青盤はいってみれば登山でいうと最短コースで五合目から登るようなもの」との声も。
 だが、ベスト盤『オールディーズ』の世代つまりリアルタイムのファンにとって赤盤青盤はあまりインパクトがないようだ。
 79年から86年にファンになった世代は「レアリティーズ世代」、87年以降のファンは「パスト・マスターズ世代」と位置づけられた。

 イベントでは赤盤青盤を映像つきで順番に聞いていった。もちろん解説をはさみながらだ。赤盤の1枚目表の15分はあっという間で「熱量、スピード感、爆発力、4人の結束観」をこれだけ感じられるレコードの片面は他にはないという。「世界で一番エネルギッシュなレコの片面だ」。
 一番の驚きは「She loves you」だった。『オールディーズ』のステレオ盤を作る時にジョージ・マーティンは締切日にジェフ・エメリックに任せたが、モノラルのテープしかなくて、そこから強引に作ったのが「She loves you」だった。「もともとこういう編集だったんですよというほうが人間味があるということ」だというコメントも出ていた。

 赤盤の2枚目のハイライトは「I feel fine」。「なぜか73年になってから初めて登場したステレオバージョンだが、つぶやき声から始まっています。70年代に入り、イギリスでモノラル・リリースだったシングル曲のステレオ・テイクを整理したり、作成しなおしたりする機会があったのでは」。
 また「Day Tripper」でも侃々諤々の議論。「『パスト・マスターズ』が出るまで赤盤を重宝しました。「パストマスターズ」ではダブルトラックで始まるのを聴いて「違うよ」って思いました。いまだに違和感がある」。
 アルバム『ラバーソウル』はビートルズ史における「南北朝時代」との見方(!?)も。その時代はジョンとポールが並び立っていた。そこで突っ込みがあったー「どっちが後醍醐天皇なんですか?」。

 そして青盤へ。「サージェント・ペパーは江戸時代」だという。「Hey Jude」に関しては次のようなコメントがある。「ステレオ・リリースを念頭にレコーディングされたHey Jude。シングルでは結局モノラル・リリースとなったが、青盤には素晴らしいステレオ・ミックスが収録されている」。
 『ホワイト・アルバム』と「ゲット・バック・セッション」をレコードの1面にしてしまったのは、ちょうど「高校3年生の11月に、たった4コマの授業で内容が濃ゆい幕末・明治維新を勉強しても大学受験の日本史に全く太刀打ちできないのと同じ理屈だ(!?)」とのこと。
 ただし『アビー・ロード』曲は「蔵出しマスターテープが元音源で、LPと違って音割れしそうなギッシリ感ではなく、余裕のあるフラットで気持ちよさを感じることが出来る音」だと評価する声があった。
 赤盤は英ヒットチャートで最高3位、米ビルボード誌でも同じ成績だった。青盤は英国で最高2位だったが米アルバムチャートでは首位を獲得した。日本でも赤盤青盤ともによく売れ、チャート上位を記録した。
  



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