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Wings本記念:和久井&藤本

 ミュージシャンの和久井光司さんとビートルズ893の藤本国彦さんが2024年1月31日(水)、レコードコレクターズ増刊「『バンド・オン・ザ・ラン』50周年! ポール・マッカートニー&ウィングスの時代」の刊行を記念したトークショーを行った。
 「gallery shell 102」(武蔵野市吉祥寺南町2-29-10マクセル井の頭102)で行われたイベントで、二人はその本のこと、制作秘話、業界話、ポールはじめ有名ミュージシャンの裏話などを縦横無尽に語った。
 司会(立会人!?)はレコードコレクターズを出版している(株)ミュージック・マガジン制作部の高橋修部長が務めた。

ミュージックマガジンの高橋修さん


 今回の増刊号に記事などを寄せてくれた面々への言及も度々なされた。まずは和久井さんから吉川功一さんの名前が挙がった。「ポールの80枚の7インチボックスの中身をすべて書いてるって世界初じゃないですか」。
 藤本さんは「家に二回行きましたけどとてつもないんです」と返した。
 「一人で評論みたいのやってきたけどバラエティに富んだものやるとなると人に頼まないといけない」と和久井さん。
 あと本にマンガ「Lennon&McCartney's NOW and THEN」を寄せた梅村昇史さんについて和久井さんは「天才。みんなが320ページ使って ああだこうだ言っているのをたった5ページで超えてくる」と絶賛した。
 さらに、映像作品の分析を今回の本に寄せた犬伏功さんについても「ビートルズがリバプールでアセテート盤を録音したところの音源が昨年ボックスで出て、ビートルズ以外はほとんど無名のバンドなんだけど、それを犬伏さん持ってるんですよ」と和久井さん。
 「リバプールで当時こういう人たちがバンドやっていたっていう底辺の記録じゃないですか。何か面白い連中がモノゴトをゴロゴロと転がしていくってゆくのが好きなんですよ」。


 和久井さんは今回の本について特に「デザインが好き」だという。「きれいじゃないとだめ。きれいに見えると何度も手に取ってくれる。心理的にそうなんですね」。それと心に留めていたこととしては「えっというようなことを盛り込んでいくことをいつも考えています」と。
 「ビートルズ・ファンの多くはビートルズとソロものだけで終わっちゃうけど、それ以外、例えばピンクフロイドの「狂気」を聞くと分かるようなことがあります。ビートルズだけ聞いてても音の質感が分からない」。
 「ジェリーフィッシュっていうバンドがデビューした時、ウィングスみたいなのが出て来たなって。そういうことが分かるようにしたいって思っています」と和久井さんは話した。
 和久井さんのこれまでの著作の一つに「ビートルズ&アップル・マテリアル」(BNN)というシリーズがある。
 「あれでビートルズの専門家のように思われるようになりました。売れたんですが市場から消えるのも早かった。増版しなくって」。
 同時に一言愚痴もー「ひどい印税率なんですよ、あれは」。
 ビートルズといえばこの人、藤本国彦さん。肩書は言わずと知れた「ビートルズ研究家」だが、藤本さんは「肩書をやくざって書くと研究家って直されるんです。NHKもやめてくれって。最近893って書けば通ります。ラジオ番組「ビートルズ10」でもやくざはカットされます」という。

藤本国彦さん


 和久井さんは「ぼくは新聞なんかに書く時、肩書を「評論家」にしてくれっていわれるけど、ぼくは評論家じゃないっていうんです。だったら「ミュージシャン」にしてくれって。でも新聞は嫌がりますよ。権威主義だから」と言うと藤本さんは「何かいい他の肩書ないかって相談したいです」。
 「単に好きで追いかけてるってだけなんですけど」と藤本さん。これに対して和久井さんは「じゃあもうジョージ・ハリスンって名乗ったら」。
 すると藤本さんは「香月利一さんは「ビートルズ香月利一」って言ってましたね」と日本におけるビートルズ研究の先駆者に言及した。
 あと二人はビートルズ関連本ってことでいうと次はリンゴだねという話になった。和久井さん曰く「リンゴは出来ないよね。シンコーミュージックじゃないからね」と冗談交じりに話した。
 藤本さんは最近のリンゴの作品を評価。「リリースが多いですよね。でも(リンゴについての)本は売れない」。
 和久井さんは「難しいですよね。ドラムをどこまで語れるか。手癖とかリズムの刻み方とかを文章で書いてもどこまで説明できるのかって」。
 「でもリンゴの場合、オールスターバンドがあってヒット曲があるような連中をつなぐ役をやれるってことは大きいと思います。リンゴの言葉でそういった周りのミュージシャンたちを解剖してくれたら面白いんだけど、リンゴのインタビューは「ピース」で終わっちゃう」。

和久井光司さん


 話は変わり、和久井さんは最近の話として「洋楽の帯は日本で勝手に作ったものだから、あまり興味がないけれど、国内ミュージシャンのアルバムの帯は、ジャケットをつくったデザイナーが合わせてデザインしていることがほとんどなので、初回の帯にこだわって探しています」。
 「それとDVDっていうメディア、すなわちパッケージがなくなると紹介しにくくなる。DVDならば詳しいことがパッケージに書いてあるから分かる。だから今のうちに映画のDVDを買っています」。
 バンド活動について和久井さんは「コロナがあったので外に出てバンドをやらなくなった。ほとんどネットでの打ち合わせと譜面の交換です。そういうことが普通になっちゃった」という。
 「リハも以前だったら2回のところを今は1回しかやらないので、本番の時がこれが3回目みたいなことがありますよ。多くのミュージシャンは困っていると思います、その状況に」。
 ミュージシャンはどこと契約するかが大きいというトピックになった。「ジョージはダークホースやっててもA&M好みのLAサウンドだったし、それが『33 1/3』の時には残ってた。でも『慈愛の輝き』の時にはそれがもうない。ワーナーだから。ワーナーではジョージはシンガー・ソングライター然となりました」と和久井さんは語った。
 「レーベルカラーもあるしね。和久井さんが河出書房新社から出すかミュージックマガジンから出すかっていう違いのような」と藤本さん。
 ポール本で一番いいものとして和久井さんはバリーマイルズによる「Many Years from Now On」(ロッキンオン)を挙げた。
 和久井さんはこの本にしか書かれていないこととして「ポールがNEMSでレコードを買って帰りのバスの中でライナーを読むのが楽しみだった」ことや、「『サージェント・ペパーズ』のジャケットの厚さが7ミリだったのはジャズ・レーベルのインパルスのダブル・ジャケットの厚さが7ミリだったから」というそのヒントが隠されていたのを評価した。
 さらには、クリス・トーマスがプリテンダーズのシングル盤をヒットさせるためにレコーディングのほとんどの時間をA面に費やしてB面は時間がない中でどうしたのかっていう裏話を和久井さんは披露した。
 話はまだまだ続きました。
 そして最後は「「これで今日のトークは終わります」ってのは嫌なんです。バンドマンだから」と和久井さんは話して、みなでポールの「My Love」を歌って締めとした。楽しいノンストップの2時間半だった。



 
 

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