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アイリッシュ・ハープの調べ

 中世からアイルランドの正式な象徴とされ国の紋章になっているアイリッシュ・ハープ。そしてアイルランドがケルトの国といわれるように、ハープはケルトの歴史や文化と密接なつながりがある。
 古代アイルランドではケルト民族の小王国が150近くも乱立していたといわれる。ケルト語の流れを受け継いでいるのがアイルランド語、スコットランド・ゲール語、ウェールズ語、ブルトン語だ。
 そして今日、いわゆる「ケルト人」というのはケルト語系の言語が使われているアイルランド、スコットランド、ウェールズ、ブルターニュ(そこではブルトン語が話されている)などのことを指す。
 そんなケルトとのつながりが深いアイリッシュ・ハープの日本を代表する弾き手である菊地恵子さんが2023年6月24日(土)、ギャラリー「青らんぎ」’(東京都小平市小川町2-2051)でライブを行った。

ギャラリー青らんぎ


 菊地さんは学生時代にたまたま聞きに行ったコンサートで弾かれていたハープに魅了された。自分でもハープを始めたのだが、先生から「音楽学校に行かないか」と勧められたのが今日につながったのだという。
 古民家を改造した建物内のステージにはハープが3台並んでいた。まず演奏されたのは「ブライアン・ボル―・マーチ」(Brian Boru's March-Ireland Traditional)。「アイルランドの大王というのはアイルランドのみならずスコットランドやブルターニュなどの王でもありました。ブライアン・ボル―はアイルランド独立統一のシンボルとなった人物です」(菊地)。
 2曲目は「子守唄」(Berceuse)。菊地さんは「フランスのブルターニュはかつてケルトの独立国でした。伝統的な子守唄で、母の小さな子どもへの思いなのです」という。続けて「ブルターニュの子守歌」(Ma Franzez)。
 次が「庭の干草」(The Last Rose of Summer)。「日本にこのアイルランド民謡が入って来た時、菊が一般的だったので、花の名前が菊になっていました。でも、もともとはバラなのです。古くから伝わっているメロディですが、トーマス・ムーアの詩で有名になりました」と菊地さんは話した。
 「ダニー・ボーイ」(Danny Boy-Londonderry Air)が、菊地さんの「大切な人との別れを歌っている曲です」との説明に続いて演奏された。アメリカの作詞家フレッド・ウィザリーが歌詞をつけた。アイルランド人の中には、デリーと呼び、決してロンドンデリーとはいわない人もいるとのこと。
 次がアイルランド独立の曲「深い霧の中で」(Foggy Dew)。「1916年にイースター蜂起があった、その時の曲。イースター蜂起はイギリスによる支配に抵抗して共和国を樹立する目的で起きたものでした」。
 菊地さんはさらに「現在はウクライナの問題があって辛い。悲しい曲ですが、とても素敵な曲で、かえって辛くなってしまいます」と話した。

 「ロッホ・ローモンド」(Loch Lomond)。「これは戦争の曲です」と菊地さん。「(1688年にイングランドで起こった名誉革命の反革命勢力の)ジャコバイト党の古い曲。ケルトの文化では、故郷から離れて亡くなった人の魂を妖精が故郷まで案内してくれるという話があります」。
 次に演奏されたのは「真っ赤な真っ赤なバラ」(My Love is Like a Red Red Rose)。スコットランドの国民的詩人ロバート・バーンズが詞をつけた。そして「レディ・ディロン」(Lady Dillon)、「サリー・ガーデン」(Sally Garden)と続いた。「農夫が口ずさんでいたメロディに歌詞がつけられました。恋はあせらずにという歌です。サリーとは柳の木のこと」(菊地)。
 「行って、愛しい人よ」(Shule Aroon-Agra)は古いアイルランドの民謡だ。次に演奏された「シーベグ・シーモア」(Sheebeg and Sheemore/Turlough O’carolan)という曲のタイトルは「小さな妖精の丘と大きな妖精の丘」という意味をもつという。
 作曲した「カロランはアイルランドで有名で人気があるハープ奏者で詩人です。18歳の時に天然痘によって目が不自由になり、ハープを始めたといいます。耳がとてもよかったらしい」と菊地さんは話した。
 「エレノア・ブランケット」(Eleanor Plunkett)。「これはカロランの女主人つまりパトロンの名前」だと菊地さんは説明した。コンサートの締めくくりは「カロランの夢」(Carolan's Dream)。菊地さんは言った。「カロランはパトロンからパトロンを渡り歩く生活をしていました。今と違って車がなかったので大変だったと思います」。

アイルランドの3月17日のセント・パトリックス・デーー国の祝日でもある。アイルランド人にとって特別な日で、パレードを行うなど国中で盛大にお祝いする。

 菊地恵子さんは桐朋学園、同研究科を卒業。1970年代末にアメリカでハープ奏者としてデビューした。日本では、ケルティック・ハープ音楽の研究者・演奏者として知られ、日本初、ケルティック・フェスティバル(92年)での演奏など多くの舞台を経験してきた。
 アイルランド大使館では97年から毎年セント・パトリックス・デーの際には演奏を披露し、2005年には、アイルランド大統領マリー・マッカリース来日の際の御前演奏も行った。

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