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落語日記 地域落語会でも全力で笑わせてくれた文菊師匠

第55回ととや落語会 古今亭文菊の会
9月17日 下板橋駅前集会所
毎回楽しみに通っている、落語好きな寿司屋の親方が主催の落語会。ここのところ毎回通えている。この日はこの会のレギュラーで人気の文菊師匠の出演。文菊師匠は、二ツ目の菊六時代から出演されていて、この会を盛り上げてきた立役者の一人なのだ。
連休中日とあって、いつもの落語仲間は欠席で、私のみの参加となった。座席は、二列目正面という抜群な好位置。至近距離から、文菊師匠の高座を堪能できた。親方には感謝。
文菊師匠は、おしゃれで着物にこだわっている。なので、近くだと着物の柄や生地がよく見えて、おしゃれな着物を拝見する楽しみもあるのだ。

親方の余興「サユリです」
まずは、この会お約束、前座代りの親方の余興から。毎回、キャラや出し物を変えているので、今回登場するキャラは何だろう、どんなネタだろうかと、常連さんたちの楽しみになっている。特に、今回は司会のお姐さんから、親方が新ネタを披露してくれるとのアナウンスがあり、客席はちょっとした期待感であふれている。
そこで登場したのが、女装の親方。いつものカーラー巻いたおばちゃんとは違うキャラで、サユリと名乗る。本来は「ヒロシです」のパロディであるタダシが出る予定だったのが、阪神タイガース優勝記念に急遽変更されて登場。タダシの代演、キャラの代演とは、芸が細かい。
しかし、タダシのような音楽を流しながらの自虐ネタではなく、おばちゃんが語る漫談。
同窓会で老けた友人に歳を訊くというネタが受けたので、これを何度も押しまくる。ジジイは何度も同じことを繰り返すとイジルが、結局はサユリさんも同様だというギャグ、年齢高めの客席ではこれも大受け。上方落語と江戸落語の違いというウンチクを語るも、最後にオチを付けて締める。親方は、すっかりベテラン芸人の域だ。

古今亭文菊「幇間腹」
この会のレギュラーメンバーだが、久々の出演。待ってましたの歓迎の意が込められた盛大な拍手。いつものような表情で高座に上がる。
さっそく、前方の親方の芸について、観客を楽しませようと身を削っている芸とべた褒め。この文菊師匠の言葉は、お世辞ではなく、本当に感心しているように聞こえる。真面目に褒めていたと思う。
続いて、この日も開催されていた末廣亭での志ん生没後五十年追善興行の話。古今亭一門として、志ん生師を大切にされていることが伝わる。そして、たまたまこの日に放送されたNHKの番組「カラー化した志ん生」の紹介。この番組は1955年に収録した志ん生師の高座「風呂敷」をNHKのAI技術でカラー化し、観客を前に公開収録した番組。その番組の中の対談では、孫弟子の五街道雲助師匠、志ん生の孫で十代目馬生の長女、俳優の池波志乃さんが登場し、司会役を文菊師匠が務めたのだ。私もこの会に来る前に、番組を観てからきた。文菊師匠の明るくて華やかな表情はテレビ映えがする。まさに、文菊師匠は古今亭を代表する顔になりつつある。
この日の文菊師匠の出演はかなり前から決まっていたと思われるが、偶然にもととや落語会が志ん生追善祭りに参加したような結果となった。
このととや落語会の最近のレギュラー出演者は、文菊師匠以外にも菊之丞師匠、白酒師匠、馬石師匠と古今亭一門の売れっ子が揃っている。若手では、やまと師匠も出演されている。これだけを見ても、席亭の親方の慧眼の凄さが分かるというもの。

最近の古今亭一門の話題から、同じ芸人としての幇間の話へ。幇間の芸人としての難しさを伝えるお馴染みのマクラから本編へ。
かなりエキセントリックな若旦那は、文菊師匠の風情とぴったり。普通の独り言だけでも、結構怪しい。この後の騒動は分かっているのに、どんな無茶振りを見せてくれるのか、わくわくしてくる。
そんな若旦那のお相手、幇間の一八は、かなりシニカルで皮肉屋。どこか腹に一物、腹心を抱えた人物だ。それも幇間が持つ職業の辛さからか、かなりストレスを抱えた人物に見える。そんな二人の奇妙な対決は、笑いどころも多いが、上下関係の悲哀さを感じさせる。今の世なら、完璧にパワハラ。文菊師匠の表現が上手いだけに、一八の辛さも強く伝わる一席だった。

仲入り

古今亭文菊「抜け雀」
着物を着換えて登場。お洒落な着物を近くで拝見でき、眼福にあずかれる。
マクラは、ご自身の芸風の話から。ご自身をやや卑下して語る。落語が受けるのは自分の力量ではなく、観客の皆さんの力です。皆さんがやらせていているようなもの。なので、今日もらったギャラは自分の力によるものではないので、木戸口に捨てていきます。帰りに皆さんで拾ってください。でも、私が最初に拾いますけど。オチをつけて爆笑で締める。
続くマクラは旅の話から、ここ板橋宿にちなみ五街道、旅人に嫌われていた護摩の灰、そして駕籠かきの解説。ということで、二席目は「抜け雀」に決定。
本編は、まさに本寸法で外連味の無い一席。文菊師匠の表情も一変、きりりと締まったイイ男になる。
登場する宿屋の亭主は嬶天下(かかあてんか)で女房には頭が上がらない。こんな情けない風情を描くのも文菊師匠の得意技。絵師は、どこかツカミどころのない武家。妙に威張っている。気の強い女房は、亭主に呆れかえって既に諦めの境地。そんな三人三様のキャラを見事に表現。このキャラのぶつかり合いが笑いを生む。
絵師の父親も威厳があって、宿屋の亭主が自然と下手になって従ってしまうのが分かる。お馴染みの下げも、最初の丁寧な解説で会場全体に納得感があふれ、いい幕引きとなった。


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