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落語日記 どんな高座の状況でも、いつものように充実の一席を聴かせてくれた遊雀師匠

浅草演芸ホール 6月上席前半夜の部 三遊亭遊雀主任興行 6月5日
先日5月30日の鈴本演芸場に続き、緊急事態宣言下の寄席の訪問。この日は浅草演芸ホールでの三遊亭遊雀師匠の久しぶりの主任興行なので出掛けてきた。浅草演芸ホールの芸協の芝居は、十日間を前半と後半に別けて五日間で一芝居なので、遊雀師匠の主任興行としては楽日。
浅草の人通りは、普段の土曜日に戻っている感じ。しかし、この日の浅草演芸ホールの入場者は少ない。観客は三十人くらい。土曜日夜の部としては淋しい入り。さすがの遊雀師匠でも、まだまだ客足は戻っていないようだ。
客席の一つ飛ばして座る制限は、すでに撤廃されていた。昼の部の主任の楽輔師匠「火炎太鼓」の終盤での途中入場。

春風亭かけ橋「出来心」
元柳家三三門下の小かじさん。柳橋門下で前座修業をやり直している。芸協の芝居に馴染んできた。

三遊亭吉馬「浮世床・夢」
5代目三遊亭圓馬門下の二ツ目さん。初めて拝見。明るく元気よく、若者らしい。
マクラは、寄席のクラウドファンディングの話題。楽屋ではその金額の大きさが話題になるも、一人当たりいくら貰えるんだと勘違いしている師匠もいて、大騒ぎ。

桂小すみ 音曲
いつもながら、声がよく、唄が抜群に上手い。聴き惚れてしまう。

三笑亭夢丸「馬大家」
いつも珍しい演目を聴かせてくれる夢丸師匠。浅草演芸ホールはネタ帳をツイッターに上げてくれるので、演目名が分かって便利。この演目は、空き店を借りに来た男が、馬好きの大家の喜ぶようなことを言って、大家の気分を良くして借してもらおうとする噺。ざる屋に登場する売り子の様に、馬にまつわる答えの連発で、大家のテンションアップしていく様子が楽しい。観客も心地よく笑える。

三遊亭あら馬「初天神」
二ツ目昇進の披露目の最中。先日の遊かりさんの独演会で拝見。二ツ目に成りたてと思えない高座度胸を見せる。
マクラで悔しそうな表情を見せたのが、この日「紙入れ」を掛けようと張り切って稽古してきたのに、昼の部で掛けられてしまったことを残念そうに語ったとき。おそらく、熟女パワー全開の女将さんを見せようとしたに違いない。
そこで、客席にリクエストを募り、結局「エロい初天神を演ります」とこの噺を始める。どこがエロいんだろうと思って聴いていると、蜜の団子を舐める仕草がエロバージョン。ご本人談によると、フランクフルトの屋台を訪ねる別バージョンもあるようだ。かなり吹っ切れた女流の新二ツ目さん。

ぴろき ウクレレ漫談
ウクレレの曲「明るく陽気に行きましょう」のアレンジが少し変わったような印象。語り口も、与太郎感が減って、少し真面目になった感じ。「皆さんの運気が上がります」と観客サービスも口にする。心境の変化があったのか。

三遊亭遊史郎「ちりとてちん」
小遊三一門として、遊雀師匠の主任興行ではいつも顔付けされている。軽妙さと明るさを感じさせる独特の語り口。
お世辞が上手な人のマクラから、本編へ。この季節にピッタリの演目。「ちりとてパーティの開宴だ」と陽気な旦那。対照的に何を食べても美味いといわない暗い男。落差が笑いを生む。

三遊亭遊吉「芋俵」
芸協の中堅どころが続く。遊三一門で、芸協の寄席には欠かせない存在。マクラでは、講師として指導した際に学生が作った小噺を披露。なかなかよく出来ている。
本編も手堅く、古風な味わいのある一席。寄席でしか拝見しない師匠方が続き、芸協の寄席に来ていることをしみじみと感じる。この寄席の空気が何とも楽しいのだ。

北見伸 マジック
落語協会の奇術師にはいないタイプ。派手な音楽の伴奏のみで、セリフはほとんどない。ネタとジェスチャーで進めるマジック。ネタは本格的。この日の破った新聞紙が元に戻るマジックの見事さ。見とれてしまった。
この伸先生の舞台にも、芸協の寄席の空気が流れているのだ。

昔昔亭桃太郎「やかん」
やる気なさげな空気をまとい、のんびり登場。最近は、田舎の公民館の湯吞茶碗が高座に置かれない。せこい茶碗だねぇのギャグが聴かれないのが寂しい。これもコロナ禍の影響なんだろうか。
マクラは、その新型コロナウイルスのワクチンを接種されたそうで、その体験談から。高齢者でいらっしゃることを改めて実感。唐突に始まった本編は、「やかん」の魚根問のところまで。ツカミどころの無いふざけた問答が可笑しい。

仲入り

三遊亭遊かり「女子会ん廻し」
二ツ目の遊かりさん、本来の寄席の出番は階級名が示すとおり、前座の次の二番目という浅い時間。しかし、この芝居は、師匠が主任なので、弟子の枠ということで、クイツキという深い出番に抜擢されている。客席がコナレているが、期待も大きい出番だ。後ろに師匠が控えているし、なかなかにプレッシャーだろう。
マクラは、最近の後輩の女流落語家たちの話から。自分はある程度年齢を重ねた後の入門なので、師匠からの教えにもあるように、女の幸せを捨てる覚悟で落語に取り組んでいる。でも、最近の後輩たちは、女の幸せを掴んでから入門してくる。もしかして、この芝居に顔付けされている、あら馬さんのことを指しているのかも。
本編は、遊かりさんオリジナルで、ん廻しの女性版への改作。以前、遊かりさんの独演会で聴いた。寄席で受ける鉄板の噺になっている。

コント青年団 コント
落語協会の色物にはないコント。ここでも芸協らしさを感じる。
先生と生徒の扮装で登場したが、この日はコントはやらず、お二人の思い出話に終始して降りる。えーって感じなのだが、この思い出話が、かなりヤバい話やディスり話ばかりで、ここではとても書けない。でも、この雑談のような危ない話が爆笑を呼んでいた。面白かった。

三笑亭夢花「一眼国」
痩せた風貌が独特で個性的。芸風も変わっていて、一つ目と出会って驚く六部や見世物小屋の主人が、座布団から横に寝た姿勢でジャンプする。受けると、何度でもジャンプする。あんまりジャンプするので、噺自体の印象がほとんど残っていない。外連の極致、不思議な芸風。

柳家蝠丸「死ぬなら今」
そんな外連の後は、本寸法な一席。この芸風の起伏の激しさも芸協の魅力かも。今まで何度も拝見しているが、この日の高座で一気にファンになる。本格的で抜群に上手い。それでいて語り口は穏やかでサラッとしてる。もっと聴いていたい高座だった。
下げを先に言います、下げのときまで覚えておいてください、この冒頭のメッセージが効いている。

鏡味正二郎 曲芸
太神楽の曲芸を一人で器用にこなす。五階茶碗もお一人で手探りで頭上に組み上げる。お見事でした。

三遊亭遊雀「小言幸兵衛」
いよいよ、お待ちかねの主任登場。この芝居、終演予定時間が、通常より30分短い8時30分。なので、主任といえども、持ち時間が短縮され、20分から25分。なので、演目も制約あるようだ。そんな中で、遊雀師匠は主任としてどんな高座を見せてくれるのか、期待でワクワク。
持ち時間の関係か、マクラはほとんど無しで本編へ。

長屋の家主、幸兵衛の独り言から始まる。浅草へ寄席見学に行ってきた、こんな芸人が出演していたなあと、仲入りから後の演者の名前を挙げて、皆さんをイジル。出たーっ、名付けて遊雀マニアポイントの一つ「ぶっ込み」をいきなり入れてきたのだ。
遊雀師匠が主任のときに必ず見せてくれる荒技、高等テクニックで、前方の出演者が披露したネタの一部や設定を自分の噺の中に取り込んで見せ場を作る。これを楽しみにしている遊雀ファンも多い。この短い持ち時間の中で、効率的に見せてくれた「ぶっ込み」であり、初めて見た「ぶっ込み」の変形版なのだ。これによって、冒頭から一気に盛り上がった。制約された中で、最大限に得意技を活かす工夫を見せてくれた。さすが、期待を裏切らない遊雀師匠だ。
この幸兵衛は、一人芝居で勝手に盛り上がっていく。エキセントリックの極み。この奇妙さは笑わずにいられない。また吹っ切れ感も凄い。

コロナ禍の影響で終演時間が前倒しになり、主任も本来のトリネタが掛けられる持ち時間がない。短い演目では、前方の演者とネタ被りの危険性もアップ。そんな、演目選びにも制約が多い状況。そんな中でも、充実の一席を聴かせてくれた遊雀師匠。いつものように観客を満足させてくれた一席だった。

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