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落語日記 浅草演芸ホール 7月上席昼の部 金原亭馬生主任興行

7月4日
 前週の遊雀主任興行に引き続いての浅草演芸ホール。7月上席は、毎年恒例の馬生一門が中心となって茶番が披露される金原亭馬生師匠主任興行。

 太神楽という江戸時代に広まった伝統芸能がある。この太神楽は四種類の芸能で構成されている。それは、「舞」「曲芸」「話芸」「鳴り物」の四種である。この興行の最後に大喜利として掛けられている茶番は、この太神楽の中の芸能のうち、数人が掛け合いで行う「話芸」が源流らしい。今風にいうと、コントのようなもの。題材は歌舞伎の演目などが題材となり、そのパロディのような寸劇となっている。この茶番は、太神楽師に受け継がれている。
 馬生一門は、太神楽師の翁家和楽師匠から指導を受けて、寄席で茶番を披露してきたが、平成26年に和楽師匠がお亡くなりになってからは、翁家和助さんを中心に稽古されているようだ。

 この茶番以外でも、馬生一門は寄席での鹿芝居や高座舞などでも中心メンバーとなって活躍している。そんな、芸事の好きな一門なのだ。芸達者な馬生師匠を座長とする一座は、この日も楽しい茶番で客席を盛り上げた。
 メディアで観ている今風の流行りのコントとは違い、どこか長閑でのんびりした笑いを生むコント。出し物自体が歌舞伎の演目という古典なので、その笑いどころもどこか時代を感じさせるもの。落語の笑いどころと通じ、お約束というか分かりやすいボケが穏やかで和ませる。
 演者の皆さんが、ときおり見せる少し恥ずかし気な素顔、その照れた表情が微笑ましい。馬鹿馬鹿しいことを真面目に、一生懸命に。コロナ禍の影響もあって、登場人物を最小人数にしての茶番だった。

 目玉は最後の茶番なのだが、この芝居の顔付けもバラエティーに富んでいて、好きなメンバー大集合にテンションアップ。
 昼席なので、チャンスは土日のみ。馬治師匠の出演日を狙ってこの土曜日。混雑状況が読めないので、開演前から乗り込む。結局、昼の部は、ゆとりある入場者。馬治ファンの顔見知りがチラホラ。

番組

柳家り助「寿限無」
 前座らしからぬ達者さ。口跡鮮やかで声も大きい。名前が「鶴太郎、姓が片岡だからだめ」などオリジナルなクスグリが可笑しい。将来が楽しみな前座さん。

金原亭小駒「生徒の作文」
 髪の毛がクルクル、ニコニコしながら登場。なかなか濃いキャラになってきた小駒さん。日光からやって来たニコニコ忍者を思い出す。登場人物に、中尾彬やマモル君と、身内の名前を並べるが、反応いまいち。

春風亭三朝「洒落番頭」
 三朝師匠は久しぶり。というか、落語協会の生の落語は久しぶり。なので、今日の皆さんは、みな久しぶり。飄々として、明るく流暢な口調は相変わらず。

アサダ二世 マジック
 アサダ先生も、お元気そうで何よりです。感染症対策のためか、客イジリするネタはやらないようだ。いつものロープや風船が無いのだ。なので、私にとっては珍しいネタのオンパレードだった。

寿二ツ目昇進 柳家小はだ「つる」
 この芝居も二ツ目披露興行。配信でなく、生で出来て良かった。
 すごく良い声が印象に残る。日本を代表する鳥、通じがつく、そんな言葉が新鮮に聴こえる。落語でしか聴かない言葉。寄席に居るんだなあとシミジミ。

桂三木助「だくだく」
 五代目も久しぶり。マクラでは、師匠の教えが「上手くなったつもりで堂々とやれ」というイイ話。そこからツモリの噺へ。
 軽い芸風が似合っている。壁にラジオを書いてもらう。そこに、フキダシを書いて、ラジオの音声が書き込んである。面白い。下げが独特。だくだくで終わらない。隣の画家が登場。初めて聴く下げ。

すず風にゃん子・金魚 漫才
 コロナ禍を感じさせない元気いっぱいの高座。ゴリラも登場。でも、客席からのバナナの差し入れは、当分自粛かも。

古今亭菊之丞「替り目」
 コロナ禍での自粛生活のマクラ。家呑みは二次会がないので、飲んでしまう。落語家でも下戸が多い。落語家の打上げ風景は面白い。そんな楽しいマクラで盛り上げる。
 本編は、酔っ払いが可愛い一席。まだ行かねえのか、まで。

桃月庵白酒「壺算」
 この日の香盤は豪華版。人気者から重鎮まで顔をそろえている。丞様から人気者が続く。
 何で可笑しいんだろう。大笑いした一席。瀬戸物屋の主人が、人が好くて抜けている。この主人の描写が抜群に可笑しい。

仲入り
 ここで、感染症対策のガイドラインにより、空気入れ替えタイム。私はトイレタイム。

林家二楽 紙切り  桃太郎(鋏試し) 七夕 チコちゃん
 以前よりも痩せてみえる。コロナ禍の自粛期間中も節制されていたのだろうか。相変わらず見事な技。

入船亭扇遊「初天神」
 寄席が似合う落語家だと思っている。高座に居るだけで客席が暖かく感じる。そんな師匠。再開した浅草で拝見できてうれしい。本寸法でキレイな芸風。金坊も上品な悪ガキ。団子屋まで。

鈴々舎馬風「楽屋外伝」
 白髪姿になって初めて拝見。印象がずいぶん変わった。ジャバザハットじゃなくなった。
 昭和の名人たちの思い出話。志ん生、小さん、三平と物真似を交えて経験したエピソードを語る。浅草演芸ホールのツイッターでは、ネタ帳の画像がアップされていて、馬風師匠のネタも分り、便利になった。

林家あずみ 三味線漫談
 ご自身が面白いと思ったネタを披露するのだが、こちらはそんなに面白くないのに、何故かホッコリするという芸風。これが面白い。学校寄席に行った後にもらった生徒の感想文。不思議な可笑しさ。
 ご自身の芸人になる前の前職のエピソードも楽しい。和菓子会社へ就職し、デパートでの販売員の経験を再現。やはり経験談は面白い。

五街道雲助「持参金」
 なかなか聴けない珍しい噺。仲入りの出番で長め。
 噺は、妊娠させた女性を金で押し付けるという筋書で、女性蔑視の男性本位の噺。だからか、鈴本演芸場では、上演禁止の噺らしい。
 聴いた後に考えると、確かに酷い男たちなのだが、雲助師匠の一席を聴いている最中は特にそんな印象もなく、笑って聴けた。金は天下の回りものという、何てことのない下げ。そんな酷い噺を、ノンビリと聴けるのは雲助師匠ならではの語り口だからだろう。

仲入り

金原亭馬治「手紙無筆」
 やっとお待ちかねの登場。ところが、この後の出演順が急遽変更され、持ち時間4分という高座になった。なので、マクラも短く本編へ。この持ち時間の短縮によって、結果的に瞬発力あふれる一席になった。
 馬治師匠では初めて聴く演目。兄貴分の惚け具合と馬治師匠のすました顔とのギャップで、不思議な可笑しさがある。
 4分なので、噺は途中までだからか、キャラも吹っ切れている。突然入ってくる、どこかの店員のような「入りました!」のセリフ。公の付く人は偉いんだ、と言って出す例も馬鹿馬鹿しい。

古今亭菊春「権助芝居」
 菊春師匠の本来の出番は雲助師匠の前。実は遅刻したので、馬治師匠の後ろに入れてもらったと、マクラで事情を告白。焦って上がったからか、本編もカミカミ。そんなハプニングも寄席の楽しさ。芝居好きの菊春師匠らしい演目。

ロケット団 漫才
 この日も毒舌時事ネタ炸裂。渡部スキャンダルでイジリまくる。安定の可笑しさ。

三遊亭圓歌「お父さんのハンディ」
 終盤に向かって、豪華陣が続く。登場すると、あっという間に観客を高座に引き付け、客席の一体感を作る。
 さすが、圓歌師匠。華やかさもある。ゴルフ好きが高じて、何でもない日常の言葉にいちいち反応して、妄想の世界に飛んでいくお父さん。この馬鹿々々しさによって、落語を客席で聴けることの嬉しさを実感する。

林家正蔵「松山鏡」
 自粛期間中に外出されていたのか、日焼けしたお顔。すっかり貫禄もついて、重鎮の面持ち。
 長閑な民話のような噺。語り口も日本昔話のよう。田舎弁が似合う正蔵師匠。この噺の面白さは、筋書きでも下げでもない。それは、鏡を見たことがない人々の長閑なリアクションの可笑しさなのだ。そんなことを気付かされた一席。

翁家社中 曲芸
 和助小花夫妻の息の合った芸。ちょっとしたコント風の味付けも楽しい。和助さんは、茶番の伝統の承継にも取り組んでいる。この茶番興行の立役者でもある。

金原亭馬生「紙入れ」
 久々に拝見する馬生師匠もお元気そうで、ほっとする。馬生一門を率いて自粛期間中を過ごされて、やっと寄席が再開されて、恒例の茶番興行を迎えることが出来たのだ。高座に上がった馬生師匠の喜び嬉しさは、演芸ファン以上のものがあると想像する。そんな喜び嬉しさが満面の表情にあふれている。
 得意の噺で一席。まずは定番の町内の豆腐屋のお内儀さんの間男騒動の小噺。ここから女将さんと新吉の色っぽい会話が始まる。色気の表現は抜きんでている馬生師匠。久々に馬生師匠の色気を堪能。

大喜利 茶番「大磯廓通い」(おおいそくるわがよい)
出演 馬生 菊春 馬治 和助 小駒 馬太郎
 コロナ禍の影響もあって、登場人物を最小人数にしての茶番だった。
 今年の演目は、2014年に上演された「大磯廓通い」。歌舞伎の曽我兄弟の仇討ちもののパロディ。私は二度目。
 馬治師匠が口三味線と義太夫を担当。相変わらず、このもっともらしいインチキ義太夫が、なかなかの出来。もっともらしく唸る。座長の馬生師匠が菊春師匠をイジリ倒す。本当に倒す。二人の遣り取りがイイ味を出している。
 今回も、出演者の皆さんの一生懸命ないつもながらの華やかで楽しい悪ふざけを拝見できて、シミジミほっとする。休席からの再開、なので例年より感慨深い茶番となった。最後は、これも恒例のかっぽれの総踊りでお開き。

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