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落語日記 密室感、親密感あふれる落語会で、素の魅力を見せてくれた二人

遊かり一花のすききらい vol.9
7月4日 新宿 フリースペース無何有
三遊亭遊かりさんと春風亭一花さんのお二人が、自分たちの好きな噺と苦手な噺に交互で取り組んでいる落語会。前回Vol.8は「きらい=苦手」な噺に挑戦する回だったので、今回は「好きな」噺の回。毎回、それぞれ二席づつ掛けるのだが、元々は二席とも好き嫌い縛りのある演目だったが、やはり二席は辛いと、現在は一席のみの好き嫌い縛りで行っている。
好きな噺と言っても、得意な噺とはイコールではない。好きな噺とも格闘するのだ。そんなお二人の格闘する姿と、二人の組み合わせによる独特の雰囲気が楽しくて、最近通っている会。前回よりも人数制限を緩和して座席数を増やすも、この日も常連さんで満員御礼。
狭い会場にお二人目当ての常連さんが集まっている会場の雰囲気は、どこか秘密クラブのような、親密で濃厚な空気に満ちている。これは演者のお二人も感じているようで、オープニングトークやマクラでは、普段は話さないようなここだけの話がときどき顔を出す。つぶやかないでくださいね、そんなお願いが何度も聞かれる。
 
オープニングトーク
お二人とも、BS笑点にレギュラー出演されている。そんな共通の話から。女流大喜利では私だけがオバサン枠扱いと、自虐的に話す遊かりさん。司会の昇太師匠を喜ばせると座布団がもらえることに気付いたと遊かりさん。収録2本目は要領よく座布団を稼いだと裏話。
この日に挑戦する好きな演目を発表。遊かりさんは「寝床」、一花さんは「祇園会」と、お二人とも大好きな師匠の十八番の噺を選択。なかなかに、意欲的。
遊かりさんは、直近の会で「寝床」を掛けたけどダダ滑りだったので、「転宅」でも良いですかと客席にアンケート実施するも、客席は全員一致で「寝床」に決定。遊かりさんの悪戦苦闘が見たい観客は、全員ドSに違いない。
 
三遊亭遊かり「真田小僧」 
好きな噺の回で、今回はトリの出番。なので、まずは遊かりさんから。
マクラで話す近況は、ネットでも話題になっていた遊雀師匠の入院の話から。明日退院です、と快復されているという嬉しい報告。そこから、師弟の話、女将さんとの交流の話。独演会などのマクラでの師弟の話題は遊かりさんのお約束。
本編は遊かりさんでは初見。前座修行をきっちり積んでこられたことを感じさせる一席。悪ガキの金坊が可愛い。
 
春風亭一花「祇園会」
まずは、出演されている映画「二つ目物語」の宣伝から。出演することになった切っ掛けなど、撮影の裏話。チケットも持って来てるので買ってください。
遊かりさん所属の芸協との関わりの話題。王子で鯉昇師匠にゴチになったことがある。この王子の店が、鯉昇師匠行きつけの店で、ホッピーなどの中の焼酎が濃く、すぐに酔っ払ってしまうことで有名な店。ということは、鯉昇一門御用達の名店「宝泉」のことだろう。
話題は、祭り好きの父親の話へ。千貫神輿で有名な地元の鳥越神社のお祭りが大好きで、父親はこの千貫神輿を無断で担ぐ者を剝がす役で大活躍。祭りのために一年を過ごしている、父親はそんな感じらしい。一花さんが弟子入りのとき、父親は一朝師匠に、お祭りのときだけは休みを下さい、とお願いしたというエピソードを披露。そんなお祭り好きな江戸っ子の話から、上手い流れで本編へ。
 
この噺は、祇園祭を舞台に、京見物に出掛けた江戸っ子と地元京男との、地元自慢合戦がエスカレートとして口論になるというもの。江戸言葉のお手本となっている一朝師匠ならではの、江戸っ子の啖呵や祭り囃子が楽しい演目。一花さんは、江戸っ子の自慢の祭り囃子を、一朝師匠譲りのエアー祭り囃子で見事に笛や太鼓の音色を表現。客席からも拍手。一朝リスペクトが感じられるし、その芸風を見事に引き継いでいる。
一花さんの京言葉も、雰囲気が出ていて及第点。京自慢を繰り返す京男に対し、我慢に我慢を重ねた江戸っ子が遂に爆発してしまう。この威勢のいい啖呵は聴かせどころ。さすが、祭り好きな父親に幼少のころから仕込まれた江戸っ子気質が、一花さんの高座に見事に結実している。可憐な見かけに反して、一花さんの高座から威勢や気っ風の良さを感じるのは、なるほど、父親の血筋だったのだ。下町気質をしっかり受け継いでいる一花さんを、同じ下町育ちとして、ますます応援したくなった。
 
仲入
 
春風亭一花「のめる」
ネタ出しの一席を終えてほっとした表情の一花さん。マクラも、気取らず下ネタで笑わせる。前座のころは、トイレを我慢して病気になったというエピソード。表現が凄いので、リアルには書けません。
最近、髪を切った話で、上方落語の二葉さんが紹介してくれたヘアーサロンに行った話。天どん師匠のアドバイスで、美容師さんにホラン千秋みたいにして下さいとリクエスト。
マクラも楽しい一花さん。これ以上、詳しく書けないのが残念。
 
本編は、少し飲み込みの悪い八五郎と、機転の利く半公の対比が面白い噺。この対比の中で、八五郎が粗忽ぶりを発揮するも、江戸っ子の人の好さを感じさせるのは一花さんの気質からだと思われる。
江戸っ子らしさを感じる言葉遣いとして、四斗樽のことは「ひとだる」と聞こえる。本来は「しとだる」だろうが、江戸っ子なので「ひ」と「し」が逆転しているようだ。
一花さんのクスグリで面白かったのが、醬油樽が入っていた物置で、上に人が乗れる物置。また、詰将棋の場面で、うるさい八五郎が「十秒、八秒・・・」と持時間の秒読みをする。そんな細かいクスグリが楽しい一席。
 
三遊亭遊かり「寝床」
この日のトリの出番は遊かりさん。ネタ出しの一席で、いささか緊張の面持ち。
マクラは、演目にちなんだ道楽、趣味の話から入る。一門の師匠方の例を出して、小遊三師匠は卓球、遊雀師匠は乗り物好き、それぞれの好きの度合いについて語る。自分の趣味は何かと振り返ると、歌舞伎や文楽など古典芸能が好き。今でもたまに、公演を観に行く。
さすが、文楽にも造詣が深い遊かりさん。文楽の舞台について解説してくれた。文楽の舞台で浄瑠璃語りと三味線弾きの座る場所を「床(ゆか)」と呼ぶ。この床の前の客席が、通にとっては特等席。唾が飛びまくる唾被りの席が、浄瑠璃語りの太夫の表情がよく見えて、通にはたまらないらしい。
この解説を聞いてふと気付いた。この噺の演目にもなっている下げに登場する「寝床」という言葉、義太夫節を唸っている大旦那にとっての舞台である床(ゆか)と、小僧定吉の寝床の床(とこ)とが掛詞になっている。いまさらながら、なるほど、洒落なのかと感心。これも、遊かりさんの解説のおかげ。
 
本編は、遊かりさんの遊雀師匠の寝床に対する愛に溢れる一席であり、遊雀ファンにとっても一層楽しめるものだった。特に、後半の番頭が大旦那を説得する場面は、遊雀テイスト溢れるものだった。
それに加えて、遊雀師匠の得意技である前方のネタの取り込み(私は、ぶっ込みと呼ぶ)も散らばめられていて、遊かりテイストも加わった楽しい一席となっている。「奉公人の一花はどうした、トイレに行きたくて出て行きました」「奉公人が登った物置は百人乗っても大丈夫なのに、屋根から落ちて怪我しました」一花さんの「のめる」で登場した物置に私は刺さっていたが、遊かりさんもこれを拾ってくれて感激。
大旦那が発する強烈な義太夫の唸り声、遊雀師匠も凄いが、遊かりさんも強烈。女流でここまでやるのか、っていう凄さだ。
師匠の十八番を、全身を使って大汗かいての大熱演。終演後には、試合後のアスリートのような表情を見せた遊かりさんだった。
 
エンディングトーク
最後はお二人そろって高座にあがり、終演の挨拶と撮影タイム。本人たちにとっての出来栄えや達成感は分からないが、観客側から見ると、お二人とも完全燃焼の高座であったことは間違いない。

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