見出し画像

落語日記 小規模な会で、目一杯らしさを発揮した馬石師匠

第58回ととや落語会 隅田川馬石の会
3月10日 下板橋駅前集会所
毎回楽しみにお邪魔している板橋の寿司屋ととやの親方主催の落語会。前回の入船亭扇辰師匠の会に続いて参加できた。
今回の出演者は、すでにととや落語会のレギュラーメンバーとなっている隅田川馬石師匠。常連さんたちにもお馴染みの様子。この日も満員で賑やかな客席は、開演前の食事タイムのときから既に、お待ちかね感が充満。私も馬石師匠をじっくり聴けるのは久し振り。この会の出演者は皆さん私好み。主催者の親方と落語感性がほぼ同じなことが分かる。

親方の余興「変な外人ジョージ」
私の日記をお読みの方ならご存じのとおり、この会はまず、前座代りの親方の余興から始まる。毎回出し物を変えているので、どんな出し物が飛び出すかは常連さんたちのお楽しみ。
さて、この日はこの余興のレギュラー出演者とも言えるアイダホォからやって来た怪しい外人のジョージ。外国語訛りの変な日本語でジョークを連発して笑わせる。
アメリカから日本に来て、物価が安いと感じたと言うジョージ。それも大きな勘違いというネタ。コロナ禍が終わってインバウンド需要が高まっている時流を、見事に捕まえて笑いの種にした親方だ。
最後に、十八番の「なごり寿司」を歌って客席を盛り上げた。

隅田川馬石「崇徳院」
登場されたときのニコヤカな表情から、この会に初めて出演されたときの表情とは違ってきていると感じた。この会のレギュラーメンバーとして、高座を重ねてきたことの証しだ。親方イジリも、レギュラーメンバーならでは。
マクラの話題は、師匠の五街道雲助師匠が人間国宝になったことから。師匠自体は特に変わってはいないようだが、弟子を始め周囲は戸惑いがある様子が伺える。学校寄席に出演されたときの話から、花見の季節の話題へ移り本編へ。
さて、この季節のネタとして何を掛けてくれるのだろうと思っていると、若旦那の恋煩いから、おーっ、いきなりこのネタかと嬉しくなる。
馬石師匠の人間描写からは、どんな登場人物に対しても温かい視点を感じている。恋煩いの相手のお嬢様捜しを頼まれた出入りの男は、元来はお人好しだが、欲望にも正直な男。あてどなく考えもなく探し回る様子は、滑稽で笑いを誘う。しかし、馬石師匠の描く人物からは、呑気で悪気の無さが伝わってくるので、のどかな物語として聴ける。お嬢様捜しに、必死になればなるほど可笑しさが増すのがこの演目。笑えるかどうかは、この男の人物描写にかかっている。男の突き抜けた必死さが、爆笑を呼んだ。そんなことも感じた馬石師匠の一席。

仲入り

隅田川馬石「締め込み」
仲入りで、空気を変えて後半戦。マクラは趣味のランニングの話をたっぷり、過去のエピソードを丁寧に。いつも走っている荒川土手。走ったあとに荷物を置いている四つ木橋のたもとに戻ると、警官がいて職務質問を受ける。どうやら、近所で不審火があったそうだ。落語家であることを正直に話し、芸名を聞かれて、素直に答えたのが当時の芸名「五街道わたし」。この答えに怪しさが増したというところがオチで、会場爆笑。
本編は、人の好さが際立つ人物である泥棒の引き起こす騒動が、可笑しい一席。夫婦も感情の発露が極端なだけで、内心は仲の良い夫婦。馬石師匠が見せてくれる口喧嘩の様子も、感情の機微が明瞭ではっきりしていて、喜怒哀楽の表情が分かりやすい。この極端すぎるくらいの感情表現が見事なのだ。
夫婦喧嘩の切っ掛けを作ったうえに、実害はないものの犯罪者である泥棒に対する優しさを見せる夫婦。こんな有り得ない設定も、この夫婦ならアリだと思わせる。これも、馬石師匠が描く登場人物たちが、みな愛すべき好人物だからだ。そのうえで、笑わせてくれる馬石師匠。この馬石師匠の魅力をたっぷりと味わえた落語会であった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?