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落語日記 お座敷落語の贅沢さを味わえた金原亭馬生一門の兄弟会

新富寄席
7月17日 呉服なかや
新富町にある呉服屋さん主催の落語会。会場はお店の二階の座敷、なので、十数名で満員の客席。お店のご主人が金原亭馬生師匠の高校時代の同級生。その繋がりで、馬生一門が出演される落語会を開催している。この日も、同級生の皆さんが数名参加されていた。今回は、惣領弟子の馬治師匠と四番弟子の馬久さんが出演する番。会場に居ると、馬生師匠の同級生の皆さんが、馬生一門の弟子たちのことを可愛がっている様子が伝わってくる。そんな温かな雰囲気の会。
私がこの会の前に訪れた落語会は、遊かりさんと一花さんの会。なので、前回は妻の一花さんで今回は夫の馬久さんという、偶然にも夫婦繋がりの流れとなった。
 
金原亭馬治「鮑のし」
まずは、この日のトリの馬治師匠が開口一番を担当。高座と客席が近く、会場が和室なので、まさにお座敷遊びのような贅沢な雰囲気を味わえる。
マクラは、このお店との思い出話から。二ツ目昇進のときに、羽織をこのお店で誂えた。お金がなかったので、代金は分割払いにしてもらった。この店は、駅から師匠の家に向かう途中にある。支払うお金を持っていないときは、この店を避けて遠回りして師匠宅へ通ったという、そんな青春の思い出の場所なのだ。馬治師匠の思い出話を、お店のご主人や師匠の同級生たちも、ほのぼのとした笑いで聴いていた。
本編は、寄席でよく掛けている噺。この日の下げはオリジナル、鮑の丹下段平。師匠の同級生たち大先輩世代を意識したものだろう。
 
金原亭馬久「臆病源兵衛」
馬久さんは久々に拝見。ちょっと、ふくよかになられた印象。やはり、幸せ太りなのでしょう。相変わらず、良い声だ。
まずは、前の馬治師匠の一席を受けて、鮑のしで甚兵衛さんが50銭を借りに行くお向かいの家の山田さんの子孫に会ったことがあるという話。この噺を掛けていた志ん生師は、お向かいに住んでいて仲の良かった医者の山田さんをこの落語に登場させていた。なので、古今亭の皆さんは、鮑のしではお向かいさんを山田さんという設定にされている。古今亭一門が、志ん生師の噺を大切にされている証しでもある。そのモデルとなった実在の山田さんの子孫の方に、馬久さんは会ったことがあるそうなのだ。
本編は、臆病者の描写が肝の噺。真面目に極端に怯える様子は、理屈抜きに面白い。臆病さと好色さが見事に吹っ切れている源兵衛。馬久さんの十八番だろう一席。
 
仲入り
 
金原亭馬久「富士詣り」
マクラから山岳信仰の話、昔は大山や富士山へ講という集団を作って、山頂へ参詣する登山が盛んだった。そんな話から、馬久さん自身の富士登山の経験談。一生に一度は富士山に登るべきと言われているが、その富士登山の感想としては、富士山は一生に一度行けば充分、というもの。相当に辛かったようだ。
マクラの話から、山岳信仰の噺だろうと思っていたが、大山詣りではなく、富士詣りの方だった。昨今の寄席ではあまり聴くことがない、珍しい噺。馬久さんは、珍しい噺に挑戦するのが好きなようだ。
噺の舞台は、七月一日の富士山の山開きに登山して頂上の富士権現に参詣する富士講の道中。天候の急変に、慌てる参加者たちが大騒動。災難から逃れるために、先達と参加者たちが、五戒を破ったことを懺悔する問答を繰り返す。この懺悔が馬鹿馬鹿しくて笑わせてくれる。噺が進むと、登山自体が関係なくなってくる。その辺りもちょっと不思議な噺を、きっちり好演した馬久さん。
 
金原亭馬治「景清」
トリの出番は、久々に聴く馬治師匠の十八番の一席で締める。以前はよく掛けていたが、最近はご無沙汰していた演目。
久しぶりに聴いた印象は、落語の演目らしさが強くなった感じがした。以前のような熱演というより、この日は、全体に力が抜けているというか、淡々と語っていた感じ。なので、登場人物の定次郎や支援者の旦那が、どこかマイルドで長閑な印象、まさに落語世界の住民という香りが漂うものだった。久々に掛けたということは、時間を置いて熟成させていたということ。これが、噺に良い効果をもたらしたのかもしれない。

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