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落語日記 端正で本格派の兄弟弟子二人の落語会

第8回 雷門小助六・雷門音助スケスケ兄弟会
4月29日 お江戸日本橋亭
九代目雷門助六師匠の弟子である小助六師匠と音助さんの兄弟弟子による「スケスケ兄弟会」に初訪問。
ネットによると2014年から始まったそうなので、今年は足掛け10年目を迎えるが、コロナ禍で休止されていて、今回が2020年12月以来、2年4ヶ月ぶりの開催とのこと。当日の日程が空いたので、東京かわら版を見て丁度いい時間帯の会だったので予約無しで出掛けてきた。
雷門音助さんは、芸協の若手で評判が良いし、小助六師匠の端正で本寸法な芸風は気になっていたので、タイミングが上手く合った。私は前々から計画を立てて、寄席以外は予約してから伺うパターンがほとんどなのだが、今回の様に、当日思い付いて訪問する落語会は久しぶりかも。自分の直感を信じて、行くことにした。結果、予想以上の大当たりの会だった。

桂しゅう治「手紙無筆」
前座さんは、桂小文治師匠のお弟子さん。久々に前座さんらしい前座さん。真面目に精進されている様子が伝わる。

雷門音助「人形買い」
トップバッターは音助さんから。私は主任を小助六師匠と予想していたので、ちょっとビックリ。音助さんからも、私が最初の出番ということは主任も私です、兄弟子は主任をとりたがらないので。そんな言い訳のようなコメント。ということは、音助さんの主任のネタが聴けるのか、と期待が高まる。
まず一席目は、珍しい噺。マクラは、もうすぐ子供の日なので雛祭りや端午の節句の話題から。端午の節句の祝い方、武者人形や柏餅などの解説を丁寧に。そこから、端午の節句由来の噺へ。
噺の筋書きは、長屋中から寄付を集めて初節句の祝いに人形を贈ることになり、月番の八つぁんと熊さんが人形を買いに出掛ける騒動を描くもの。買い物に来た場所が十軒店と呼ばれるところ、この会場日本橋亭のすぐ近所というご縁も面白い。
噺は「焼き豆腐を忘れていた」で下げる途中で切る型。と言っても、珍しい演目なので、あまり記憶にない。きっちりとした語り口は、さすが評判どおり。一席目は、季節に合った珍しい噺で会場を盛り上げる。

雷門小助六「佃祭」
マクラあっさりで、本編へ入る。まずは下げに繋がる歯痛のまじないの話を丁寧に。戸隠様に歯痛が治りますようにと願を掛けて、梨を川に流すという風習。と言うことは、与太郎の下げまでいくことが分かる。また、佃島の漁民たちと家康の繋がりなど、この噺にまつわる歴史的な話まで伝えてくれる。この導入部があるので、噺自体が格調高く感じられる。
まず、前半の佃島でのドラマ。小間物屋の次郎兵衛、助けた女性とその亭主の三人が、小助六師匠の端正で本寸法の語り口で、心地良く進んでいく。この前半は、助けた女性に助けられる因縁を描く人情噺の風情。それに対比される後半は、死んだと思った次郎兵衛の葬儀を巡るドタバタ劇を描く滑稽噺の様相。この流れが自然であり、噺本来の面白さを見せてくれた。
マクラを振らなかったためか、途中で噺を止めて、今回の兄弟会の話や音助さんイジリを挿入。今回の主任を譲ったのは音助さんのためを思ってのことだと、兄弟子らしさを発揮。音助さんの兄弟子イジリのお返しに会場大受け。
余計な入れ事をせず、噺そのものの可笑しさで勝負した小助六師匠。まさに本格派であり、私の好きなタイプだと強く感じた。

仲入り

兄弟トーク
出囃子の代わりに、鳥羽一郎の兄弟船が流れるなか、二人が登場。司会は、しゅう治さん。予め会場から質問を募り、お二人が回答するという形式。真面目な質問が多く、お二人も真面目に答えていた。
印象に残った質問と回答は、落語家を志した切っ掛けは何ですか。小助六師匠の回答は、小学3年のとき春風亭柳昇を聴いて、すぐに落語家を目指した。そんな小さなときからの一途な志を見事に果たして落語家になられたことは、他にそうあることではない。まさに、子供の頃の夢を叶えた小助六師匠。落語に対する強い思いを感じさせる話だ。
音助さんは、お笑い好きがきっかけで大学で落研に入部し、そこで初めて落語を聴いた。その時点では落語家になるとは思っていなかった。卒業後は就職したが、落語家になる夢を諦めきれず脱サラして落語家になった。なかなかに対称的なお二人。落語家に至る道程もそれぞれだ。
トークの終わりは、お二人で「喧嘩かっぽれ」をひと踊り。

雷門小助六「磯の鮑」
この日は、弟弟子に花を持たせるので、二席目は軽い滑稽噺。廓を舞台に、与太郎が主人公の鸚鵡返しの噺。
与太郎をからかう仲間たち。ここでは悪意やイジメを感じさせると笑えなくなるが、粗忽者でも仲間として扱っているので気持ちよく笑える。与太郎らしさが見事、滑稽噺にも技量を発揮された小助六師匠。芸域の幅は広そうだ。

雷門音助「ねずみ」
さて、主任の一席を兄弟子から譲られた音助さん登場。兄弟会での大役は、ある意味プレッシャーだろう。そんな重圧を撥ね退け、大ネタに挑戦された。そして、兄弟子に負けず劣らず、音助さんも本格派本寸法の一席を見せてくれた。
ベテランのような落ち着きも感じ、仙台の貧乏旅籠の鼠屋主人の実直さ、その息子の健気さが心地良い。甚五郎は、どこか超人的で人間臭さがないところも、ヒーローらしくて良かったと思う。

一門の兄弟弟子ながら、芸の上ではライバルとして切磋琢磨している様子が伝わる落語会。予備知識ほとんど無く飛び込みで訪問した兄弟会は、予想を大幅に上回り、大当たりを引いたような会だ

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