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落語日記 落語愛がビンビンと伝わる天狗連の皆さんの発表会

第26回 落語寺子屋発表会
10月30日 台東区小島社会教育館ホール
お邪魔したのはアマチュア落語家、いわゆる天狗連と呼ばれている社会人落語サークル主催の落語会。これが、日頃の稽古の成果を披露する発表会。天狗連の会はほとんどお邪魔しないのだが、この日は落語仲間のお一人が、アマチュア落語家として稽古されていることを知り、今回、その稽古の成果を披露する発表会に初めて訪問してきた。
この社会人落語サークルは「落語寺子屋」といい、橘ノ圓満師匠の指導の下、参加者それぞれが演目を決めて稽古し、その成果を年3回の発表会で披露しているそうだ。コロナ禍の影響で、前回の発表会は無観客の収録による動画配信だったそうなので、観客を入れての発表会は一年ぶりらしい。
橘ノ圓満師匠もプロになる前は、社会人落語家として活動されていた。実は、私は天狗連時代の圓満師匠の高座を聴いたことがあるのだ。ある天狗連の会で聴かせてもらったとき、抜群に上手な出演者だったので記憶に残っている。天狗連からプロになったご自身の経験から、天狗連の皆さんを熱心に指導されていることの動機が容易に想像できる。

何度か天狗連の発表会にお邪魔したときの経験から、アマチュア落語家の落語を聴くのは、プロの芸人の落語会や寄席で落語を聴くことと全く異なるものと考えている。プロは観客を楽しませることを目的として落語を披露し、アマチュアは自らが達成感を得るために落語を披露している。なので、同じ目線で比較してはいけない。観客は落語を楽しむことより、演者の奮闘ぶりを楽しむものなのだ。
圓満師匠が素人時代にそうだったように、アマチュアでもプロ顔負けの技量を見せてくれる方もいる。今回の出演者の中にも、上手な方もいたので、落語自体を楽しむこともできた。しかし、技量はそれぞれで、落語自体を楽しむことが出来るのは全員ではない。
演者の上手下手を判断せず、長い噺を覚えられるまでの苦労を感じて、つまずきながらも下げまで噺を進めていく奮闘ぶりや突然のアクシデントで、まさに演者同様に手に汗握る緊張感を味わえる。そして、知り合いの出番では、まさに応援団となって聴いているのだ。
プロの芸を聴いているときは、演者が噺を覚えていることを感心することはほとんどない。逆に、間違えたり言いよどんだり途中が抜けてしまったりしたときに、マイナスに評価する。しかし、アマチュアの場合は、下げまでたどり着いただけでも、よく覚えられたもんだと感心できる。それは、天狗連の皆さんも観客である我々もプロの落語家ではないという立場は同じであって、自分自身に当てはめてみると、素人が落語を覚え語ることの大変さが容易に想像できるからだ。

もうひとつ、落語ファンとしての天狗連の落語会の楽しみ方は、素人演者の落語を聴くことによって、落語特有の表現に気づいたり、プロの演者の凄さを強く再認識できることにあると思っている。
普段、聴いていて特に意識していなかった落語特有の演出で、この日に強く意識したものがある。それは、ト書きのような説明が一切ないのに、他の場所にいる登場人物が突然登場することによって、いきなり場面が切り替わるという手法だ。
プロの噺を聴いていると、当たり前にみられる場面転換の手法なのだが、この日はこの手法を強く意識することになった。それは、人物描写の描き分けが上手く出来ていないので、同じ人なのか違う人なのか登場人物の見分けがつかないときがあったのだ。人物の見分けがつかない状態で場面転換しても、場面転換していることが伝わってこないのだ。なるほど、プロは場面転換を何気に見せてくれているが、これはなかなかに凄い技なんだと、改めてプロの凄さがよく分かる。

この落語寺子屋の社中の皆さんは、熱心な落語ファンであることは、この日の演目をみても伝わってくる。プロの落語会でもなかなか聴けない珍しい演目、マニアックな演目が並んでいる。そして皆さん、これら演目に果敢に挑戦されていた。その皆さんのチャレンジ精神は素晴らしいと思う。
会場は古い建物なので、換気対策で窓を開けている。なので、口演中は外の騒音が入ってくる。この日は衆議院選挙投票日の前日で、ある女流演者の口演中に大音量の選挙カーが会場の脇を通り、その騒音で中断を余儀なくされるというアクシデントがあった。その後の口演はボロボロになってしまった。なんと可哀そうなアクシデント。でも、仕切り直して、下げまで語り切ったのは凄い。その頑張りは、観客の胸を熱くさせるものがある。
出演者との知り合いが多いだろうと思われる客席の雰囲気も、寄席や落語会と違う。口演中も、観客同士のお喋りも多い。落語を聴きなれていない観客も多かったように思う。そんなプロでも苦戦するような環境で、ほんとうに皆さん奮闘して、稽古の成果を発揮されていたのだ。

知人の落語仲間のアマチュア落語家は、寺子屋麻輪馬(てらこやまりんば)という芸名。ギャンブル好きから名付けた芸名らしい。麻雀、競輪、競馬から取った名前。呑む打つ買うではなくて、打つ打つ打つ、そんな自己紹介で会場を和やかにする。
初めて聴かせてもらったのだが、思っていたよりもはるかにお上手。落語会でお会いしてお話しするときも、落語の知識が豊富で、色々と教えてもらっている。そんな豊富な落語の知識を活かした一席で、珍しい演目「へっつい幽霊」に挑戦。博打好きらしく、博打がテーマの噺を選ばれた。
この演目も、演者によって色々な型があるが、麻輪馬さんの一席は、シンプルに短くまとめた短縮版。登場人物も少ない。私の好きな志ん朝師匠の型に近い。抑えた表現ながらも、登場人物を感情豊かなセリフで描き分けていた。

トリは、指導者である圓満師匠がプロの高座を披露。お弟子さんたちと比べるのは良くないが、さすがという一席で会全体を締めてくれた。ご自身はお酒は飲めないとのことだが、見事な酔いっぷりを見せてくれた。また、細かい仕草を見せる噺でもあり、仕草においてもアマチュアとの違いを見せてくれた。
素人弟子の皆さんへ手本を示す一席だと思うが、素人落語を聴いてくれた観客に対するお礼のような一席でもあったと思う。
熱心に活動されている皆さんの落語愛が伝わる落語会。貴重な経験をさせてもらった。

番組

寺子屋福来「やかん」

寺子屋そよ風「悋気の独楽」

寺子屋よろしく「味噌蔵」

仲入り

寺子屋ぱん子「お見立て」

寺子屋あそ坊「白木屋」

寺子屋麻輪馬「へっつい幽霊」

仲入り

寺子屋まりめこ「お血脈」

寺子屋小夏「猫久」

寺子屋僕ちゃん丸「帯久」

仲入り

寺子屋みかん「真田小僧」

橘ノ圓満「猫の災難」(客演)

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