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落語日記 江戸っ子の可笑しさに挑戦した馬治師匠

第27回 馬治丹精会
5月26日 日本橋社会教育会館 ホール
まいど裏方のお手伝いをさせてもらっている馬治師匠主催の独演会。この日も、来場者のほとんどが常連さん。この会は熱心な常連さんたちによって支えられている。
振り返れば、5月は馬治月間となった。私的な初夏の馬治祭り開催。
いつもと同じように、受付にいて高座は時々覗き見しただけで、ほとんどロビーに流れるモニターの音声を聴くのみだったので、感想も簡単に。

三遊亭二之吉「いかけや」
今回の前座さんは、いつもの駒介さんではなく、吉窓師匠のお弟子さん。今年の亀戸寄席で共演したご縁。真面目で意欲的な前座さんだ。
この二之吉さんの高座でアクシデント発生。「桃太郎」を語り始めてまもなく、地震が発生。けっこう揺れて、客席も一瞬騒然。二之吉さんも途中で中断。いったん高座を降りて、仕切り直し。
公演中の地震発生は。観客としてもスタッフとしても初体験。特に、こんな状況でどう行動すればよいのか、まったく想定していなかった。このときも会場の状況を眺めながら、おろおろするばかり。今後の課題として、スタッフ仲間とも話し合っていく必要があると痛感。この日は大事に至らず、裏方としてはホッと一安心。
二之吉さんと馬治師匠が打ち合わせして、二之吉さん再登場。途中で止めてしまったので、別の噺を演ります、とこの演目を始める。二之吉さんが落ち着いていて、冷静な高座だったので、客席も動揺が収まってきたようだ。そんな冷静な二之吉さんのおかげて、助けられたアクシデントだった。

金原亭馬治「三方一両損」
そんなアクシデントの後、それもツカミにしたマクラ。客席に動揺を与えない、動揺を鎮めるような語りは、さすがベテラン。
本編は、この日のネタ出し、そしてネタ下ろしの演目。ネタ下ろしで自信がないときに、地震が起きました、馬治師匠は洒落で会場を沸かせるが、本音も見え隠れ。
江戸っ子の噺が得意の馬治師匠なので、今までこの噺を掛けていなかったのが意外な感じ。短気な江戸っ子たちの長々とした喧嘩を描く。三両といえば当時としては、かなりの大金。いくら江戸っ子といえども、落としてしまった大金を潔く要らないと諦めるのは、かなり不自然。長兵衛親方が文七に五十両をくれてやる事情とも、また違う。この噺の江戸っ子たちは、届ける方も届けられる方もいささか変わっているのだ。そんな変わり者たちの騒動を、面白く聴かせる噺、なかなかに難題のようだ。
馬治師匠は、終演後、反省のしきり。きっと十八番となるだろう噺。挑戦を続けて欲しい。

林家正楽
若駒(鋏試し) 線香花火(鋏試し) 三方一両損 茶の湯(落語ではない) 大谷翔平
この会のゲストとしては三度目の登場。いつもの寄席と同じような表情で、飄々とした高座。楽屋でも同じ表情。皆さんに愛される訳が分かる。

仲入り

金原亭馬治「唐茄子屋政談」
締めの一席は、ネタ下しの緊張のあと、まさに自分の時間。夏の定番、夏の十八番の演目。呑気な若旦那のお気楽さ、これには口演を重ねるごとに磨きをかけてきた。馬治師匠は若旦那のお気楽さの余韻を大切にしていることは、この噺を吉原田圃での回想風景で終わることからも分かる。ここのところ馬治師匠は、後半の長屋での心中騒動の場面まで描くことは無いのだ。そんなのんびりお気楽な空気で終演となる。

次回は、7月28日。ネタ出しは「夏の芝浜」、夏の定番として定着することを目指して挑戦している芝浜の改作。和田尚久先生の原作を馬治流にアレンジしての口演。ご自身が年齢を重ねていくとともに、この噺も熟成の変化を見せてくれるはず。そんな期待で、楽しみにしている。

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