見出し画像

落語日記 これだけ続いている若手の落語会も珍しい

RAKUGOもんすたぁず CHAPTER98
5月26日 古石場文化センター
通っている会だが、前回は1月21日の新春特別公演なので、ちょっとご無沙汰。
受付には志ん陽師匠と燕弥師匠が並んでお出迎え。会場に入ると、客席後方にビデオカメラが2台設置されている。今回は収録があるようだ。

オープニングトーク
まずは、恒例の四人揃ってのトークタイム。まずは小傳次師匠から、芸協らくごまつりやダービー開催のなか、ようこそお集まりいただきましたと感謝の言葉から。確かに、いつもより観客は少ないようだ。特に、落語ファンと思しき常連さんが少ないように見える。
ご自身の挨拶から、小傳次師匠はダービーの馬券を買っているという話へ。しかし、レース本番の時間はちょうど高座に上がっている最中らしい。
後のカメラは、CSの寄席チャンネルの収録のため、なのでいつもより多めに笑ってくださいとのお願い。
今回が98回目の開催で、今年は20周年となり、秋には第100回を開催予定。記念の会なので、色々と企画を考えているとのこと。これは、もんすたぁずファンとしては嬉しいお知らせ。
おめでたい話が続き、志ん陽師匠の弟子の松ぼっくりさんが今年の秋に二ツ目昇進が決まったと志ん陽師匠から発表。燕弥師匠から、渡すものがある人は早めに渡してあげてください、二ツ目に昇進する際に物入りだった経験を伝えて、お祝いの援護射撃。
志ん陽師匠が弟子を取ったのが、ついこの間のような感じてる。前座修行期間は、当人にして見れば長かったかもしれないが、第三者から見るとあっという間。まずは、おめでとう!

古今亭松ぼっくり「転失気」
話題の当人が開口一番で登場。特に昇進のことには触れずに本編へ。珍念の言動が無邪気で可愛い。語り口は正統派、今後の活躍が期待される。

柳家燕弥「馬のす」
トップバッターとして、ここでも松ぼっくりさんの昇進の話題から。近しい前座さんの昇進、嬉しさもあったことだろう。
続いて、この会が今年20周年を迎え開始当時の思い出話。毎回全員ネタを変えているので、第100回を迎えると100席のネタを掛けたことになる。そのうち、すぐ掛けられるのは5席くらいとのこと。しかし、在庫の多さは芸の幅広さに繋がる。この芸の財産の蓄財と言える持ちネタの蓄積は、この会を継続してきたからこそだ。
趣味の話から、ご自身の釣りの経験談、釣りの小噺から本編へ上手い流れ。この噺は蔵出しで、おそらく今回掛けるのが2回目。初めてのときの映像が、youtubeに残っているとのこと。
寄席ではお馴染みの演目。短い噺だが、友人の飲み食いの所作が見せ場であり、その所作が楽しく微笑ましい。枝豆を食べる場面が登場する落語、この他に麻のれんがある。燕弥師匠もエア枝豆がお上手だ。酒飲みは皆、生唾を飲み込んだことだろう。

古今亭志ん陽「夢の酒」
いつものニコヤカな表情で登場。のんびりと始まるマクラは志ん陽師匠の魅力。梅雨入り前のちょうど過ごしやすい季節に触れ、季節違いだが「春眠暁を覚えず」というような眠くなる季節になってきたというお話。そこから本編へ。
居眠り姿が似合う志ん陽師匠にぴったりな演目。若旦那、大旦那の人の好さの雰囲気も志ん陽師匠に似合っている。一方、エキセントリックな嫁のお花の感情的な言動が極端で、若旦那親子を翻弄する様子が可笑しい。穏やかな若旦那親子と対照的で、奇妙さが際立っている。三人の感情を、表情の違いで上手く伝えてくれた一席だった。

仲入り

春風亭三朝「殿様いらず」
マクラは、落語協会百年の実行委員でグッズ担当となり、ユニクロとコラボでグッズを作ったという話から。ユニクロの店頭で出会った夫妻との実話が、ドキュメンタリー風描写で面白い。
本編は、落語作家の井上新五郎正隆氏の作品。新作だが、舞台は武家が支配していた時代の噺。導入は、ご自身の性格の話から。仲間内ではお喋りの方だが、意外と人見知り。人には向き不向き、得手不得手がある。そんな性格にまつわる話から本編への流れ。
筋書きは、祖父や父親のように名君と呼ばれたがっている凡才の殿様が主人公。何とかして尊敬を集めたいがために、どうしたらよいのか家臣たちに相談するも、家中に問題は無く、何もしないで居てくれるだけでよいと、相手にされない。わざと何かの騒動を起こして、殿様が解決して評価を上げたいと短絡的に考える。そこで、町人に扮して城下を探索、町人たちの困りごとを訊いてまわるも、庶民はみな平穏で平和な暮らしぶり。そんな殿様が巻き起こす騒動を描く。
この噺は、自尊心の強さが滑稽さを招く武士階級の噺であって、三朝師匠がNHK新人落語大賞を受賞した演目「やかんなめ」も、同様な侍が登場する。いずれの噺も、武士階級の極端化した自尊心が引き起こす珍騒動が笑いを誘う。このように、偉そうにしている武士階級を演じさせれば、その滑稽さを見事に見せてくれる三朝師匠。この噺も雰囲気に合っている。三朝スペシャルとして磨いていってほしい。

柳家小傳次「三枚起請」
この日の主任は小傳次師匠。お馴染みの廓噺、どのように聴かせてくれるのかと楽しみにしていた一席。
まずは、古典芸能の世界に身を置く者として、仲間内でも縁起を担ぐ人は多いという話から。例えば、着物の着方ひとつとっても各人が決めた決まり事を守って行っている。小傳次師匠も信心というより縁起担ぎという意味で、街中でお稲荷さんのお社を見つけるたびに賽銭を納めてお詣りしているそうだ。信仰や信心と縁起担ぎの違いを上手く伝えるマクラ。
そこから、八咫烏が神様の使い、起請文の説明など、この噺の下げにつながる解説を挿入。落語ファンにとっては周知のことも、丁寧に解説する工夫はこれからの落語には考慮すべきことなのだろう。
本編は、まさに正統派の三枚起請。騙され三人組のそれぞれのキャラの違いも、本寸法な演じ別けという感じ。悪女の喜瀬川花魁も、穴を捲って居直った後のふてぶてしさも伝わる。
私の好きな志ん朝版とほぼ同じ型だと思って聴いていたら、清公が金を用意するのに妹が工面してくれたという、悔しさの根源となるエピソードは描かれていなかった。その分、トントンと進行して下げまで一気呵成な流れになった。こんな工夫からも寄席に似合う一席になっていたように思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?