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落語日記 明治座の舞台で三者三様の高座を見せてくれたベテランの三人会

あっぱれ!明治座 名人芸「匠の話芸 三人会」
8月21日 明治座
明治座では創業150周年記念で「あっぱれ!明治座 名人芸」と題して、落語や漫才、ラジオトークなどバラエティーに富んだお笑いのイベントが開催された。
三日間に渡って開催されたのは、「漫才協会ドラフト会議」と題する爆笑問題、サンドウィッチマン、ナイツ、青空球児・好児、他の人気漫才師の会。講談分野では「神田松鯉・阿久鯉・伯山 親子会」とこれまた講談界のビッグネームの会。このイベントの企画にも関わっている高田文夫先生を中心とするニッポン放送の「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」のメンバーによるラジオトークの会。
そして、落語分野では「匠の話芸 三人会」と題して、柳亭市馬師匠、柳家喬太郎師匠、桃月庵白酒師匠の三人会が催された。人気者三人が明治座の舞台でどのような噺を聴かせてくれるのか、興味津々で出掛ける。
 
柳亭市遼「真田小僧」
まずは前座から。市馬師匠の十番弟子。市馬一門は皆さん、口跡鮮やかで折り目正しい印象。
 
柳家喬太郎「銭湯の節」
まずは高座に講談で使う釈台が、座布団の上には正座椅子が用意される。そこへゆっくりと喬太郎師匠が登場。喬太郎師匠の高座は久しぶり。膝を痛められていると聞いてはいたが、正座が厳しい様子を目の当たりにして、ちょっとびっくり。喬太郎師匠自身も、そんな会場の空気を察してか、まずは釈台を使う訳の説明から。
白髪の容姿もあって、「みなさん、私のことは幾つだと思ってますか」と問い掛け「今年、59歳ですよ」との表明に会場は大きな反応。観客の皆さん、もっと上の年齢だと思っていたようだ。
喬太郎師匠の明治座での高座は、2016年7月に拝見して以来。当時の日記を読むと、この日も市馬師匠と白酒師匠との三人会だった。おそらく、6年ぶりの明治座の高座になるであろう喬太郎師匠。
「まだ、どんな噺にするか決めてません」と告白されたところから、この明治座という大劇場の観客と、寄席や落語会に来る観客との違いをマクラの反応を見ながら探っているように感じた。前方で埋まっている客席を指して「マニアな観客」、その他が「明治座の由緒正しき観客」の皆さんという観客イジリもそんな迷いの発露かも。
この明治座と違って、都内の各寄席が在る場所はいかがわしい地域という話や、お寺の落語会での勘違いエピソードなど、いつものように楽しいマクラは、爆笑の連続。そんなマクラから、新作に入る。
 
本編に繋がるマクラとして、同じ古典芸能でも浪曲と落語の違いを解説。浪曲は歌の部分である節と、登場人物のセリフ部分である啖呵で構成されているという話から、この浪曲の啖呵と落語のセリフとの違いを実演して見せる。
微妙な違いであるが、両方の芸に通じている喬太郎師匠ならではの実演。短い時間であったが、この日のマクラの中では私の気に入った秀逸な箇所だ。そんな話から本編へ。
後でネットで調べると、この噺は、今年の4月に「玉川奈々福 喬太郎アニさんをうならせたい うなうなスペシャル」でネタ下しされた新作のようだ。浪曲を題材とする噺で、祖母へのプレゼントとして、祖母がむかし銭湯でよく男湯から聞こえてきた浪曲の思い出を再現しようと孫娘が奮闘する筋書。
噺の中で登場する浪曲の節の部分も、喬太郎師匠は器用に唸る。節はお馴染みの「旅ゆけば 駿河の道に 茶の香り」「夫は妻をいたわりつ妻は夫を慕いつつ」をふた唸り。
喬太郎師匠が6年前に、明治座で掛けた噺は「ハワイの雪」。この噺は孫娘が祖父のために奮闘する噺であって、今回は孫娘が祖母のために奮闘するという共通するテーマの演目を選んできた。芝居の殿堂である明治座で掛ける演目として、家族の情をモチーフとする新作を選んだ喬太郎師匠。芝居好きや明治座の常連さんたちを意識されたように感じた。
この日の喬太郎師匠は、マクラで笑わせ、浪曲で感心させ、そして噺の筋書で感動させた。
 
仲入り
 
桃月庵白酒「百川」
歌舞伎の幕間のような長めの休憩時間。いつものように飄々とした表情で登場。
いつものように毒舌の効いたマクラで、明治座の会場を沸かせる。早めに来て、明治座を探索した話。この日の出演者について、柳家に挟まれた古今亭、向こうが自民党で、我々古今亭は国民民主党みたいな存在だとの例え話。
寄席や落語会で普段語っているようなマクラ。この明治座という舞台にあっても、マイペースな語り口を崩さず、普段のスタイルを貫く白酒師匠。マクラの反応から観客を探っていた喬太郎師匠と、対照的な白酒師匠だ。
江戸のお祭りの話から、四神旗から料理屋百川の解説と本編へ繋がる話。本編は、滑稽噺の王道を行くような、弾けた登場人物たちが大騒ぎを見せてくれた一席。百兵衛や河岸の若い衆たちは、惚け具合が突き抜けているキャラ。
極端さと笑いのバランスがちょうどいい塩梅。そんな白酒師匠の魅力を遺憾なく発揮された一席だった。
 
柳亭市馬「猫の忠信」
主任の出番は市馬師匠。いつものように、穏やかに登場。
選んだ演目は、音曲入りの芝居噺。芝居の殿堂である明治座の舞台を意識された演目だろう。
なかなか聴けない珍しい演目。ネットでこの演目を調べた。三大名狂言の一つである「義経千本桜」を下敷きに作られたパロディらしい。筋書きも狂言に寄っていて、モチーフは本家では狐と太鼓が登場するが、落語では猫と三味線に変わっている。落語でお馴染みの動物は狐と狸、どちらも人に化けることが得意。この噺では、珍しく猫が化けるのだ。
残念ながら、歌舞伎に関して私はそんなに詳しくない。この噺の本家の「義経千本桜」に詳しければ、この噺がより楽しめるものとなるはずだ。まさに、明治座の常連さんを意識された演目だ。
この噺の見せ場は、正体がばれた猫が言い訳のような身の上話を語るところ。三味線や鳴り物に合わせて、芝居風の言い回しで聴かせる。美声で有名な市馬師匠、邦楽に関する才能と、芝居噺を語れる技量の高さを見せつけた一席。
この日は人気者三人がそれぞれの個性を発揮して、三者三様の高座を見せてくれた落語会となった。

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