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落語日記 定番の噺を独自の工夫で聴かせてくれた桂やまと師匠

第99回 桂やまと独演会 ~Move!秋 「火焔太鼓」「子別れ」~
10月28日 ムーブ町屋 ムーブホール
やまと師匠の独演会は3年ぶりの訪問。コロナ禍にあっても、配信など工夫しながら着実に開催を続けてこられてきた。二ツ目の頃から注目していたやまと師匠。独自の演出による文七元結を年末にかける試みを続けているし、俳優としての映画出演や邦楽の師匠の下での修行など、落語以外の芸事にも熱心に取り組んでいる。
寄席や落語会での高座はときたま拝見していたが、独演会は無沙汰をしていた。今回は、ネタ出しが「火焔太鼓」と「子別れ」という人気の演目。このお馴染みの演目をどう料理して見せてくれるのか、久し振りに拝見するやまと師匠は、どのような進化の様子見せてくれるのか、楽しみに出掛けてきた。

入船亭扇ぱい「道灌」
前座は扇遊門下。何度も拝見している芸風は、 扇遊師匠の完コピ。さすが元NHKアナウンサーだけに耳が良い証拠。独自の個性を磨くのは、前座修行を終えてからだ。

桂やまと「火焔太鼓」
にこやかな表情で登場。マクラは、まずは前座の扇ぱいさんを紹介。異色の経歴をネタにしても、扇ぱいさんを印象付けるという先輩としての心遣い。
暮れの恒例、文七元結の公演の話題へ。画家の岡田嘉夫氏と共同で改訂に取り組んできた文七元結。暮れの行事として定着させて、落語会の第九と呼ばれるようになるまで広く周知され人気の公演となることを目指して続けてきたそうだ。
地元荒川区で開催を続けている独演会なので、観客の皆さんも地元の方が多いようだ。そんな観客にに向けて、今年の文七元結の告知。暮れの第九の話から、地元荒川区の区民合唱団も暮れに第九の演奏会を予定している。しかし、やまと師匠の独演会と同じ日に開催されるとのこと。地元の皆さん、第九の合唱も良いですが、落語も是非と、苦境も笑いのネタにする。

本編の導入マクラは定番のもの。道具屋にもランクがあり、この噺の道具屋のようにクズやゴミのような品物を売っている店もあった。あるはずのない物があるから珍しい、そんな馬鹿々々しい品物の話から、甚兵衛夫婦が店頭で夫婦喧嘩を始める本編へ。お馴染みの場面ながら、気が強い女房と気は弱いが人の好い甚兵衛さんとの、言葉をぶつけ合う喧嘩が楽しい。
やまと師匠らしい独自の工夫が見える場面があった。甚兵衛さんが武家屋敷に行く途中で、女房との楽しい会話を妄想する。女房といちゃつくという、日常ではありえないような場面。優しい女房の膝枕で、ゴロゴロニャンと猫になる甚兵衛さん。馬鹿々々しく、そして現実の女房とのギャップが可笑しい。
甚兵衛さんの願望があふれ、女房が好きでたまらないという本音を強く感じる名場面。毒舌に泣かされている裏で、根底にある女房への想いが伝まる。笑いの多い場面ではあるが、夫婦の情を伝えている、やまと師匠ならではの名場面だった。
古今亭所縁の噺を、本流本寸法な一席で聴かせてくれた。

仲入り

マギー隆司 マジック
登場するなり、ロープを切ったり繋げたりのマジックを披露。最初に手品師らしいマジックを無言で見せることで、一気に観客を引き付ける。
その後は、インチキなネタとぶつくさと文句を呟いて笑いを起こして楽しませる。寄席の色物としてのマジックの楽しさを見せてくれた。

桂やまと「子別れ」
後半の一席も、人気の演目をネタ出しで。2児の父親でもあるやまと師匠。親子の情を描く噺を、父親としての実体験を活かしてどのように聴かせてくれるのか、楽しみだった。
お馴染みの演目、演者による違いも興味あるところ。子供の名前は亀ちゃん、鎹(かすがい)を打つのは金槌、鰻屋の二階に番頭が登場、そんな設定。
後半の見せ場、鰻屋の夫婦再会の場面では、演者による違いで、番頭が顔を出す型と出さない型がある。私は、番頭が顔を出さず、家族だけで過ごす型の方が好み。なぜなら、女房に対して「もう一度やり直してもらえないか」という大事なセリフを、番頭が顔を出す型では亭主の熊が言うのではなく、番頭が言ってしまうからだ。このセリフは亭主が言うから、亭主の決意や懺悔の気持ちが込められていることが伝わるのであり、そんな大事なセリフを他人の番頭が言ってしまっては、女房との再会の場面が台無しになると感じていた。
そこで、今回のやまと師匠の型はどうだったのか。番頭が顔を出す型ではあるが、番頭が登場する前に、熊自身がこのセリフを女房に告げる。それを聞いた女房は「ちくしょー、勝手なことばっかり言いやがって!」と複雑な感情を大爆発させる。その後に番頭がやって来て、仲人役を務めて元の鞘に納める。
この場面設定がやまとスペシャルなら。見事の一言。鰻屋に番頭が登場するときの、私のもやもやも解消される構成。そのうえで、熊を息子に引き合わせたのが、番頭の企みだったことを暗に感じさせている。
苦労かけた女房の反応は、母親としての喜びよりも、女房としての悔しさや亭主に対する愛憎を感じさせるものであり、安易なハッピーエンドで終わらせなかったところも、やまと師匠らしさだ。
そんな、親子の情と夫婦の情を、感情豊かに伝えてくれた一席だった。


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