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落語日記 花魁の女心を見せてくれた遊かりさん

三遊亭遊かり独演会 vol.4

9月20日 収録 江戸東京博物館小ホール
9月22日 配信
遊かりさん自ら主催されている独演会の4回目で、第1回からちょうど一年たった。そこで、ゲストに憧れの先輩である柳亭小痴楽師匠を呼び、ネタ出しで当代夢丸師匠直伝の「小桜」に挑戦と、なかなかに意欲的な会となった。
しかし、コロナ禍の影響で、今回の独演会も、前回と同様に客席数を半数にして、収録後に配信も行うハイブリッドスタイル。私は会場で観覧する日程が合わなかったので、配信で拝見した。

柳亭楽ぼう「出来心」前座

三遊亭遊かり「千早振る」
謂れを教えるのは物知りのご隠居ではなく、長唄のお師匠さんという設定。女流であることを活かした改作。
和歌の古典が題材の噺、「夕まぐれ」など古語を大切にしているところが印象的。

三遊亭遊かり「試し酒」
さすが、日本酒大好きで呑兵衛を公言している遊かりさんだけあって、一升酒を飲み干す様子のなんと美味しそうなことか。

仲入り

柳亭小痴楽「粗忽長屋」
ゲスト出演するときに、足が震えながらも勇気を出してお願いしたという遊かりさん憧れの先輩。楽屋で接するときは怖いそうだが、めっちゃ高座がカッコいいと憧れていたそうだ。
小痴楽師匠のマクラでは、そんな憧れの先輩からは、遊かりさんらしさが出て来たとお褒めのお言葉。それまでは、遊雀師匠の真似が目立っていた。弟子が似るのは当たり前で、師匠が好きな証拠、自分はあまり師匠が好きでないので、師匠に似ていない。
やんちゃでぶっきら棒な風だが、根底にある人間味を感じさせるマクラだった。

小痴楽師匠を拝見するのは、本当に久しぶり。二ツ目のときの勉強会だったと思う。そのときは、ご自身も落ち込むくらいの高座だったと記憶している。しかし、久々に拝見した高座は、自信に満ちて、勢いと同時に落ち着きもある素晴らしい一席だった。
粗忽者二人の粗忽ぶりは、違和感がなく異論を挟ませないような堂々とした粗忽さ。何が可笑しい、と周囲の怪訝さをものともしない粗忽さ。小痴楽師匠の心地良い粗忽さを味わった。

三遊亭遊かり「小桜」
今回のネタ出し「小桜」は、先代三笑亭夢丸師匠がかつて主宰していた創作落語台本公募懸賞「夢丸新江戸噺」で第一回優秀賞を受賞した作品。冨田龍一氏の作。当代夢丸師匠も引き継いで高座に掛けている。
その当代から習って挑戦された。音曲も入り、遊郭の風情も感じさせる高座。遊かりさんが意欲的に取り組んだ結果、新境地を見せた一席となった。まさに、遊かりスペシャルな噺として、今後も磨き続けて欲しい演目となった。

噺は、幽霊となった花魁と馴染みの相方の若旦那の心の交流を描いた噺。ファンタジーであり、人情噺であり、ところどころ滑稽噺が顔を出す。後半の場面で、二人のセリフとは裏腹な心模様が切なく、恋愛物語としては出色の脚本。
噺全体に流れる小桜花魁の雰囲気が、内に秘めたる想いを表に出さず、逆に強がって見せている様子を見せ、遊かりさんご自身の雰囲気、ニンと合っていた。ブログによると、小桜のセリフは遊かりさんがかなり書き直したそうだ。このセリフによって、噺全体から小桜を愛おしく思う遊かりさんの気持ちが伝わってきた。

この噺のキモであると感じた名場面、私の特に好きな場面がある。後半、長屋で小桜と若旦那が二人だけで会話する場面。
元の一文無しに戻って、勘当が許される見込みが無くなり、長屋で生きていく覚悟をする若旦那が、幽霊であることを承知のうえで女房になってくれ、と小桜にプロポーズをする。ここからは、若旦那と小桜の想いが交錯する名セリフが続く。
幽霊としてこの世に留まったのは若旦那に対する想いが未練になったからであって、ここはその想いが遂げられた嬉しい瞬間だ。しかし、同時に、この世に留まる理由が無くなり、あの世に帰らなければならなくなった悲しい瞬間でもある。生きてるときに成就しなかった恋愛が、死後になって叶うという皮肉、嬉しくもあり悲しくもあるという小桜の複雑な心境。遊かりさんは、この複雑な心境の小桜を、素っ気なく感情的にならずに描いてく。でもそんな態度は、若旦那を一途に思っている小桜の恋愛感情を覆い隠すため、私はそう感じた。何という健気さだろう。若旦那に対する思いを内に秘める小桜は、四十九日だからとあの世に戻るという理屈で強がりを見せる。そして若旦那も、小桜の本当の気持ちを分かったうえで、ぐっとその想いを飲み込む。この場面があるから遊かりさんはきっとこの噺を気に入ったのだろうと、私は勝手に推測している。

かなりの長講で、セリフも多い。まだまだ磨いていく余地はあると思った。下げの後の挨拶で、真打昇進披露興行で掛けます宣言。これからも磨き続けて、名作に仕立て上げて欲しいと思う。

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