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落語日記 国立演芸場主催の寄席に初訪問

1月国立演芸場寄席(16日~20日) 金原亭馬生主任興行
1月20日 紀尾井小ホール
建替えのため昨年10月いっぱいで閉鎖された国立演芸場は、会場を替えて寄席形式の定席興行を主催している。ちなみに国立劇場や国立演芸場の経営主体は、独立行政法人日本芸術文化振興会で、この寄席もこの法人が運営している。
新年は1月10日から15日までの前半が落語芸術協会、16日から20日の後半が落語協会の芝居として開催。その後半の主任が、金原亭馬生師匠で、前方には馬生一門も交替で出演。一門ファンとして、楽日にお邪魔してきた。
会場となった紀尾井小ホールは、四ツ谷駅から歩いて7、8分の場所にあるビルの中のきれいなホール。250名くらいの規模で、客席が横長なので、高座は近く感じる造りとなってる。この日が初訪問。
この国立演芸場寄席の2月の予定を見ると、会場は別の場所。TBSの落語研究会と同様に、しばらくは会場を求めて彷徨うようだ。

金原亭駒介「道具や」
一門末弟の前座さん。一門ファンにはお馴染み。与太郎とおじさんの人物描写が明瞭になってきた。

金原亭馬治「真田小僧」
この日は夜に福井で独演会があるため、小駒さんの出番と交換しての早上がり。まずはお馴染みの定番二大マクラ「蟹と入歯」「師匠の入院」で会場を温めた。一門ファンが多いと思われる客席でも笑ってもらえる有難さ。
本編は得意の真田小僧。相変わらず、生意気な金坊に翻弄される父親のお人好しぶりが可笑しい。お人好しで心配性な金坊の父親、これは良い父親の見本じゃないかと思う。

ホームランたにし 漫談
三波伸介の弟子であったたにし先生は、小野ヤスシの門弟だった勘太郎先生と漫才コンビを組んでいたが、勘太郎先生が2021年9月にお亡くなりになり、以後はお一人で漫談をされている。
漫才時代は、勘太郎先生のツッコミが笑いを取っていたように記憶している。でも、今回の漫談を聴いて、たにし先生のボケはなかなか面白いことに気付いた。歌も上手だし、身体も柔らかく、全身を使っての芸は寄席にぴったり。

春風亭柳朝「紙入れ」
どこかツカミどころのないフワフワした柳朝師匠の芸風がピッタリの演目。気弱で律儀で、それでいて色気と欲のある新吉の軽さで、噺が深刻にならずに笑いとばせるものになっている。この噺に軽さは大事。この辺りは、一朝師匠の芸風を引き継いでいる。

金原亭世之介「時そば」
国立と馬生一門の芝居には、欠かせない存在なのが世之介師匠。鹿芝居の役者としてもお馴染み。
マクラは、コロナ禍での話や、旦那が家に居て奥様の買い物にも付いていくという話からご自身のエピソード。世の亭主族をディスったあとに、結局、自分もそうだったという話。景品の藤井聡太の手拭いを見せてのエピソードは可笑しい。
この季節には欠かせない演目を、本寸法に蕎麦をすすって見せた世之介師匠。

仲入り

金原亭小駒「堀の内」
馬治師匠の都合で出番を入れ替わり、二ツ目なのにクイツキという深い出番になって大変恐縮した様子の小駒さん。登場するなり、言い訳というか、こんな出番で出たことがないと困り顔のマクラ。この困った様子だけで、結構笑える。
本編は、おそらく得意の与太郎噺。突き抜けた粗忽ぶりが、小駒さんの任に合っていて可笑しさ倍増。こんな奴はいないというくらいの強烈なボケでも、小駒さんが演じると実際にいるかもと感じるから面白い。小駒効果とでも呼ぼうか。

柳亭燕路「天狗裁き」
膝前は、柳家のベテランが重石のように顔付けされて、その意図どおり芝居全体を引き締めてくれた。喧嘩のバリエーションが続く噺なのだが、登場人物が落語らしさを醸し出していて、喧嘩がヒートアップすればするほど可笑しくなっていく。
お馴染みの演目なので、筋書きも下げも承知の噺。こんな有名なお馴染みの噺を、楽しくそして可笑しく聴かせるのが、ベテランの技量。任で笑わせてくれた小駒さんの後なので、燕路師匠の技量が余計に引き立つ。

マギー隆司 奇術
登場してすぐは、無言で淡々とマジックを進める。この日の最初の出し物は、ロープを使った見事なマジックで、客席の衆目を集めることに成功。ところが、その後からはギャグのようなインチキマジックで笑いをとる。寄席の手品師は、このギャップが面白い。

金原亭馬生「笠碁」
さてさて、お目当ての馬生師匠がしずしずと登場。いつもながらの背筋が伸びた綺麗な高座姿だ。
本編は、馬生師匠の得意の演目。馬治師匠で聴く笠碁も、私は好きである。しかし、何と言っても、主人公のご隠居二人の年齢に相応しい馬生師匠が聴かせる笠碁は、味わいがまたひと味違う。
人生経験を積んで大店を経営してきた大人な二人が、まるで少年のような喧嘩をする。この感情のぶつかり合いを、抑えめで淡々とした語り口で聴かせるのが馬生師匠の凄いところだ。それでいて馬生師匠の軽妙さが、二人の喧嘩を恋人同士の痴話喧嘩の様に見せる。本来は仲良しの二人が、他愛もない原因で喧嘩になる様子が微笑ましい。感情をぶつけ合うのは、仲の良い証拠。別れたあとに、それぞれが抱く後悔の重さも強く伝えてくれた馬生師匠。
「幼馴染の中で、今も生きているのは我々二人だけ」そんなセリフで、二人の関係性を説明する。こんなセリフは年齢を重ねた馬生師匠でなければ言えないし、馬生師匠がおっしゃるからこそ、強く響いてきた。喧嘩も仲直りも何もかも包含されてしまう、心に強く刺さるセリフだった。
先代馬生師から引き継がれている、古今亭の笠碁。この馬生師匠の笠碁を、一門の皆さんには引き継いでいって欲しいと思う。
寄席の定席で言えば、二之席。国立演芸場のニ之席と言える興行を、素晴らしい笠碁で締めた馬生師匠だった。


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