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落語日記 後ろに控えている真打披露興行に上手くバトンを渡した遊雀師匠

新宿末廣亭 5月上席昼の部 三遊亭遊雀主任興行
5月7日
遊雀師匠の久々の主任興行。前回お邪魔した主任興行は、昨年の浅草演芸ホール6月上席前半夜の部だった。なので、主任興行の訪問は約1年ぶりとなる。この十日間のうちどこかで行こうと思っていて、この土曜日にやっと行けた。
この5月上席は、ゴールデンウイーク期間中という稼ぎどきの芝居。当然、寄席も人気者の顔付けで集客を図る。そんな時期の主任抜擢は、遊雀師匠が芸協を代表する人気者の一人であることの証しなのだ。
この上席の夜の部では、春風亭柳若改メ柳雀師匠と春風亭昇也師匠のお二人の真打昇進披露興行が開催されている。なので、昼の部の高座にも、祝いの後ろ幕が張られ、高座脇には洋ランの鉢が飾られていて、いつもより華やかだ。
昼の部の終演後、外に出ると長蛇の列。昼夜入れ替えなので、披露興行の入場を待つ観客の列だ。新真打の二人の人気も凄いと、ちょっとびっくり。
 
三遊亭美よし「堀之内」
三遊亭遊吉師匠の弟子の前座さん。初めて拝見。前座ながら女着物。落語協会では前座は女流も男着物なので、ちょっと珍しい。
 
昔昔亭喜太郎「動物園」
二ツ目枠は、笑福亭茶光さんと交互出演で、この日は喜太郎さんの番。拝見するのは久しぶり。マクラでの下下下(げげげ)のキタローと覚えてください、で思い出した。新作のイメージあるが、この日は古典。
 
笑福亭和光「桃太郎」
鶴光師匠の弟子。師匠が上方落語なので、和光師匠も上方弁の桃太郎。関東地方出身で上方落語という、なかなか不思議な落語家さんだ。
 
カントリーズ 漫才
丸っこい太った方がえざおさん。本来はツッコミ役なのだろうが、突然キレて話し出す一人ボケツッコミが妙に可笑しい。マギー審司の耳がパワーワード。
 
三遊亭兼好「孝行糖」
この芝居は、圓楽一門会の出演枠があり、兼好師匠、王楽師匠、萬橘師匠の人気者三人が交互出演。この日は兼好師匠の番。
寄席で拝見すると、新鮮な感じ。でも、いつもながらの雰囲気で、この高座に居るのは当然という雰囲気で語り出し、違和感はない。慣れない寄席でも、ニコヤカな表情によって、笑いを引き出す空気感を醸し出すところは、さすが。
 
三遊亭圓雀「風呂敷」
この辺りから芸協らしさを感じる師匠方が続く。きっちりしているのに、酔っ払いがアシカのゾンビみたいに吠える不思議な芸風を見せる。
 
換気のための仲入り
 
丸一小助・小時 太神楽曲芸
芸協のジャイアンとスネ夫コンビ、と私が勝手に呼んでいる二人。この日は、傘廻し、五階茶碗、バチの曲を見事に披露。
 
三遊亭とん馬「たらちね」
おそらく、初めて拝見。膝を悪くされているようで、ドラえもん柄の正座用クッション持参。きちんとしたセリフなのに、不思議な可笑しさのある師匠。寄席の香りをまとった師匠だ。
 
神田紅「笹野権三郎義胤の海賊退治」
ここで講談。「笹野名槍伝より海賊退治」の抜き読み。紅先生も、寄席らしい空気を醸し出す。
 
国分健二 ワンマン笑
初めて拝見する漫談師。看板のヨーデルを歌われたが、咽の調子がいまいち。関西出身で、上方弁で、大阪の看板や大坂のおばちゃんをネタにした漫談。初めて聴くが、おそらくネタは既に古典化されているのでは。芸協の芝居ならではの出演者。
 
桂竹丸「代脈」
寄席が一気に明るくなるような空気感を持つ師匠。得意の小噺で会場を暖める。このまま漫談で終わるのかと思っていると、医者の小噺シリーズを連発してから、最後に短い本編を語る。初めて聴くパターン。こんな聴かせ方も芸協らしさかな。
 
雷門助六「相撲場風景」
久しぶりに拝見、少し痩せられたかも。ぽつぽつ語る小噺と、そのあとの沈黙が可笑しい。笑顔が可愛いおじいちゃんだ。
本編は相撲観戦の噺。初めて聴く噺。相撲観戦中に小便を我慢できない観客の男が、隣席の酔っ払いの飲み干した銚子に小便を出してしまうという筋書き。禁酒番屋みたいな設定で、匙加減が難しそうな噺だ。元々は上方の噺で、先代助六師の持ちネタだったらしい。下品にならないぎりぎりのところで踏みとどまる。
 
仲入り
 
三遊亭遊かり「幇間腹」
前回訪問の浅草での遊雀師匠の主任興行でも、同じくこのクイツキの出番で出演されていた。二ツ目が定席のクイツキに上がることはほとんどない。遊雀師匠の弟子としての露払い役としての抜擢なのだろうが、異例な香盤であり、これも遊かりさんの人気の証しだ。
何度か聴いている遊かりさんの得意の噺、この日もハイテンションで駆け抜ける。
 
林家今丸 紙切り
・舞子さん(鋏試し)・鬼滅の刃 ・遊雀師匠 ・新宿末廣亭(桟敷席にいた小学生の男の子の注文) ・最前列の男性客の似顔
 
立川談幸「王子の狐」
相変わらず端正で本寸法な一席。人間に化けた女狐が、妙に色っぽい。下げ直前の「ぼた餅」で噛んでしまい、次の幸丸師匠にいじられる。
 
桂幸丸「幸丸流野口英世伝」
落ち着いた高座の佇まいは、ベテランの風格か。噺は、得意の偉人の伝記物。この落ち着きが、噺に信憑性を与えている。でも、落語なので、どこまでが真実でどこからがフィクションかよく分からないのも、また楽しい。
 
東京ボーイズ ボーイズ
超ベテランのお二人、三味線の菅六郎先生と、ウクレレの仲八郎先生のコンビ。高座に立っている姿を見るだけで、客席をほっとさせる存在。
得意の芸、歌う「謎かけ問答」が楽しい。登場する有名人に「YOASOBI」が登場してびっくり。流行にも敏感な八郎先生。六郎先生が披露した手話のような奇妙な踊りも、会場を和ませる。
 
三遊亭遊雀「野ざらし」
さて、お目当ての登場で、多くの遊雀ファンの駆けつけた客席全体が、前のめりになったような空気を感じる。さて、この日の演目は何だろうと、主任にたどり着いた客席からは期待感もびんびん。
開口一番「太鼓の革は馬の革で出来ている。このことを下げまで忘れないでください」を話されると、すぐに本編へ入る。おっと、この下げの解説ということはあの噺か、とテンションアップ。この噺を遊雀師匠で聴くのは二度目、4年前の「こぶし寄席」で聴いて以来だ。
 
寄席の遊雀師匠は、あまり声を張ることもなく、淡々とした語り口で始まる。この日も静かな導入から、主役の八五郎のテンションが徐々に上がっていく。隣家の浪人、尾形清十郎の落ち着いていて毅然としているその侍然とした態度が、ハイテンションの八五郎と対照的。武士は食わねど高楊枝を体現している清十郎の姿を、キッチリと見せてくれる遊雀師匠。なので、八五郎の能天気で欲望を隠さない姿の可笑しさが、対照的に際立ってくる。
 
後半の釣りの場面は、ハイテンション八五郎の大騒ぎが可笑しい名場面。この八五郎の独り相撲があまりにも馬鹿馬鹿しくて面白いので、川辺にいる釣り人達と同様に、観客もこの八五郎の妄想による一人芝居を眺めて、楽しませてもらった。
お約束の入れ事である「ぶっ込み」は、最後に登場した幇間が、若旦那に鍼を打たれるは、狐に騙されるは、と前方の演目で登場した災難を口にする。また、取って付けたように、野口英世の話は難しい、とつぶやくところも妙に可笑しい。
この昼の部の主任の持ち時間は25分くらいなのだが、この噺の最後の下げまで通しでまとめた。コンパクトな野ざらしだが、その短さを感じさせない笑いどころの多いメリハリのある一席で締めた遊雀師匠だった。
この後の夜の部は、真打披露興行。昼夜入れ替えで、整理券も出ている大人気。この昼の部と夜の部の間の短い時間で、大勢の観客のスムーズな入れ替えや高座の飾り付け作業を行わねばならない。なので、昼の部の主任は時間厳守が必須。遊雀師匠は、少しでもスムーズな交替が出来るように短めの時間で、なおかつ主任として観客を満足させる高座を見せてくれたのだ。
久々の末廣亭は、そんな遊雀師匠の気遣いと、芸協の皆さんのバラエティさとゆるさで、寄席らしさを満喫できるものとなった。

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