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落語日記 ライバルの切磋琢磨が相乗効果を生んでいる落語会

遊かり一花の「すききらい」Vol.8
5月16日 新宿 フリースペース無何有
遊かりさんと一花さんのお二人が、自分たちの好きな噺と苦手な噺に取り組んでいる会で、最近通っている会。
好きな噺と嫌いな噺に取り組む回を交互に開催、欠席した前回Vol.7は好きな噺の番だったので、今回は「きらい=苦手」な噺に挑戦。前回1月19日の訪問の回も、嫌いな噺の回だった。今回も苦手な噺と格闘するお二人の姿を楽しみに出掛ける。
今回もコロナ対策の間隔をとった座席配置の客席は、少数精鋭の常連さんで満員。
 
オープニングトーク
お二人のざっくばらんなトークが楽しい時間。普段の落語会では聞けないような話もあり、二人のトークタイムはこの会の魅力の魅力のひとつ。
香盤による厳格な身分社会である落語界。お二人の会話も、先輩後輩の関係性をしっかり守ったもの。先輩である遊かりさんの一花さんに対する愛ある後輩イジリ。今回も担当の一花さんが、チラシ作製を忘れた騒動をチクチク。これが笑い話になっているので、嫌味が無く観客を楽しませるネタとなっている。一花さんの言い訳も楽しいし、お二人がそれぞれの役割を上手く分担されていることが分かる。一花さんの話からも、遊かりさんが気遣いの人であることが伝わる。
現在、落語協会も芸協も新真打の披露目の最中。一花さんも先代柳朝一門の先輩である蝶花楼桃花師匠のお手伝いで忙しい日々を送っている。そんな話題から、披露目の話。同じ披露目でも、楽屋の雰囲気は落語協会と芸協では違うようだ。それぞれの協会のカラーの違いも面白い。
さて、お二人がこの日に挑戦する苦手な演目を紹介。遊かりさんは「宿屋の仇討」で遊雀師匠直伝の師匠の十八番。一花さんは「愛宕山」で三朝師匠から習ったもの。若かりしころの小朝師匠がよく掛けていた演目。それぞれのもう一席は、苦手ではない噺とのこと。
さてさて、ネタ出しで始まった今回、楽しみだ。
 
三遊亭遊かり「金明竹」
トップバッターはこの日のトリの遊かりさん。マクラは、この日の出番前に扇子が行方不明になった話。鞄に入れて持って来たはずの扇子が無い。探した結果、カバンに仕舞ったまま高座の下に収納していることが判明。お客さんの前で高座の毛氈をめくってカバンを取り出そうとしたら、一花さんに止められた。さすが、落語会の会場だけあって、楽屋に予備の扇子があった。一花さんから扇子貸しましょうかとの申出も後輩イジリのネタと化す。
後輩の一花さんとの二人会、落語家の同期や後輩たちとの関係もちょうどいい話題。自分は強面なので、最初は後輩や同期から怖がられるが、いったん仲良くなると、気兼ねがなくなり、逆になめられる。これは怒っている訳ではなく、後輩たちに慕われていることをご本人も喜んでいるようなお話。こんなざっくばらんなマクラも、遊かりさんの魅力。
 
本編は、久々に掛ける前座噺。前座噺は、やらなくなるので、やれなくなるとのこと。おそらく、この日のために浚ったようだ。なので、久し振り感ある一席。
主人が教える傘の断り口上で、「骨は骨、紙は紙」のところを「皮は皮」と言い間違えるご愛嬌。この噺は、前半の断り文句と後半の上方弁の商人の伝言という定型の口上を覚えなければならないという、バイエルのような稽古用の演目。久し振りにかけるベテランにとっては、結構難しい演目なのだ。小僧の松公と女将のコンビの遣り取りの可笑しさはさすが。たまに前座噺に挑戦するのも、意外性があって楽しいかも。
 
春風亭一花「愛宕山」
トークや前の高座のマクラで散々いじられた一花さん。今度は、マクラで遊かりさんに逆襲。と言っても、単なるディスりではなく、尊敬する先輩を的確に評価していることが伝わるので、楽しい笑い話のマクラとなっている。
そんな一花さんの遊かり評は、姐さんは後輩に優しい、そして何でも出来てしまうとのこと。後輩としての尊敬の念が伝わってくる。そのうえで、芸においてお互いが良いライバル関係になっていることが伺える。年齢はもちろん、芸風や個性が異なる二人。それが、この会で、それぞれの個性をぶつけ合うことで、良い相乗効果を生んでいる。
 
本編は、苦手とする演目。しかし、何とか物にしたいと考えるのは、この噺が本当は好きな証拠。好きな噺だからこそ、余計に上手くいかない、思ったようにいかないもどかしさがあるのだろう。
初めて聴いたが、そんな一花さんの苦手意識を感じさせない見事な一席だったと思う。登場人物が多いが、それぞれのキャラが明確に描かれていた。遊び人のお大尽、奉公人、お抱えの幇間、それらの身分を象徴的な行動で表現。
演者が大汗をかく一八の登山と崖下からの帰還の場面、一花さんも熱演。崖下へ飛び降りるとき、高座で跳ねると着地で大きな音。熱演ならではのハプニングに客席も大受け。
愛宕山で連れてくお供の舞妓が、雛菊、祐輔、きよ彦と後輩の二ツ目たちというクスグリをみせる余裕も。苦手というより、高座に掛ける際に、ある程度の覚悟と気合が必要な噺だと一花さんが感じているのでは、そう思わせる高座だった。
 
仲入り
 
春風亭一花「権助提灯」
なんと、小遊三師匠の出囃子「ボタンとリボン」で登場。遊かりさんのイタズラのようだ。楽屋口向かって、止めてください、と恐縮しながら登場。
二席目は嫉妬の噺。まずは、間男が題材の有名な冷蔵庫の小噺。嫉妬の噺は、いくらもある。既婚者の一花さん、本妻や妾が登場する噺なら、女流として、どんな表情で女性の登場人物を見せてくれるのか、そんな楽しみで、演目は何だろうとワクワクして待つ。始まった本編は、まさに本妻と妾の嫉妬合戦を描く代表的な演目。
相手を思いやっているようでいて、実はその裏側に嫉妬の炎が潜んでいるという微妙な感情を、大袈裟ではなく、それでも観客に伝わるような適度な表現をもって、女性陣を描いてくれた。
それ以上に良かったのは、田舎弁で主人に対してもぶっきら棒な権助の描き方が見事だったこと。この権助は、意外と忠義者で、その権助の語る田舎弁の正論が、男性陣の耳には痛い。そんな強烈な皮肉たっぷりの噺でも笑いが勝っていて、会場を和やかにした一花さんだった。
 
三遊亭遊かり「宿屋の仇討」
この日のトリは遊かりさん。そして宣言どおり、苦手な演目に挑戦。この演目は、昨年6月20日の遊かり独演会vol.7で聴いて以来、約一年ぶりだ。苦手と言いながらも、この噺に挑戦し続けていることから、好きな噺なので上手くなりたいとの、遊かりさんの強い想いが感じられるのだ。
また。遊かりさん自身が、遊雀師匠のこの噺が大好きと公言されている。この日の一席でも、この噺の見せ場である宿屋の二階での江戸っ子三人組の大騒ぎと、侍の怒りと伊八の右往左往ぶりを一気に語って駆け抜ける。まるで、大好きな師匠の一席をなぞるようだ。遊雀師匠の見せるハイテンションさが目標なのだろう。この駆け抜けぶり、そのスピード感から、この噺に対する愛情すら感じさせる。この噺を通じて、遊かりさんが師匠の背中を追いかけていることが伝わってくるのだ。
 
エンディングトーク
大汗書いた二人が高座でクールダウン。次回の告知と撮影タイム。客席も、余韻を味わう良い時間となっている。
二人は切磋琢磨する良いライバルであり、それが良い相乗効果となっていることを改めて感じた二人会。これからも通い続けたいと思う。

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