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落語日記 東西の一門が競い合う落語会

文都一門と遊雀一門 vol.5
12月2日 スタジオフォー
2018年から始まった月亭文都一門と三遊亭遊雀一門のフルメンバーの交流会。毎年一回、東京と大阪で交互開催してきた。コロナ禍もあって今回が5回目。2020年の第3回の東京での開催された会にお邪魔して以来の訪問。皆さんお変わりないが、木馬亭で拝見した秀都さんの成長ぶりが目覚しい。

オープニングトーク
出演者全員が高座前に勢揃い。天使さんと遊かりさんから、この会の切っ掛けなどを説明。7代目月亭文都を襲名する前は月亭八天、遊雀師匠も以前は柳家三太楼、お二人がそう名乗っていた頃から東西交流会などで付き合いはあった。
遊雀師匠は、文都さんがお気に入り。この日も秀都さんを可愛がる遊雀師匠の様子が笑いを誘う。
今までの出番順は、主任と仲入り以外はジャンケンで決めていた。しかし、今回は文都師匠と遊雀師匠からの提案で、天使さんと遊かりさんに長講の演目を掛けられる主任と仲入りの出番を任せることになった。入門からの経験年数が同じくらいの二人、天使さんは江戸落語における真打と同様の階級に近づいているし、遊かりさんも真打昇進が見えてきた。そんな二人の今の落語を師匠として聴けるよい機会、そんな理由でこの日急遽決まったようだ。なので、任された二人は大慌て。
演目は何を掛けるかという話になったとき、二人の出した答えに師匠たちは同時に「ほーっ」と感嘆の声を上げたそうだ。これには観客も何を掛けてくれるのかと、否が応でも期待が高まる。

三遊亭遊雀「反対俥」
と言う訳で、開口一番は遊雀師匠が登場。前座代わりなのか、羽織無しの長着だけの着流し姿。これはこれでカッコイイ。
マクラのお話、楽屋で文都師匠と話していると、若かりし頃に戻ったようだ。そこで、最近は掛けなくなったが、若い頃よく掛けていた噺を久し振りにやってみます、と宣言して本編に入る。
NHK新人演芸大賞落語部門大賞、そして国立演芸場の花形演芸大賞も受賞したという演目を掛けるとのこと。むかし、林家たい平師匠と二人で橘家圓蔵師に稽古を付けてもらった噺だそうだ。と始まったのが、なんと反対俥。老人の俥夫の駄目駄目ぶりと、威勢のいい若者俥夫の突き抜けた張り切りぶりが両極端に振れていて、爆笑の一席。遊雀マニアポイントの一つ、メタ発言が連発され、演者の心の声が遊雀ファンを大いに喜ばせる。
ふと感じたことなのだが、老人の俥夫の語り口が、元の師匠である柳家権太楼師匠の口調に似ていたこと。やはり、縁は切れても体に染みた芸風はいつまでも残るのだろうか。
終演後は、さすがにぐったりの様子。体力を消耗する演目だが、まだまだやれる。

月亭秀都「饅頭こわい」見台あり
開口一番を遊雀師匠が務めたあと、文都さんもやりづらいだろう。でも、気分を変えて自分の世界を堂々と披露。
マクラは色々な場所での仕事を巡るエピソード。笑いをとりながら自分のペースに持ち込む。
本編は。上方落語らしく、江戸落語の噺とひと味違う可笑しさ。上方落語の楽しさも味わえる会なのだ。

三遊亭遊かり「大工調べ(上)」
仲入り前の出番の指名を受けて登場。ご本人はかなりやりにくそうな表情。しかし、覚悟を決めて披露した演目は、何度も掛け続けてきた噺。ここは覚悟を決めて、師匠の前で、ある意味、チャレンジされたのだろう。
本編は、今までと同じく奉行所に訴えでる場面まで。鉄火肌の大工の棟梁政五郎が、因業大家に毒づく啖呵をこの日もしっかりと聴かせてくれた。
遊かりさんでは、ここ3年で3回聴いているので、今回が4回目。追いかけていれば同じ演目に当たる確率は高くなるが、それにしてもよく遭遇する。それだけこの噺に対する遊かりさんの強い思いを感じるのだ。
女性の落語家で聴くことは少ない噺。大工政五郎の威勢の良い啖呵に抵抗があるのかもしれない。しかし、遊かりさんは、めげずに何度も挑戦されている。確かに、登場人物として棟梁の政五郎はカッコイイ。きっと、遊かりさんが惚れているキャラクターなのだろう。そんな気合の入った一席だった。

仲入り

月亭文都「茶屋迎い」見台あり
江戸落語でいうと「不孝者」。どうやら上方落語が本家のようだ。江戸落語では、なかなか聴けない珍しい噺の部類。以前に、兼好師匠と三三師匠で聴いている。上方落語では初めてかも。
前半は「木乃伊取り」のように、茶屋遊びで家に帰らなくなった若旦那を連れ戻すため、奉公人たちが迎えに行くが、みな帰ってこないというもの。後半は業を煮やした大旦那、飯炊きから着物を借りて身分を偽って迎えに行くも、この茶屋で大旦那の旧知の芸者と何年かぶりの再会、焼け棒杭に火が付つくという噺。
文都師匠が見せる、大旦那や奉公人の上方商家の風情が見事な一席。貫禄たっぷりの大旦那が、実は昔、芸者と色々あったと観客に伝わるときのしみじみとした可笑しさ。あれだけ若旦那の不行跡を嘆いていた大旦那が、実は酸いも甘いも噛み分ける人物だったというギャップ。この大旦那を描けるのは、それなりの年齢の積み重ねと技量が必要だと感じる。まさに文都師匠の凄さを、東京の観客にも見せつけてくれた高座だった。

月亭天使「しじみ売り」見台なし
いきなり主任を任されたようで、天使さんの表情からは緊張感が伝わってくる。それでも、明るくマクラを振って、ご自身を奮い立たせているようだった。なので、まずはご自身の趣味のお話。B'zの大ファンで、コンサートに行って盛り上がるのが何よりの楽しみとのこと。客席に向かって、コンサートでの掛け声「ウルトラソウル」の練習を呼びかけ、客席の皆さんも協力的に盛り上げる。ここは、掛け声で天使さんを応援しているかのようだ。これで、天使さんも落ち着いて、ご自身のペースに持っていけたようだ。

本編は、こちらも江戸落語では珍しい部類の噺。ネットで調べると、元々は上方落語で、江戸落語では志ん生師が得意とされていたそうだが、現在はほとんど聴かれない。講談「鼠小僧治郎吉」から創作された落語らしく、上方落語は主人公が人情家の人入れ稼業の親方に変わっている。江戸落語では、元の講談のとおり、鼠小僧次郎吉が登場するそうだ。
恵比寿様の大祭「十日戎」の日、寒さで凍えた蜆売りの少年と偶然遭遇したのが、親方の女房や子分。その会話の中で、少年一家の身の上話が語られ、その数奇で悲惨な運命に同情した女房が少年に情けをかけるという物語。人情噺であり、笑いどころは少ない。
凍てつく冬の情景描写、少年の哀れさ、女房の情の厚さなど、会話の中で伝えられる数々の感情。天使さんは、丁寧に情景や人物の感情を描いていた。道化役の子分も、笑いのアクセントとなっている。重厚な長講を丁寧に聴かせてくれた天使さん、熱演だった。
師匠たちを前に、プレッシャーのなか、覚悟を決めて熱演を披露したお二人の挑戦。さて、師匠方の反応は如何に。


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