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落語日記 飄々と主任を務める三朝師匠

浅草演芸ホール 11月下席昼の部 春風亭三朝主任興行
11月23日
私は三朝師匠とはRAKUGOもんすたぁずで出会い、同じく贔屓の桂やまと師匠の中央大学落研の後輩にあたり、中央大学落研OB落語会での好演連発を拝見するようになってファンになった。
二ツ目の朝也さん時代の2014年には、NHK新人演芸大賞を「やかんなめ」で受賞とその実力を証明。その実績を引っ提げて2017年3月に春風亭三朝と改名し真打昇進。
昨年の浅草演芸ホール7月下席昼の部において、初めて主任に抜擢された。真打昇進二年という早い時期での主任興行は、若手落語家が群雄割拠の現在では快挙だ。そして、今回再び浅草での主任興行。初主任興行時とはまた違うであろう表情を楽しみに出掛ける。
感染症対策は、検温と手指消毒、市松模様に間隔を開けて座る客席、仲入り以外の換気のための小休止、これらは相変わらず続いていた。

途中入場

金原亭乃ゝ香「金明竹」
この芝居より二ツ目昇進という、乃ゝ香さんの披露目興行でもある。
久し振りに拝見。高座での余裕が出てきたようで、落ち着きを感じる一席。リズム重視で、ご自身の芸風を確立しつつある印象。

桂三木助「猿後家」
三朝師匠とは同じ年の9月に真打昇進という香盤すぐ下の後輩。馬生一門馬治師匠の弟弟子として、私的には近しい感じ。どこか頼りない印象だったのが、若手真打としての貫録が付いてきた。飄々とした軽さと明るさが持ち味。不思議な性格の女将を怪演。
三木助師匠の初主任興行を期待して待ちたい。

おしどり 漫才
ケンさんとマコさんの夫婦音曲漫才。マコさんのアコーディオン演奏とケンさんの針金細工が売りの芸。この日もケンさん得意の見事な針金細工を、遠隔地から来られたのお客様へプレゼント。長崎、大分、京都からの皆さんがゲット。三朝師匠は大分のご出身。大分からのお客さんは、そしかすると応援に駆け付けた親戚かも。
ケンさんがテルミンという不思議な楽器を演奏。マコさんのお豆腐マンの歌。バラエティ番組のような構成。

五明楼玉の輔「ざいぜんごろう」
癌の宣告に悩む医師と励ます看護師の噺。得意の演目。飄々として馬鹿馬鹿しい演目は毎度お馴染みで、この日も客席を沸かせる。しかし、癌が怖い病気で無くなりつつある昨今、医師が癌という病名を患者に伝えることの抵抗感が無くなっているので、噺の設定が古くなりつつある。新作は時代によって変わっていくことを感じさせられる。

古今亭菊之丞「町内の若い衆」
この芝居もそうだが、最近の寄席では主任級の人気者が数多く顔付けされているような気がする。おそらく、独演会やホール落語会の開催が減っているためではないかと思われる。そんな環境下での三朝師匠の主任抜擢は余計に価値がある。この日もこの丞様をはじめ、人気者大物の皆さんが出演。今の寄席はお得感満載だ。
この日は寄席でも軽い一席で客席を温める、自由自在の丞様。高座が華やかになった。

換気のため小休止

江戸家小猫 ものまね
お家芸のウグイスは相変わらず凄い。でも小猫先生の魅力は、物真似の見事さだけではなく、その語り口にある。不思議な可笑しさあふれる語りなのだ。
この日の珍しい物真似では、タスマニアデビルやオラウータンのロングコールを聴かせてくれた。

柳亭燕路「悋気の独楽」
夜の部では弟子のこみち師匠がトリ。気分を良くされているのか、いつもなのか、とにかくニコヤカな燕路師匠。弾む様なリズムのある高座は、ベテランの安定感。

春風亭一朝「幇間腹」
まだまだ続くベテラン陣。この日は弟子の三朝師匠の主任興行、師匠として盛り上げ役を引き受けて、イッチョウケンメイにサポート。寄席サイズでこの噺に上手く起承転結を付けるところは流石。

マギー隆司 マジック
やる気があるのかないのか、そんな不思議な芸風。テキトーな手品かと思っていると、あっと驚く手品を見せてくれる。でも、不思議。

鈴々舎馬風「楽屋外伝」
頭髪を染めるのを止めて、すっかり白髪が板に付いた馬風師匠。相変わらずお元気な様子。噺はいつもの漫談だが、最近の話題も混ぜて飽きさせない。驚いたのが、神主の物真似。芸達者な師匠。

柳家小さん 「長短」
この日の出演者は、師弟が四組も出演するという、大変珍しい顔付け。小さん師匠も現師匠である馬風師匠のすぐ後の出番。これくらいベテランになると平気なのだろうか。いつもマイペースな小さん師匠。小さん家のお家芸のような長短。

仲入り

林家ひろ木「世界一周の旅」
仲入り後は、林家彦六一門で固めた出演者。その先鋒は、ひろ木師匠。
津軽三味線を売り物にされている。数年前は、ウマ下手というか、三味線のたどたどしさで笑いを取っていたのを覚えている。しかし、その腕前は格段に進歩、見事な演奏を聴かせてくれた。
三味線の演奏による世界一周の旅というネタも面白い。アメリカからパイプライン、イギリスはビートルズのうえしたデイ、日本は津軽じょんがら節。とぼけた味は貴重なキャラだ。

林家木久扇「明るい選挙」
人気者の登場で、客席も盛り上がる。津軽三味線を勧めた弟子のすぐ後に出演。笑点の司会者五人を見送ってきたと、笑点ネタから。観客の集中力を一気に掴む。
メインは立川談志師匠の思い出。談志師匠の物真似も交え、生前の高座の雰囲気を思い出させて懐かしい。選挙活動のエピソードを面白可笑しく。いい時代だった。

ぺぺ桜井 ギター漫談
ペペ先生も、相変わらずお元気。馬風師匠、木久扇師匠と三人で出演者の平均年齢を引き上げている超ベテラン。私には、拝見するだけで和む存在。いつまでもお元気でいて欲しい。

林家木久蔵「新聞記事」
父親に続き息子登場。お坊ちゃまキャラ、天然キャラが、この日も炸裂。芸風に合った演目。 このままキャラを活かして、お坊ちゃま道を歩んでほしい。

春風亭小朝「親子酒」
またまた人気者の登場。小朝師匠のお目当て客が少なからずいて、この後に席を立つ人がちらほら。相変わらずの人気。小朝師匠では初めて聴く演目。酒飲みの意地汚さを可笑しく好演。大河ドラマの怪演とは対極の高座だ。
若手のときから人気があったせいか、若いという印象の小朝師匠も、大旦那の貫録も似合う年齢になってきた。金髪のトンガリ頭をいつまで維持されるのかなあ、と余計なお世話の興味がある。

翁家勝丸 曲芸
座ったままの太神楽曲芸。これはこれで難しいと思う。たまに毬を落とすシクジリもご愛敬。マジかわざとなのか分らない。

春風亭三朝「竹の水仙」
さて、いよいよお待ちかねの登場。いつものように飄々と高座に上がってきた。大勢の人気者を前方にした顔付けでの主任の大役。そんなプレッシャーを少しも感じさせない。マイペースなところは高座度胸の凄さ。軽快なマクラはファンにはお馴染み、そこからの本編は充実の一席。見事な高座を堪能させてもらった。

私は三朝師匠の武家が好きだ。NHK新人演芸大賞を受賞したのも「やかんなめ」という武家物。体面を重んじ外聞ばかり気にして、町民を見下している。そのくせ内心は小心者で、どこか人の好さが見え隠れする武士。そんな武士を描かせたら、若手トップクラスだと私は思っている。
町民から見た武士の窮屈さや上司に逆らえない哀れさなどを、上手く笑いに変えている。今回、細川公の使いで竹の水仙を買いに来た武士の泣き笑いは見事である。観客は宿屋の主人を通して、この武士に逆襲する快感を味わえた。現実には味わえないイジメの快感、けっこうスカッとする。

一方の主役である宿屋の主人。物語の進行と共に甚五郎に対する態度が丁寧、ゾンザイ、恐縮、と変化していく様子が見事だった。甚五郎と主人、女房と主人、細川公の家臣と主人、その立場が甚五郎の正体が分かるとともに形勢が逆転する。その変化で多いに笑わせてもらった。余計なクスグリはなく、状況を笑いにするというこの演目の特性を活かした口演。そんな芸風から、一朝師匠の芸の後継者は、弟子の中では三朝師匠が一番だと思っている。
気負うこともなく淡々とした高座で、見事に実力を発揮された主任の一席だった。

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