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落語日記 芝居が好きな落語家二人の青春時代の思い出話が楽しい落語会

遊かり・一花「坂の途中」VOL.15
10月16日 高田馬場・ばばん場
当初は「すききらい」と題して行っていた三遊亭遊かりさんと春風亭一花さんのお二人での勉強会。会場と内容をリニューアルしての3回目。勉強会ならではのお二人の奮闘ぶりや素顔も感じられ、二人のファンにとっては楽しみな会。
 
オープニングトーク
遊かりさんの独演会のときにもアナウンスされていた、遊かりさんが舞台女優としてデビューした演劇が、この日の前日に楽日を迎えたというタイミング。その演劇を記録しておくと、カクシンハン・プロデュース「シン・タイタスREBORN」(シェイクスピア作「タイタス・アンドロニカス」令和版)というもの。
この芝居は一花さんも観に行ったそうだ。この日の客席にも、観劇されて方がパンフレット持参で来られていた。稽古の話、会場がやや不便な場所にある話、役者仲間の話など、一花さんがインタビューする形で遊かりさんから話を聞く。
そして、午前中は遊かりさんと一花さんの二人は、BS笑点の女流大喜利の収録を済ませてきた。そんな状況なので、二人ともお疲れの様子。お二人の本音が飛び出すので、このトークはなかなか楽しい。
遊かりさんから、疲れてへとへとなので、トリネタは「厩火事」か「文違い」のどちらかしか掛けられません、どちらが良いですか、と急遽客席にアンケートを実施。一票差で「厩火事」に決定。このような稽古もままならない状況で掛けられる演目、と言うことは、この二つの演目に自信を持っているということなのだろう。遊かりさんではどちらも聴いている。
 
三遊亭遊かり「転失気」
こんな疲れた状況の自分をさらけ出して見てもらうというのも、この会の趣旨。客席に問い掛けるように宣言。会場は二人の贔屓さんばかりなので、皆さん納得。
元々劇団にも所属されていたように、役者志望だった遊かりさん。青春時代は、演劇で夢を追いかけていた。そんな遊かりさんにとって、今回の演劇に出演したことは、格別に嬉しい出来事だったようだ。
劇中では遊かりさんは語り部の役、とは言っても落語家のように語るだけではなく、身体を使った表現もあったらしい。落語家としてではなく女優デビューだったようで、マクラの語り口からもその感激ぶりが伝わってくる。
そんな長めのマクラから、本編は短く慣れた噺。小僧の珍念が可愛い。和尚の大人のプライドと珍念の子供の素直さの対比が楽しい一席。まずは、肩慣らしの一席といったところ。
 
春風亭一花「駆け込み寺」
売れっ子の一花さんもなかなかにお忙しく、少々お疲れもあるかもといった様子。
マクラは、母校の立教大学とのご縁の話。最近、ご縁が出来て、母校から仕事の依頼が来るようになったとのこと。ご主人の馬久さんも立教の同窓というご縁。前日には、立教大学のホームカミングデーが開催され、落語を披露してきたそうだ。多方面での人脈を活かして、ますます引っ張りだこになる予感。
本編は、今年1月のこの会で披露した演目。そのときは、この噺自体が初見だった。あれから掛け続けているのだろう。夫婦喧嘩もこなれた様子。お互いの本心は好き合っている夫婦、そんな機微を上手く表現している。一花スペシャルな演目になっていくに違いない。
 
仲入り
 
春風亭一花「四段目」
登場するなり、重大なご報告があります、厩火事と付く噺をしてしまいました。これには会場爆笑。袖から遊かりさんも登場して、事情説明。用意していた厩火事は、夫婦喧嘩の噺ではあるが、自分の型は女房が相談する相手が兄貴分ではなく、姉御分との女性に改作していて、これが「駆け込み寺」の設定と非常に似ている。夫婦喧嘩の噺でもあるし、予定を急遽変更して「文違い」にします、と説明。せっかくアンケートまで取って決めたのに、すみません、と一花さんは恐縮しきり。
遊かりさんと一花さんの共通点は、学生時代に演劇へ情熱を注いでいたこと。一花さんは立教大学在学中に所属していた演劇サークルの思い出を語る。学業よりも熱心に演劇に取り組んでいたとのこと。なので、今回の遊かりさんの演劇出演で、大いに刺激を受けたようだ。
その演劇サークルの先輩に連れられて池袋演芸場に行ったのが、落語を初めて生で観た経験。近くに座っていた年配客の笑いどころが同じだったことに驚き、演者も流れるように入れ替わり交替して登場し、それが楽屋のネタ帳一つで演目がコントロールされていることを聞き、大いに驚いたそうだ。そして、この池袋演芸場での体験から落語に魅せられていき、落語家になる切っ掛けとなったとのこと。
 
そこから入った本編は、前回の一席目で披露した演目。この会の前回のお話しでは、今年のNHK新人落語大賞に挑戦する演目なので、予選突破に向けて磨き上げていくという主旨だろう。今年の本選は11月11日にNHK大阪ホールで開催される。
この会の開催時点では、まだ本選進出者の発表される前。その後、この日記を書いている間に、一花さんが予選を突破されたとのニュースを聞いた。そして、喜んでいるうちに、本選の放送日を迎えた。今年から本選は生放送、テレビの前で応援しながら鑑賞することができた。
本選本番では、抽選で決まった一花さんの出演順がトップバッター。演目は予定通り、掛け続け磨いてきた「四段目」で勝負。結果は、残念ながら大賞受賞とはならなかった。
大賞受賞は、上方落語の桂慶治朗さん。落語の技量、笑いの分量ともに文句なしの高座で、審査員もほぼ全員満点(馬生師匠のみ9点だが、師匠が付けた最高得点でもあるので、実質は全員満点)の高評価。観客も納得の大賞受賞だったと思う。素晴らしい高座による大賞受賞で、慶治朗さんには祝意を表したい。
一花さんが「四段目」という芝居の形を見せる難易度の高い演目を選び、本選前に高座に掛け続けて磨いてこられた挑戦は、落語に真正面から取り組む真摯な姿勢や志の高さを見せてくれた。賞レースでは残念な結果だったが、その健闘ぶりに拍手を贈りたいと思う。
 
三遊亭遊かり「文違い」
前方の噺で、急遽「厩火事」からこの噺に変更。昨年の11月に開催された「たっぷり遊かりvol.2~落語の中の女たち」で聴いて以来の二度目。
場面ごとに相手を変え、それぞれが手玉に取って取られて そんなシチュエーションで笑わせるという噺。かなり難しい噺だと思う。お疲れの状況の中でもトリネタとして掛けられるということは、かなり場数を積み重ねてきたということだろう。お互いに騙されていたと分かったあとのお杉と半七、その怒りと悔しさの感情のぶつかり合いが見どころ。感情剝き出し表現も遊かりさんらしさだ。
 
この二人会の魅力は、お二人の落語家としての人生経験や生き様を垣間見せてくれるところにある。落語家になるまでの青春時代の思い出、落語家になる切っ掛け、落語家になってからの苦労や喜び。そんな落語家人生の経験談を語ってくれるお二人。ファンにとってはたまらない時間。
自分の人生を振り返ってみても、今の職業と出会ったのは偶然だったと思う。そこから、この職業につくことを目指しての七転八倒があった。お二人も同じように、迷っている中でたまたま出会えた落語家という職業。元々目指していた道と異なる道でも、自分を活かせる落語家という道を見つけた。
こんな話が聞けるのも、狭い会場でご贔屓さんばかりという空間ならでは。そんな落語会だった。

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