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落語日記 コロナ禍下の寄席で主任に抜擢された桂やまと師匠

6月26日 池袋演芸場 6月下席昼の部 桂やまと主任興行
6月5日に訪問した浅草演芸ホールの遊雀師匠主任興行は、緊急事態宣言下だった。東京都では、その緊急事態宣言も6月20日をもって解除され、21日からはまん延防止等重点措置に移行した。なので、この日は、まん防下での寄席訪問となる。

この日は二ツ目時代から応援している、桂やまと師匠の池袋演芸場での主任興行。末廣亭での一之輔師匠の真打披露興行に出演されていたやまと師匠を拝見して、その芸に魅かれたのが9年前。あれから折々、やまと師匠の高座を追いかけてきた。
現在のコロナ禍によって、寄席では集客のために、人気者中心の顔付けとなっている。そのために、落語協会の芝居では、主任の椅子取りゲームが激しくなっている。寄席のトリに選ばれるのは、大変厳しい競争を勝ち抜かないといけない状況なのだ。そんな中で、やまと師匠は主任に選ばれるまでになったんだなあ、と個人的感慨に耽りながら訪問。

池袋の繁華街の人出は普段どおりの印象。この日の池袋演芸場の入場者も、半数以上の入りで、コロナ禍以前の入りと比べても遜色のないくらいに入っている。
高齢者はまだ少ないが、その分、若者が多いような印象。中央大学落語研究会の顧問を務めるやまと師匠の教え子たちかもしれない。また、ご贔屓さんもきっと多いだろう。
池袋演芸場は、座席は最前列のみ着席禁止で、市松模様で一つ飛ばして座る制限は撤廃されている。感染症対策としては、テケツでの検温、入場口での手指消毒、入り口の扉を開演中も開放している。マスク着用も必須なので、まだまだ平常時とは違う。それでも、開演してしまえば、高座に集中できて、コロナ禍の日常から別世界へとトリップできるのが寄席の良いところ。

古今亭松ぼっくり「子ほめ」
RAKUGOもんすたぁずの前座でお馴染み。寄席でも頑張っている様子が見られて嬉しい。

三遊亭天歌「甲子園の土」
当代圓歌師匠のお弟子さん。初見かも。普通の青年のような話し方と外見、本編に入ると意外と面白い。
なんとか感動を演出しようとする意図で甲子園球児を取材するマスコミと、そんな大人側の勝手な要求に対して冷静に対応する若者を題材とする新作。甲子園の土がネットオークションで売られていたという事実にヒントを得て作った噺らしい。
この冷静な高校球児の青年が、マスコミの事情も分かったうえで要求に応えるという大人な対応が、奇妙な感動を生む。新たな才能を発見。

春風亭三朝「やかんなめ」
最近の寄席では引っ張りだこの人気者。最近の落ち着いた高座ぶりからは、貫禄も感じるようになってきた。噺は、2014年に「NHK新人落語大賞」を受賞したときの演目。おそらく、ご本人の十八番の演目だろう。
「合い薬」の解説の古典的マクラから本編への導入は見事な流れ。本編のみどころは、癪の合い薬のアカのやかんにそっくりな頭部の武士の早合点する様。気は優しいが思い込みの激しい武士、その「よくぞ見どもを引き留めた」からのセリフはリズミカルで心地良い。
いつの間にか笑ってしまっている。この武士と下男の可内(べくない)コンビの遣り取りも可笑しい。寄席にふさわしい一席。

桂才賀「カラオケ刑務所」
弟子がトリを取るので、師匠としてアシスト出演。羽織なしの長着着流し姿で登場。強面の表情で着流し姿という、まるで任侠映画の登場人物のようだ。
本編は、落語協会で毎年開催されている新作落語台本・脚本の募集に応募され、優秀賞を受賞した作品。新作で一世を風靡した春風亭柳昇師の名作「カラオケ病院」のオマージュ作品らしい。刑務所内での受刑者によるカラオケ大会、罪名と替え歌がリンクしていて、馬鹿馬鹿しい可笑しさ。まさに、柳昇テイストの可笑しさ。
実際に全国の刑務所や少年院への慰問活動を積極的に行っている才賀師匠の慰問姿を想像し、強面の風貌と着流しの任侠スタイルで語る才賀師匠のお姿から、この噺の可笑しさが倍増されている。

とんぼ・まさみ 漫才
落語協会所属の色物さんだが、寄席で拝見するのは初めて。浮世亭とんぼ先生と横山まさみ先生の上方漫才。関西弁のしゃべくり漫才という寄席では珍しいスタイル。個性が強い分、寄席の彩り、芸の気分転換としての効果は抜群。

桃月庵白酒「茗荷宿」
どんな出番でも、短い時間でも、毎回、外さない白酒師匠。寄席の短い出番での高座も客席を沸かせる。マクラは、池袋をディスする毒舌から。説得力のある絶妙な毒舌が可笑しさの源。
本編は、白酒師匠でしか聴いたことのない噺。宿屋の夫婦の悪巧みで、次から次へと繰り出される茗荷料理が抜群に面白い。宿屋夫婦の悪人なのにどこか憎めない間抜け具合も楽しい。

春風亭柳朝「お菊の皿」
仲入りは、柳朝師匠。いつものようにフワフワとした軽妙な語り口の一席。この日の三朝師匠もそうだが、一朝一門は、クスグリやギャグで笑わせるより、噺の本筋自体が持つ可笑しさを、ご自身の芸風を活かした語り口で聴かせてくれる。無理に笑わせようと力んでいないのが、寄席に居る心地良さに繋がる。そんな一席。

仲入り

古今亭菊志ん「締め込み」
クイツキは、圓菊一門の中でも爆笑派筆頭だと思っている菊志ん師匠。
この噺の登場人物は泥棒と夫婦の三人のみ。それぞれの性格キャラの違いを、声音を変えたりせずに、セリフの可笑しさで伝える。菊志ん師匠の落語を聴くと、この登場人物のセリフの大切さを実感できるし、噺自体がよく出来ていると感心させられる。菊志ん師匠は。古典落語の凄さを伝える伝道師なのだ。

柳家さん遊「ちはやふる」
六代目柳亭小燕枝を昨年、柳家さん遊に改名された。番組表を見たとき、まだ、小燕枝だとピンとこないので、どなただろうと思ってしまった。
膝前の大役、さすが、重鎮という一席。噺を崩さず、きっちりとお手本のような高座。知ったかぶりのご隠居を演じるのにピッタリの貫録。ご隠居と重なるさん遊師匠。ご隠居物はお似合いだ。

アサダ二世 マジック
この日は、興が乗ったのか、珍しく話が長かった。「ちゃんとやります」からネタに入るまで喋り続ける。綺麗な江戸弁を使う落語家の思い出話。奇術師というより、寄席芸人ならではのお話。
このまま話だけで終わるのか、そう思わせてからのマジック。新聞紙、コーラの瓶。トランプときっちり三種のネタ。この自由奔放な高座がアサダ先生らしさ。

桂やまと「百川」
いよいよお待ちかねの登場。まずは、持ち時間オーバーしたアサダ先生イジリ。いつもは、あれっ、という思うくらい早く終わり、トリの高座に向けて気合を入れるための集中時間の途中で出番となってしまうのだが、この日は、充分に時間があったので気合充分です。そんな皮肉が効いた話をしていると、アサダ先生が高座に乱入。こんなハプニングも寄席の楽しさ。
コロナ禍で、東京のお祭りも中止となって寂しいかぎり。前座修行で稲荷町に通っていたことから、下谷神社のお祭りの思い出話。そこから江戸の夏祭り、四神旗のマクラから本編へ、上手い流れ。

久々に聴くやまと師匠の百川。得意の演目、掛け続けている噺。掛け続けているだけに、私が聴いたときの印象も、毎回変わっている。
特に今回感じたのが、主人公の百兵衛のセリフが変わってきているという点。以前は、奇声や崩した田舎弁の可笑しさを強調していた。しかし、この日の百兵衛は、田舎言葉が聞きやすく、訛りも弱まっている。リアルの側に寄ってきた感じ。なので、奇声や奇妙な田舎弁その物の可笑しさを弱め、江戸っ子が勘違いするという状況の可笑しさがジワジワと伝わってくるのだ。
百川の主人、河岸の江戸っ子たちなど、百兵衛を取り巻く人たちの表情や行動が、普段どおりなところがより可笑しさを増していると思われる。
何度も聴いているのに、つられて笑ってしまう。それも、変わったクスグリなどなく、噺のエッセンスで笑わせる。やまと師匠は、本寸法の王道を歩んでいる。

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