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位置情報は誰のもの?(3/3)

4.ケースによって異なる「個人の位置情報」の区分

それでは「個人の位置情報」は、どのようなケースで「個人情報」となり、「仮名加工情報」あるいは「匿名加工情報」となるのか、整理したいと思います。

<個人情報か、個人関連情報か>

「位置情報」には、一般的に「ID」「位置」「場所」という3情報が含まれています。この中で、「ID」の扱いが、情報区分を変えることになります。
一般的な測位で取得する「ID」は、名簿や商品管理簿などと簡単に照合して特定個人を識別できるようにしています。その点で「個人の位置情報」は、「個人情報」と位置づけてよいものです。

しかし、2020年改正法では、「個人の位置情報」は「個人関連情報」と位置づけられています。
スマートフォン利用を想定した場合、IDと照合し特定個人を識別する名簿等はスマートフォン事業者側に存在するものの、それ以外の者には現実的に参照が不可能なので、ここでスマートフォン事業者以外が取得した位置情報は「個人関連情報」になります。

つまり、実質的に「ID」が、個人を識別できないものの、ユニークな識別子であるケースが「個人関連情報」といえます。

そして、「ID」を頼りに、連続的に「位置」や「場所」を蓄積・分析するなどして特定の個人を識別した場合、「個人の位置情報」は「個人情報」になります。

ただし、例えば、認証機能をもたない画像認識技術で取得する位置情報は、「ID」が不明であったり、照合する他情報がない場合があり、これが、そもそも「個人関連情報」に該当するか判断は難しいところです。

また、人感センサーで取得する位置情報は、「ID」情報を取得できないので、「個人関連情報」には該当しないように思えます。このあたりの定義は曖昧です。

<匿名加工情報か、仮名加工情報か>

個人情報としての「個人の位置情報」は、加工方法によって「仮名加工情報」にも「匿名加工情報」にもなり、加工することで利用が促進されます。

そもそも位置情報は、単に緯度経度などの位置情報だけでなく、時間情報、ID情報を併せ持つ複合情報です。経時・共時分析、ミクロ・マクロ分析など様々な分析を施すことで、はじめて有効なデータを得ることが出来ます。

マクロな分析を行う場合、つまり「個人の位置情報」の「ID」を復元不可能な形で「匿名加工」して有効な分析ができる場合、「匿名加工情報」を使うことになります。

一方、せっかく「個人の位置情報」を取得したので、個々人の動線、属性別の占有率や密度といったミクロ分析を行う場合、「仮名加工情報」を使うことが多くなります。

ただし、「仮名加工情報」は、第三者への提供が禁じられているので、事業者の内部利用に限定されています。この点が、「個人の位置情報」を利用促進していく上での課題です。

 5.現状の問題点と今後の方向性

デジタル化の進展、そしてテレワークの普及に伴う社会的分散が進行する中で、個人に対する「可視化」の要請が強くなり、「個人の位置情報」の利用シーンは拡大していきます。
そこで最後に、大きく二点、問題提起をしておきたいと思います。

<屋内利用、スマホ利用外の位置情報利用へ>

「可視化」の要請は、これまでのように屋外だけでなく、屋内に広がっています。建物はそもそも目的的に作られており、面積ベースで9割り以上が部外者が立ち入ることのできない事業者の私的空間です。

そこで必要となる位置情報は、オフィスならオフィスワーク、工場なら製品製造とすべて建物目的に即して利用されるものであり、位置情報は個人が所有すべき情報と主張できない側面があります。
工場において、作業員は厳密な作業指示によって動いており、そこでの作業員の位置情報は個人のものというより、事業者のものといえるでしょう。

また、個々の作業員の能力を、作業員の位置情報やバイタル情報を分析することで判定できるようになっており、こうして取得する「個人の位置情報」が個人情報にあたるのか、事業者はどのように取り扱うべきか、など別の問題をはらんでいます。

2020年法改正までの法体系は、「屋外利用」「スマートフォン利用」が主な前提条件になっていますが、今後、屋内での位置情報利用が進むと、「屋内利用」「専門測位システム利用」などを含めて、個人情報のさらなる定義が必要になります。

<公共的仮想空間上での位置情報の扱い>

現在のメタバースの流行にみられるのは、仮想空間上のプライバシー概念が発達していくと同時に、仮想空間上の位置情報もプライバシーとして認識されるであろうという点です。

特に、仮想空間上に誰もがアクセスできる公共空間が確立された場合、対象となる利用者が実名で参加していることがわかれば、位置情報は「個人情報」になります。

アバターで参加していれば「個人関連情報」になり、アバターという識別子を頼りに、連続的に「位置」や「場所」を蓄積・分析するなどして特定の個人を識別した場合、位置情報は「個人情報」になると考えられます。

こうした激しい社会変化を背景に、個人情報保護法は3年ごとに見直す規定が設けられています。我々も、それぞれの立場で、位置情報の社会的な扱いを考え続ける必要があります。

(後藤 博則、森 健、丸田 一如)