見出し画像

浮遊



夜中の1時を回った頃だろうか。

都心の路地裏にある
人気のない低層ビルの屋上を目指す
1人の少年がいた

煌びやかな街灯が、町を照らす中
彼の心の灯火は全て消えかかっていた。

ただのみ込まれるような
日々の時間感覚から
逃げるように、風をきって走った。

逃げ込んだ先は
廃墟化した低層ビル

人気がなく、夜景が見える
全てを終わらせるにはいい所だった

ドアを開けると先客がいたようだ。

黒猫のような、つぶらな瞳の女性。
長い黒髪がふわっと風に撫でられて
クスッと笑う、君はそこにはいた。

何も恐れることがないよと、
君を誘惑してるような
柔らかい夜風が吹いていた。

君は、
街灯のフラッシュライトを浴びながら、
クスッと笑って
僕の目の前で彼女は姿を消した。

飛び降りたのかと思い見てみても
誰もいない

そう思って覗いている間に
風に背中を押された

足を踏み外した。
案外これもいいのかもしれない

今度は僕が
街のフラッシュライトを浴びながら
この闇深い夜に浮遊している。

この浮遊が、いつまでも続いて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?