慎重にしたい説明の表現
「身長が3センチも伸びたんです」
ときどき治療院をご利用いただいていた女性の方が、ある時、私の前に座るなりいきなりお話しされました。
年に一回の健康診断で、毎年147センチだったのが、今年は150センチだったそうです。
高校生の頃からずっと同じ身長で、もうすぐ50歳。
ずいぶん興奮されていました。
このようなお話しは、ときどきあります。
身長が伸びたように見えたのは、姿勢がよくなったから。
当たり前ですが、骨が伸びたのではありません。
ですから正確には、本来の身長に戻ったということです。
ところが「身長が伸びた」という言葉だけがひとり歩きして、誤解を与えてしまっていることもあります。
というより、誤解されても仕方のない言い方をしている同業の方もいます。
「マッサージで身長が伸びる!!」というように。
他にもマッサージをしたら筋力が強くなるという話もあります。
これはマッサージによって疲労が回復したり緊張が和らぎ、本来の筋力が戻ったというのがより正確でしょう。
マッサージのみによって、筋線維が太くなるわけではありません。
さらに「何とか療法」によって、ヘルニアが治った、すべり症が治った、脊柱管狭窄症が治ったという表現も時々みられます。
これもマッサージの直接的な効果によって、出ていたヘルニアや、すべっている脊椎が元に戻るのではなく、また狭くなった脊柱管が広くなるのではありません。
ある患者さんの腰や脚の痛みの原因が、ヘルニアや狭窄症とされていたけど、じつは筋肉のコリのほうが影響が大きかった。
だからマッサージをしてコリをほぐしたら、腰や脚の痛みが良くなったということ。
つまり前提が間違っていたということです。
それがいつの間にやら、何とか療法をしたらヘルニアが良くなったなど、トンチンカンな話しがまかり通るようになりました。
一般の方が勘違いしてしまうのは仕方がありませんが、問題なのはこの業界の人たちもそれを焚きつけるような言い方をすること。
インパクトのある話は営業上プラスにはなります。
でも長い目で見たら、不正確な話しはまともな人達から斜めに見られ、自分たちの業界の首を絞めることになりかねないでしょう。
背骨の歪み、骨盤の捻じれというのはどうでしょう。
これらは本当に正確な表現なのでしょうか?
背骨や骨盤がひとりでに、歪んだり捻じれたりするのでしょうか?
周囲の組織の緊張や関節の動きが制限されることによって、見た目上そのように見えているという表現のほうが、より妥当なことも多いのでは?
便宜的な説明としてよく用いられますが、歪みや捻じれが原因と説明された患者さんは、心理的にどのような影響を受けるでしょうか?
実は違うのに、ヘルニアなどの画像を見せられ「これが痛みの原因です」と言われてしまうことと同じようなインパクトを与え、誤った思い込みが生じる可能性もあるのではないでしょうか?
結果的に、回復のチャンスを逃してしまうことも起こりえるのでは?
表現の問題、慎重に考えなければならないと思います。
でも機能障害について、真摯に答えようとすればするほど奥歯に物が挟まったような表現しかできなくなり、それをもどかしく思ってしまうのも確かなのですが。
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