ソフトタッチというもの

手技療法では、触診やテクニックはソフトタッチで行うよう教わると思います。
このソフトタッチとは、ただソフトにやさしく触れることでソフトタッチになる訳ではないと、私は思っています。

みなさんは赤ちゃんを抱っこする時や、ペットをなでる時はどのような気持ちで触れているでしょうか。
きっと親しみを込めたり、可愛がろうとする、つまり「命を大切に扱おうという気持ち」「命を慈しもうとする気持ち」で触れているのではないかと思います。
この気持ちが行為として現れたもの、それがソフトタッチになります。
気持ちが先にあるのであって、形が先にあるのではありません。

私が手技療法をお伝えする時、心構えからお話しするのはこのような理由からです。
もちろん「苦しい時こそ笑顔でいると気持ちも楽になる」とも言われるように、形から入ることで心の在り様が変化するケースもあるでしょう。
学習の手段として、ソフトに触れることを意識するのも手段のひとつかもしれません。

しかし、ソフトを意識しすぎると「腫れ物に触る」ような触れ方になりかねず、手先のこわばりや緊張、ぎこちなさが相手にも伝わると、緊張の連鎖を生んでしまうこともあります。
だから私はソフトを意識するよりも、赤ちゃんやペットに触れるイメージを持って触診の練習することをお勧めしています。

慈しむ気持ちで触れるのは相手との一体感を持てる触れ方となり、一体感は安定感・安心感、そして信頼関係を作ることにもつながります。
さらに精神論的なことに留まらず、一体感が欠如するような緊張部位は機能障害が存在していることも多いので、スピーディーな触診という技術的な精度の向上にも結び付いていきます。
この一体感の欠如、つまり違和感のある部位に対し、解剖学・運動学・病態と照らし合わせて妥当であるかどうか検討を進めていくのが、私が臨床で実践している方法のひとつです。

もしかしたら、感覚から入るのはロジカルではないという意見を持つ方もおられるかもしれません。
長年、数学者として研究と教育に携わられたクライアントのお話しでは、数学者は考える時に数式を用いず、考えた結果を人に伝えるときに数式を使うのだそうです。
それに近いものとして、このような手法も実践的な臨床の技法のひとつだと思います。

カイロプラクティックでは哲学・科学・芸術を3つの柱としていますが、きっとそれらは別々のものではなく、すべて有機的に関連しているものなのでしょう。
心構えとなる哲学に基づいて触れ、その行為により固有の問題を検出するという芸術性を、科学的に検討を加えながら裏付けていく。
そんな感じでしょうか。

ハードな刺激を加えるという印象が強い私ですが、こうして治療院を続けていられる理由の一つは、これまで述べてきたようなソフトタッチがベースになっているからなのかもしれません。

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