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天外探訪② 合成食品を食べてみよう

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 天外港、蛟町。

 空き家になった喫茶店が日与と昴の仮住まいだ。

 昴は店内のソファに寝転がり、スマートフォンと同期させたテレビで動画投稿サイトを見ていた。ファンメイドの『ライオットボーイ』手書き動画などだ。

 共用スペースのドアが開き、日与が入ってきた。レインコートを脱いで玄関のフックにかける。

 昴が起きる。

「お帰り。いいものあった?」

「ああ」

 日与はテーブルに買い物袋を置いた。買出しは交代で行っている。今日の昼食は日与の番だ。

 昴は共用スペースの台所から茶のボトルとコップを二つ持ってきた。そのあいだに日与は弁当を二人前出して並べた。

 昴は目の前に置かれた弁当をためつすがめつした。弁当のトレーは四つに区切られており、ゼリー状のものが二つ、豆状のものが一つ、ビスケットのようなものが一つ入っている。

 昴は眉根を寄せた。

「何コレ?」

「天外の味だ。フォートにはなかっただろ」

 昴は弁当のトレーの蓋を見た。「合成食品弁当 春の味」と書かれている。

 天外市は汚染霧雨を初めとする公害によって一次産業が壊滅的被害を受けたため、食料品の大半は市外から来たものだ。今となっては屋内栽培・養殖技術が確立しているが、コストがかかるため割高なのが現状である。

 そこで天外の企業連はより安価で栄養価が高く、大量生産が可能な食品を開発した。それが合成食品である。

「「いただきます」」

 昴はスプーンで乳白色のゼリーをすくい、じっと見つめてから食べた。

 牛乳プリンのような見た目だが粥のような味である。果汁ゼロパーセントジュースめいた化学調味料の風味がする。

 赤みがかったゼリーのほうは豚肉の煮汁を固めたような味、豆のようなものは煮豆をペーストにしたような味。

 ビスケットのように見えるものは外側がカリカリ、ザクザクとしていて、中の緑色の部分はしっとりしている。外はスナック菓子、中は野菜ペーストのような味がした。

 いずれも「~のような味」としか言いようがない。

「これのどこが春の味なの?」

「山菜の天ぷらが入ってるだろ」

 日与はビスケットのようなものをフォークで差して昴に見せた。

 昴は驚いて目を見開いた。

「コレが天ぷら!?」

「うまいだろ」

「うーん、まずくはないけど」

 日与はこの不気味な弁当をうまそうに食べている。彼はこの市《まち》で合成食品を食べて育ったのだ。

 好奇心の強い昴としては面白い経験ではあったが、毎日食べる気にはなれなかった。


(合成食品を食べてみよう 終わり)


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