ひとり夏を悼む

 外に出てみたら風が完全に秋のそれで戸惑ってしまう。蝉は死に絶えた。夏は逝ってしまった。秋がひたひたと私をとりかこむので、私は逝ってしまった夏の欠片を探して、探して、探し回って、そうして僅かでも夏が残っていはしないかと思ってみたのだけれど、入道雲はうろこ雲に様変わりしてしまったし、風に湿気は含まれていない。どこを探しても蝉は屍骸すら見付からないし、スーパーのスイカは隅っこに幾つかあるばかり。原色の季節は淡色の季節になってしまった。どうやら本当に夏は死んだ。それは間違いないらしい。様変わりしてしまった世界に付いていけないでいる私はまるで言葉の通じない世界に取り残されてしまったみたいだ。そうして一人、夏を、悼むのだ。

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