レム
「…rapid eyes movementだね」
「なにが、」
「最も深い睡眠状態で、覚醒には強い刺激が必要であるが、脳波は覚醒時と同様の振幅を示し、開眼時のような速い眼球運動がみられる時期。睡眠中に繰り返し現れ、夢を見ていることが多い。逆説睡眠。レム。 ……つまるところ、先刻までの君」
「成る程。確かによく眠ったね」
それというのも……そう続けて君は僕の脇腹に口付けた。
「手酷くし過ぎだからでしょう?」
「さぁ、そんなつもりはないけれど」
そう云って君の掌に恭しく口付け。室温がどこかうまくいかずに寒くて震えたまま僕らはシーツにくるまってまどろむ。君の足は酷く冷たい。まるで金属だ。 足に反して肢体はとてもあたたかだった。 彼女が彼女たる輪郭をゆっくりなぞってみる。
「……どんな夢を見ていたの、」
「……ん。なんでかな…衛生博覧会に二人で連れ立って行く夢。高速道路の8割が水で埋まっていてね、道路がすごく深いの。車は水のなかをざぶざぶ進んで、まわりはカモメでいっぱい。夢のように止まった景色のなかで虹が綺麗に見えてた、」
泣きそうなくらい淋しい顔で滔々と喋った君の 手 が あたたかだった か ら。彼女の顔が驚愕するくらいの力で身体を抱きしめた。頭の中で冬空みたいに冷え切った警鐘音が聞こえた気がした。くらくらする。強く強く繋ぎとめる。この世に。僕の元に。何処にも行かないで。どうかどうか。
「……なんて儚い願いだ」
君は苦しそうに僕の腕に僅か抵抗をみせて。それから額にくちびるに沢山沢山キスをくれた。
「……死んだって一生一緒だよ。どこにもいかないから、」
その後、僕らは飽きもせずにキスを繰り返した。 外は寒い冬の朝。
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