曼珠沙華心中

 ねぇ、私と戯れてみて、そう声は響いてがさがさと河岸の草を掻き分けて逃げまどう。わたしは道端で足元の石ころを弄びながら、戯れてって言われてもなぁ、と呟く。彼女が放り出した学生鞄にわたしの鞄を重ねて、ゆっくりと河岸をくだる。曼珠沙華の根をなるべく踏まないように。根ではなくて踏まないようにするのは茎や華ではないかと思うけれど、曼珠沙華の根には毒があるらしいので気を付けて進む。裸足ではないから踏んで何かなるわけではないけれど。ちゃぷん。と水音がして見れば殆ど水のない浅瀬に彼女は制服ごと横たわっていた。仰向けで、手を胸の上で組んで。せせらぎにも満たないような控えめな水音が夕暮れの世界に優しく反響する。わたしもついに制服を水に浸して目を開かない彼女に近寄る。左胸に右耳を付けた。水音で心音が聞こえてこない。俄かに心配になり、勢いよく起き上がり名を呼ぼうとした瞬間、水のなかから伸びて私を捕まえる両手。派手にあがる水飛沫。びっくりした? 死んだと思った? とまた賑やかになる彼女に合わせて、驚かせないでよと笑う。頰に飛び散った雫が涙のように流れて、一緒に死ねたならどんなに良かったか、と声にならない声で叫んだ。

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