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日記(2024.01.22〜01.26)

  まとめて今週の記録をしておこう。

 1月22日(月)は、大手町三井ホールで舞台『ある閉ざされた雪の山荘で』を観てきた。
 東野圭吾先生の小説が原作。この原作小説は、私が既読の東野作品でもかなり好きな作品だ。ベスト5に入るかもしれない。
 この舞台版の構成・演出は野坂実氏(ノサカラボ)。脚本は米山和仁氏。

 原作が好きだった、というのも観劇の大きな理由だったけれど、実を言えば『ルームメイトと謎解きを』にご出演だった加藤良輔さんが出演なさっていることが最大の理由であった。
 また、この公演の主催の「ノサカラボ」さんにも大変興味があった。公式サイトから引用させていただくと、「2021年より始動した、世界中にある名作ミステリーを舞台化・上演していく長期プロジェクト」とのこと。
 この「ノサカラボ」さんは昨年、アガサ・クリスティー原作の『ホロー荘の殺人』(私の偏愛するクリスティー作品!)を手掛けられており、その『ホロー荘』には、やはり「メイ解き」にご出演だった松村優さんが出られていたとか。観たかった……。
 というわけで、個人的にはどうしても見逃せない舞台だったのです(去年から「メイ解き」の話ばかりしているな)。

 前置きが長くなったけれど、以下本編の感想。
(※いわゆる「ネタバレ」はしませんが、良かった点などを多少具体的に書きますので、ご観劇予定のかたはお気をつけください)

 この作品は、山荘に集められた7人の舞台役者たちが繰り広げる密室ミステリー。
 変人の演出家・東郷が手掛ける次の舞台のオーディションに受かった彼らは、東郷からの書面での指示に従って、今いる山荘が「雪に閉ざされている」という設定で過ごすことになる。
 そして、翌朝ひとりの役者が姿を消す。果たしてこれは単なる芝居の「設定」なのか、現実の殺人事件なのか――。
 というストーリー。

 こういうストーリーだという時点で、「舞台で観る」ことに大きな意味がある作品だよな、と思う。原作小説には「小説ならでは」の部分もあるのだけれど、舞台もまた「舞台ならでは」の楽しみ方ができる(曖昧な言い方になってしまうけれど、読むか観るかなさったかたには通じるはず……)。

 この公演、素人が真っ先に抱いた率直な感想は「ゴージャスなセットだな」というものだった。なにしろ、山荘が二階建てなので。そのゴージャスなセットを、演者の皆さんがめいっぱい使って動き回るので、まずは視覚的にとても豪華な舞台だった。
 あと開演前、会場内で「山の中」風の音声(カラスの鳴き声や葉擦れの音)が鳴っていたのも芸が細かくて楽しい仕掛けでした。

 限られた空間での密室劇、という作品だけに、場面にどうメリハリをつけていくかは出演者のかたおひとりずつの力がかなり重要なのだろうな、と拝察する。だれることなくテンションが保たれていて、最後まで楽しめた。とくに主演の室龍太さんは台詞量もかなり多く、お見事だなと思った。
 加藤良輔さん演じる田所という男は、劇中でもとくに感情表現が激しい人物で、熱演に引き込まれた。

 原作を初めて読んだのは小学生のときだが、印象的な構造のお話なので、わりと細かい部分まで憶えている。その記憶からすると、とても原作を忠実に舞台化していたな、と感じた。とくにラストの推理部分が全然はしょられておらず、「推理を魅せる」という作り手の意図が強く伝わってきたところが素敵だった。

 ――そんなわけで、たいへん楽しい観劇でありました。


 あ、そういえばこれ、一応今週の日記だった。以下はダイジェストで。

 翌23日(火)は執筆に没頭し、短編をひとつ完成させた。
 24日(水)に通して見直しをして、某社の担当さんに送稿した。プロットを捏ねあげるのに相当苦心した作品だったけれど、執筆期間自体はわりと短かった。

 プロット作りと執筆のバランスは最近の大きな悩みだ。ミステリだから、完全なノープロットで行き当たりばったりに書くことは怖い。でも、これまでの自分の創作を振り返ってみると、大半の作品は細部未定のまま書き始めている。「この部分をどうクリアするか」みたいな課題が残っているときでも、とにかく書き始めてから考える!ということが多い。
 で、近ごろ練っている作品はプロットの時点で「これ、どうすれば面白くなるかな」という悩みや不安と闘っているのだけれど、やっぱりこれも、もう書き始めちゃったほうがいいんだろうな、と今は思っている。
 昨年上梓した『案山子の村の殺人』にしたところで、担当さんに送ってゴーサインが出たプロットと、完成した作品は全然違っている。かなりざっくりとした「事件の構図」だけはそのまま活かしたけれど、登場人物の名前や職業はほぼすべて変わった。舞台のモチーフである「案山子」もプロット時点ではいなかったし、そもそも「足跡なき殺人」のトリックすら、プロット段階では存在しなかった。
 こう書くと、えらく乱暴な仕事の仕方だな、と我ながら呆れるけれど、それでも担当さんは完成原稿を(私自身が驚くほどに)評価してくださった。やはり私は「書きながら膨らませていく」タイプの書き手なのではないか?という気がする。

 そうそう、『ルームメイトと謎解きを』も、担当さんに提出したプロットはかなりざっくりしていたし、「犯人特定の消去法ロジック」も考えていなかったのだ。「とにかく消去法でこの人だけが残ります!」というプロットだった。推理作家がそれでいいのか。
 でも、決め過ぎなかったから登場人物たちが立ち上がってきて、結果的に楽しくなったという気がする。
『ルームメイトと謎解きを』では中盤から警察官の「千々石警部」というキャラクターが出てくるけれど、彼女はプロットの時点では存在しておらず、物語が走り出した後に「必要だな」と思い登場させたキャラクターだった。舞台での青野紗穂さんの好演が忘れがたい、とても大切な人物である。
 こういうことがあるから、「書き始めた後」にどれくらい実力を出せるかが大切なんじゃないか?と真剣に思う。
 プロットで苦しみすぎない。書いてみる。勇気が要るけれど、ここは自分を信じて試してみようか。

 話が飛んだけれど日記の続き。25日(木)はひたすら掃除をした。生活空間がわりとましになった。掃除って気持ちいいですね。
 26日(金)は、ぼやぼやと本を読んだり仕事をしたりしたあとに外出した。
 最近、観劇の機会が増えてチケットが机の中に溜まってきたため、「チケットホルダー」を買って保管することにしたのだ。
 買って帰ってきて、チケットを一枚ずつホルダーに入れていった。

『ルームメイトと謎解きを』を観劇したときの9枚のチケットも、丁寧に1枚ずつ収めていく。あらためて、素晴らしい舞台だったな、と思う。
 このチケットに記されている「原作:楠谷 佑「ルームメイトと謎解きを」(ポプラ社刊)」という文字列を見て、頑張らなくちゃ、と決意を新たにした。
 あの素晴らしい舞台に恥じないように、真摯に作品作りに取り組むのだ。

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