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『【推しの子】』を読む

「週刊ヤングジャンプ」で連載中の漫画『【推しの子】』を、最新12巻まで読んだ。
 原作は赤坂アカ氏、作画担当は横槍メンゴ氏。

 兄がこの作品に大層ハマっているらしく、今月の初旬に11巻まで貸し出してくれたのだ。いわゆる「布教」というやつである。以前、友人から「面白い」と聞いて気になっていたこともあり、有難く借りて読んだ。
 読み始めるとやはり面白くて、一気読み。つい続きが気になってしまって、先日出たばかりの12巻も自分で買って読んだ。

 せっかくなので、感想を書き留めておきたい。
 以下、単行本1巻ラストまでのネタバレを含むので、未読のかたはお気をつけください。

感想(単行本1巻までのネタバレあり)

1巻まるごとプロローグ

 単行本1巻がまるごと「プロローグ」扱いされているのだからすごい。描き手はもちろん、編集部の気合いも伝わってくる。
 週刊連載って、連載継続の可否をすごくシビアに見られるイメージだったので、こんなに丁寧に語り起こしていいんだ、というのが意外だった。作者のお二方のキャリアがあってこそ許された構成なのだろう、とも思うが。

 とりあえずあらすじを書いてみる。

 産婦人科医・ゴローのもとに、彼が推しているアイドル・アイがお忍びでやってくる。彼女は双子を妊娠しており、ゴローはアイが無事に出産できるように尽力する。しかし出産当日、ゴローは何者かに殺害され、アイの息子「愛久愛海(あくあまりん、通称アクア)」に転生する。
 一方、双子の妹・瑠美衣(るびい、通称ルビー)も「アイ推し」の女児の生まれ変わりだった。彼女の前世は、じつはゴローが看取った患者なのだが、ふたりはお互いの正体に気づかない。
 双子は「推しの子供」として平和な日々を過ごすが、ドームライブを目前にしたある日、アイはファンに刺殺されてしまう。
 実行犯は自殺し、事件は表向き解決したが、アイの住所をリークした内通者は不明のまま。アクアは状況証拠から、その人物は自分たちの血縁上の父親だと悟り、彼の正体を突き止めて殺害することを決意する。

 いろんな要素が盛られまくっていて、カロリーが高い話だな、というのが第一印象だった。とはいえ、やはり多くの読者から支持されている作品だけあって、複雑化しすぎずに絶妙にツボを押さえていた。

『名探偵コナン』の面白さ

 いわゆる「転生もの」が当世流行のようだけれど、私は今ひとつそれらの作品群に対して食指が動かなかった。
 しかし、「転生」要素が含まれる『推しの子』を今回読んでみて、「あ、そっか」と腑に落ちた。

「転生」の面白さはたぶん、『名探偵コナン』の面白さと似ているのだろう。

『コナン』は私も大好きな作品である。
 高校生探偵・工藤新一が、謎の犯罪組織に毒薬を飲まされて小学生の姿になってしまい、「江戸川コナン」と名乗って正体を隠しながら組織を追う――というのが、『コナン』のストーリーだ。
『名探偵コナン』がメガヒットしたのは、やはり「見た目は子供、頭脳は大人」というフレーズに象徴される、主人公の特異な設定によるところが大きいと思う。
 見た目と中身にギャップがある主人公は見ているだけで面白いし、身体的なハンディがあるから応援したくなる。言いにくいことだけれど、「幼馴染の女子の家に子供の姿で同居する」という設定には、願望充足的な魅力もあるだろう。
 ただ、『コナン』は女性ファンが多い作品でもある。これは作者の青山剛昌氏が少女漫画から強く影響を受けた「ラブコメ」の描き手であることも無関係ではないはず。「小さな身体で大切な女の子を守るヒーロー」であることも、コナンというキャラクターが愛される所以なのだろう。

「転生」が支持される理由として、「読者に人生のリセット願望がある」みたいな強い論調を前に読んだことがあって、それで少しひるんでしまっていたのだが、そこまでの願望がある読者はさほど多くないんじゃないだろうか。
 単純に、見た目と中身のギャップがある主人公って、それだけで面白いのだ。コナンのように。

 話が逸れてしまったが、『【推しの子】』は、『コナン』的な面白さを多く含む。
 まず、主人公のアクアは前世が医者ということもあり、かなり賢い。頭のキレる主人公が、幼い見た目とのギャップで周囲を圧倒していくという展開は、やはりなんとも言えない楽しさがある。また、「推しているアイドルの赤ちゃんになる」という出だしは、願望充足要素の究極系という気さえする。
 そして『【推しの子】』は、1巻のラストで「父親を見つけ出す」というミステリに転調する。コナンが光のヒーローであるのに対して、アクアは殺意を秘めたダークヒーローだ。でも、「正体と目的を隠しながら、犯罪者を探し出す主人公」というスタイルは共通している。
 作者が『コナン』を参考にした、と言いたいのではない。
 ただ、愛されるエンタテインメントの王道のひとつが、ここにあるような気がしたのだ。

(そういえば『【推しの子】』は「父親殺し」がテーマだ。すぐエディプス・コンプレックスとか言い出すのって、おっかない考察オタクの典型みたいで恐縮ですが、この作品の面白さは人間の原初的な願望をダイレクトに刺激してくるところにあると思う)

「秘密」とラブロマンス

 そうそう、「見た目と中身にギャップがあって、その秘密を隠している主人公」って、やっぱりラブロマンスを面白くするのだろうな、と感じた。
 また『名探偵コナン』の話になってしまうけれど、単行本18巻から出てきた「灰原哀」というキャラクターは、今年の映画でメインを張るほど人気が出た。人気の理由は性格やビジュアルなど多岐にわたるだろうが、「主人公と秘密を共有している」というポジションであることも大きいだろう(コナンと同様に幼児化している18歳の女性という設定で、コナンの正体を知っている人物のひとり)。
 コナンが好意を寄せているのは幼馴染の毛利蘭なのだが、コナンと灰原の関係に熱い視線を注ぐファンも少なからず見受けられる。

『【推しの子】』においては、ヒロインと呼べそうな女性が3人ほど登場するけれど、「アクアの正体(目的)をどれくらい知っているか?」という部分が描き分けられている。
 こういう描き分けが、「どのヒロインに感情移入して読むか」という読者の温度差を生み出して、ファンダムを加熱させるような気がする。

「秘密」とラブロマンスって、やっぱり相性がいいのだろう。

結論:アツくて面白い

 なんだか、突き放して論評するみたいな書き方になってしまった気がする。
 言い訳すると、あまりにも「面白さ」の神髄が詰まった作品だったから、つい解剖してみたくなったのだ。作品に単にのめり込むだけでなく、こういう「あれこれ言いたくなってしまう」面白さも、作品そのものの強みだと思う。

 冒頭にも書いたけれど、作品自体がたいへん面白かった。
 メインストーリーは「父親捜し」だけれど、芸能界の悲喜こもごもを描いた部分がそれだけで面白い。プロデューサー、脚本家、原作者といった各関係者の譲れないプライドと信念が描かれていて、お仕事ものとしてもかなり「アツい」のだ。
 個人的には、単行本5巻、6巻あたりのエピソードがかなり好みで、のめり込んだ。

 というわけで『【推しの子】』、とても面白いですよ。
(『コナン』の話ばかりしてしまってすみません)

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