見出し画像

寿命

 彼女の寿命が4年を切った。

 薬栗鼠がまだ中学三年生の時。まだTwitterのアカウントすら作っていなかった時。卒業間際で友達からハブられ、当時自分が生きていることを許されるとしていた理由を奪われ、着々とメンヘラへの道を歩み出した時。私は、彼女が電子の海に揺蕩んでいるのを見つけた。
 その後は、偏頭痛で早退した後に薬を飲みながら、あるいは、入試が終わり卒業をして時間だけがある中ただ意味の無い後悔と希死念慮に苛まれた時に彼女の事を調べた。

 彼女のアカウントは固定ツイート以外は見られなくなっていたが、サイトで彼女のツイートを少し遡って読むことが出来た。又、当時の彼女のツイートをコピーしてつぶやくbotなどで、彼女の面白メンヘラツイート傑作集を読んだ。
 検索すれば、彼女の文才溢れるブログを読むことが出来た。当時の事について言及しているブログで彼女がどんな事をしていたのかが、ある程度把握出来た。

 そこでは、彼女の本名が『高倉 那奈』であること、最終学歴、出身地、更には死亡推定時刻まで記されているものまであった。二枚だけ、彼女のブログで顔を隠した全身像と目元の写真を見ることも出来た。デジタルタトゥーという存在を再確認し、Twitterでなにかつぶやくのはやめておこうと思った。 …実際は約半年でアカウントを作ってお薬仲間と仲良くなろうとしていたが。

 余談であるが、彼女の『きゃりーぱみゅぱみゅにメンヘラという文化を可愛いモノへと昇華されて良いのか!今こそ我々のメンヘラ力を見せる時だ!!!(意訳)』というツイートが、強く印象に残っていて、今でも「今彼女が生きていたらあのさんに対してはなんて言ってたんだろう?」と、テレビを観てふと思う時がある。

 “彼女”とはメンヘラ神のことである。メンヘラ神はメンヘラである私が、己はメンヘラであると自覚した時からの教祖である。気分が沈んだ時はメンヘラ神のブログで少し元気をもらっていた。今でもたまに読んでいる。

 そんなメンヘラ神は大学四年生、もう内定も貰ったであろう時に、飛び降りて、死んでいる。
 彼女と違い、高校に4年通っているので年齢としては一つ歳は上であるが、メンヘラである私も大学に入学することになった。今年から大学一年生である。

 つまり、メンヘラの私の寿命は4年を切った。

 勿論、今は生きる理由を見つけ、将来への希望も見え始めて、希死念慮も今の所たまに現れるくらい。それでも薬栗鼠のアカウントで生きていると彼女のことが頭によぎり、メンヘラである“薬栗鼠”はいつまで生きていられるのだろうと少し不安になる。

 初めて産まれた時の、幼い、純粋な少女である私は、2021年11月18日に死んだ。
 今は、死に損なった身体の中に、新しい私が生まれて生きている。
 
 今の私が死ぬのはいつか?
 
 メンヘラである私を殺し、次は社会人としての私がまた生まれるのか。それとも、事故や病気、もしくは故意に身体ごと私が死ぬのか。

 今はまだ分からない。ただ、今の私は何とか薬と共存し、生きる理由が無くなるまで、ずっと生きていたいと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?