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組織運営の技術

組織運営の技術-権限委任

 

 先日まん延防止等重点措置が解除されました。解除の決定は政府が下しましたが、決定までの手順(Procedures)を見る限り形式的な手続きを踏んでいるだけのようにみえます。政府が解除声明を出すまでの手順は都道府県知事の措置解除要請に基づいて政府が解除原案をまとめているようです。次に専門家会議(分科会)に政府原案を諮って専門家会議の同意を得たうえで、政府案を国会に報告した後に解除通達を発出しています。専門家会議や国会報告などの一連の手続きは儀式のようで、責任のある政府がお墨付きをもらうための手順を踏んでいるとしか見えません。政府の原案は専門家会議に諮問する前にまとめられていますから、専門家会議で実質的な討議が行われたとしても、政府原案を変更することは困難だろうと想定できます。

この手順は緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出においても同様で、一連の儀式のような手続きを経るようになっています。しかし、政府が責任者として専門家の意見を尊重して政策を決めるならば、政府原案決定以前に専門家の実質的な討議を参考にしなければ意味がありません。それには、政府が都道府県知事の要請を受けた段階で、専門家会議の開催を依頼し会議の諮問に基づいて政府の原案を決定するのが順序ではないでしょうか。

お墨付きを与えるだけの会議はいわゆる「御前会議」と言われ、いまだに多くの組織で行われています。「御前会議」には自由に発言する空気がありませんから、出席者は黙って座っています。出席者から発言がないのは満足しているとみられ、出席者は「案」に賛成し異議なしと解釈されて、原案は原案通り承認されます。したがって、「案」に異議を唱えたり変更したりすることは、根回しの段階でコメントしない限り困難です。会議で承認されたことは記録されますが、誰が責任をもって決定したのかは不明瞭です。「御前会議」は責任の所在を明確にしないシステムといえます。

手続きを儀式で終わらせずに内容のあるものにするためには、関係部門のポストに付随する責任を明確にする必要があります。ポストの義務は規則に書かれていますが、多くの組織はポストに任命した人に義務と責任があるように組織を運営しています。権限(Authority)がポストではなく人にあることは、組織の発出文書を見れば明らかです。多くの組織で組織の部局名と印鑑で文書が発出されています。権限は人ではなくポストに付随したものであり、文書はポストに任命された人がポストの権限に基づいて発出するのだという考えがありません。ポストの権限が規則に明確でも、ポストに任命された人が就くポストへの権限委任(Authority Delegation)が行われていないのです。あたかも権限はポストではなく人にあるかのように、人への権限委任が阿吽の呼吸で行われています。「あの人なら任せて安心だ」という風に。

しかし、委任状(Power of Attorney)により全権を委任された人が全権委任をフリーハンドと誤解して不祥事を起こす例は枚挙にいとまがありません。組織におけるポストへの権限委任という概念があれば、ポストに任命される人は委任された権限の範囲内においてのみ全権だという認識を持つことができます。ポストの責任を明確にして権限をポストに権限委任することで、誰がポストに就こうともどのポストの人が交代しようとも組織は以前と変わりなく同じように淡々と運営されることができます。

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