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施設環境(Working Facilities)

 コロナ禍で行動に制限があったときは過ぎて、今年は去年よりもっと通常の生活ができるようになっています。くわえて三十数年ぶりという円安によって、外国からの旅行者がコロナ禍前の水準かそれ以上に増えています。毎月300万人を越える外国人が日本を訪れているのです。インバウンドの人が有名な観光地を訪れるのは当然ですが、日本人でもあまり知らないような地方の伝統文化を経験するために訪れる外国人も少なくありません。
日本中の観光地で観光客のマナー違反がひん発して、オーバーツーリズムが問題になっています。誰でもスマホからSNSへ投稿することが当たり前になって、観光客の写真スポットでの傍若無人ぶりが問題となっているのです。観光客の度を越したふるまいは、地域住民の日々の生活に大きな影響を与えています。
日本の観光地には大陸にあるような雄大な景色が見られるところはありませんが、外国人には、見栄えのする富士山や神社仏閣の建物や庭が周りの自然に溶け込んでいる風景が珍しいのかもしれません。長い時を経て人工とも自然とも区別のつかなくなって、全体が小さくまとまっていている落ち着いた雰囲気の旅先が人気のようです。
お店や旅館で仕事をしている人の丁寧な接客スタイルも人気があります。先進国と違い日本では接客業に従事している人が、座って接客するのはお客さんに対して失礼だという見方があるのかもしれませんが、多くの人が立って仕事をしています。
多くのデパートの店員やスーパーのレジ係と銀行の窓口業務やチェックインカウンターの担当者が立って接客をしているのです。接客業ではありませんが、交通整理の警備員や炎天下でも立って仕事をしなければならない職業に従事している人もたくさんいます。
働く場所に椅子などの設備がないのは、設備を整えるとお金がかかるということよりも、働く人の環境や作業効率などを考えていないことが主な理由のようです。
店員やスーパーのレジ係と銀行の窓口業務やチェックインカウンターの担当者が可能な限り座って仕事をし、炎天下で作業する人が仕事の合間に日傘のある椅子に座ることができるようにすれば、働く人の気分は変わって労働生産性が改善できます。施設の環境整備は働く人の満足度を上げるために必要なコストです。
西洋でインフラ整備が古代ローマ時代に始まった歴史と比べると、日本の近代的なインフラの整備は、明治以来約150年しかたっていません。地域住民の生活を支えるインフラが未だに十分に整備されていないのは仕方がないことです。一時に大勢の外国人が観光地を訪れることは想定されていませんから、まだ観光客の受け入れ施設が十分に整備されていないのは当然なのです。
一般に日本では建物は小さく道路は狭く駐車場は大きくありません。昔から日本人が小さかったこともあるでしょうが、平地の少ない日本では施設が狭くて小さいことは当たり前だったのかもしれません。
日本人が小さいものを作るのは、狭い土地や費用の節約が主な理由ではありません。茶室にみられるように不要なものをすべてそぎ落として、単純化されたものに美を見て精神を発達させるという文化があるからです。日本人は侘び寂びと武士道に美を感じて、寺子屋で精神を養ってきました。住まいは狭くて小さくて生活は貧しくとも、我慢をして美をめでて精神を鍛える文化を育ててきたのです。
わたしたちのDNAに刷り込まれている文化ですが、最近の円安を乗り越えて日本が元気で先進国の仲間でいるためには、日本で働く人が元気でなければいけません。働く人の施設環境の整備には費用が掛かりますから、予算の使い方を再検討するときです。円安でも内外から日本が選ばれる国でいるためには、先進国並みに働く人の施設環境を整備していくことは必要なコストです。

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