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品質管理(Quality Control)

日本経済が成長していたころ不正行為が明らかになることは稀でしたが、経済の停滞が長く続くなかで、最近不正が次々と明るみに出るようになりました。
日本社会が先進国から後れてきているといわれるようになった原因の一つに、多くの組織が長期にわたって品質に関わる不正行為を行っていたことがあります。不正が明らかになった組織の責任者が、テレビで頭を下げる姿を何度も見てきました。日本製品が得てきた高品質による絶対的な信用が揺らぎ始めているのです。
不正は世界をリードしている業界で長い間行われていたのです。不正行為の多くが試験データの改ざんやねつ造したり、形式証明に必要な試験をしないで申請書を作成し承認を受けたりして、製品の品質が国に保証されているように見せていました。
実害のあった不正もありましたが、多くの不正行為は実害を出していません。実害がないからと言っても、ブランドの品質を信じてきた消費者をだます行為であることに違いはありません。
このような不正行為が明らかになるのは製造業ばかりではありません。芸術作品や設計図書、論文などでも不正が明らかになったケースは枚挙にいとまがありません。
冷凍のクリスマスケーキが家庭に配達されたときにクリームが溶けていたことがありました。冷凍のクリスマスケーキは製造者が作って倉庫に保管した後、配送業者が予約した消費者に配送していました。
一つひとつの作業工程について、問題なく作業が完了したという記録が残っていると思いますが事故は起こりました。製品の品質を保証するためには冷凍のクリスマスケーキという商品だけではなく、製造から配達まで作業工程の一つひとつが信用できるものでなくてはいけません。販売者は原因を特定できませんでした。
イベントの観客用仮設スタンドの設置工事で、建築基準法違反がありました。仮設スタンドの組み立てを依頼するときは、図面と仕様書を準備します。仕様書に基づいて設計通りに施工が行われたことを確認して記録する手順書も用意します。組み立ての完了確認検査書や工事執行記録を確認すると違反がいつ、どこで、どのように行われたかがわかるようになっているのです。主催者は違反に気が付いていませんでした。
製造品は一つの工程が完了すると次の工程へ引き渡されて、担当者がその都度変わる流れ作業で製造されます。引き渡しには作業ごとの作業完了証明書と引き渡し検査証明書が記録として残されます。在庫の出庫時には出荷証明書や配達時の配達証明書を残します。記録をみるとだれが、いつ、どこで、どのように作業を完了していつ、だれに製品を引き渡したのかが追跡できるようになっているのです。工程の一つひとつの記録が残されていて、検証できるときに初めて製品の品質は保証されます。製品の品質が管理されているだけでは十分ではないのです。
私たちが新鮮な魚をお刺身にして食べられるのは、漁師さんが海で魚を取るところから、流通業者を経て料理する人に渡るまでのすべての工程で生食の安全が保証されているからです。お刺身は漁師さんから運搬者、料理人までの全工程を含めた私たちが誇る文化なのです。生の魚がお皿に載っているだけでは文化はではありません。
形あるモノであろうが形のないモノであろうが、日本のモノは高く評価されてきました。アニメ作品やファッション、日本料理などは非常に人気があります。日本には高品質のモノを製作したり、品質の高い作品を制作や創作したりする力があります。外国人にも人気のある私たちが誇るモノには、本来製作、制作、創作の過程で不正を働く余地はありません。
いろいろな分野で長らく不正行為が続けられてきた理由は、有形無形の製品や作品に不正があっても不正を探知するシステムが作動していないからです。多くの品質管理は書類をそろえることが目的化しており、不正行為が行われたとしても書類がそろっていれば十分な品質管理が行われていたと判断してしまうのです。
不正が行われても問題が表面化しないのは、現場で不正が行われても一連の作業が管理部門では検知出来ない業務手順で進められているからです。日本の多くの組織はISO9000番シリーズの品質保証の認定を受けています。不正が探知できないのは、業務の執行にあたって組織の体質や作業の手法などに問題があって組織運営の品質を保証する手順で行われていないからです。
不正行為はモノの品質管理(Quality Control, QC)の問題ではなくて、問題は不正行為が行われても感知できない組織の運営にあります。形の見えない組織運営の品質(Quality Assurance, QA)が十分に保証されていないことが問題なのです。
組織の管理部門が不正行為を検知出来ないということは、モノの品質管理(QC)は十分に理解されていますが、各作業と運営の品質を保証すること(QA)の重要性が十分に理解されていないからです。現場部門の作業手順と管理部門の作業手法という組織運営の全体を保証するシステムを十分に働かせる必要があります。
作られた製品や作品の品質は、不正行為によって信用を無くします。信用を無くすと、組織の運営が信頼できなくなります。組織が信頼をなくすと、責任者の経営責任は逃れられません。日本が伸び悩んでいる原因の一つです。

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