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飼い猫くまの脱走が思い知らせてくれたこと

圧倒されてもいいや。
そんなことを思う。

2月13日の朝、私は飼い猫くまを脱走させてしまった。知人のしていた、ネコのハーネス散歩を真似したのが事の発端だった。

ハーネスをつけて、地面に置いて、それからスルスルスルっと、液体のように抜けていった。大パニックの私と夫は、大きな声を出して、余計にくまをびびらせて。くまは家の横の崖に、ぴょーん!!と大きく飛んでいった。

それからくまの大捜索が始まった。
ペット探偵の使っている道具はとりあえず買った。双眼鏡、トレイルカメラ、それから捕獲器は保護ネコ団体に借りた。

それからずっと、手がかりはないかと探し回った。

1日目の夜に細い声が聞こえた。
2日目の夜には、姿形がはっきり見えたけれど、3日目はあいにくの雨で、冷えてないか、死んでないか、もう昼間は気が気じゃなかった。

あまりにも私の姿がひどい有様だったので、夫にもう1匹のしまと3人で生きていく覚悟もしよう、とその晩に話をした。

その話をした直後、手掛かりになるかも、と置いていたカメラにくまがハッキリと映っていた。

映ってる!!!!

叫び出しそうな気持ちを抑えて、くまにこの焦りを悟られないように、裏口を開けて、布団を敷いて、静かに寝た。

確証はないけれど、あまりに焦ってしまうと、また外に飛んでいってしまいそうで、あくまでも普通に、あくまでも「あぁ、帰ってきたのね、おかえり」と軽い態度を出しつつ、を意識しようと、心に決めて寝た。

朝6時、おおきなおおきな、あの子の声が聞こえた。

じっと目を凝らしてみると、そこにはくまの姿があった。

あぁ、あぁ。君が帰ったきた。
この子は我が家を選んでくれた。

ひょいっと抱え上げ、扉を閉めた。三日三晩の出来事だった。夫を大声で起こし、くまにごはんとお水をあげた。しばらくするとトイレに入り、おしっこをしてくれた。

あぁ、あぁ。くま、くま!!

うれしかった。
世界に色が戻って、家族が揃っているって、普通じゃないのだ、と身に沁みた。

君たちが幸せに寝ていれば、夫が健康であれば、そして私も幸せであれば

もうこれ以上は何にもいらない。

そしてそれと同時に、これがあるなら
私はなんでもできると思った。

お金の勉強だって、
保育士の勉強だって、
ちょっと嫌な人間関係だって、
ちょっとまずいご飯だって、
めっちゃ嫌な仕事だって、
なんだってなんだって
乗り越えて行けると思った。

失っていなくても気付いている。そう思っていたけれど、くまがいなくなって気付いた、失うって、絶望なのだ。

くまは帰ってきたけれど、帰ってこないことなんて世の中にはごまんとある。災害、事件、事故、数えきれない。当たり前じゃない日々が、今日ここにあること。


何もしなくていいし、なんでもしていい。

ウジウジと去年の仕事を引きずっていた私に、大きな学びをくれたくま。

苦手だけど、人の中で話していい。
怖いけど、新しい場所に行っていい。
違和感があったなら、仕事も辞めていい。
何にもしたくないなら、何にもしなければいい。

だから今日は山から街へ。
背中に隠れず、昼スナへ。

昔だったら、一人じゃいけなかったけど

痛くて痒くていいや、と思う。
君らがいれば、なんでもいいや。

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